デジタル化でよくある5つの課題
デジタル化を推進する中で見られる課題として、以下の5つが挙げられます。ここでは、それぞれの課題について解説します。
デジタル人材の不足
デジタル化を推進するには、デジタル技術や知識に長けた人材が不可欠です。内閣官房が2022年12月23日に閣議決定した「デジタル田園都市国家構想総合戦略」では、デジタル化を進める上で最低限必要な人材を330万人と推計しています。しかし、2022年時点の情報処理・通信技術者数は100万人となっており、どの業界においても人材確保の課題が懸念される状況です。
企業や自治体によっては在籍している人材をデジタル人材へと育成するケースもありますが、知識やスキルがない状態から適した人材に育て上げるためには相応の時間や手間が必要です。特に古いシステムが残る自治体では、さらに人材不足を解消しづらい状態といえます。
既存のシステム・運用方法への固執
デジタル化を進めるにあたって、新しいシステムや運用方法を取り入れる必要があります。しかし、慣れ親しんだ既存のシステムや運用方法に固執しているケースも少なくありません。IT技術が進化する中、使い勝手がよいという理由で刷新することを避けているとデジタル化が遅れてしまいます。
特に自治体ではアナログ文化が根強く残っており、手続きや文書管理を紙媒体で行っているケースが多いです。さらに職員だけでなく住民もこれまでの仕組みに慣れていることから、デジタル化しづらい側面もあります。
多額の費用が必要
デジタル化には、システムやツールを取り入れる際に費用がかかります。また、デジタル人材の採用・育成を踏まえると、十分な費用を確保しなければなりません。
しかし、財源確保が難しい自治体では、デジタル化に割く予算がないのが現状です。人口減少が年々加速する中で、予算問題は今後も深刻な課題となることが懸念されます。
情報漏えいの危険性
デジタル化された情報は、適切に管理しなければ情報漏えいのリスクがあります。そのため、デジタル化を進めるにあたってデジタル技術だけでなく、セキュリティに関する対策を講じなければなりません。しかし、デジタルに関する知識が乏しい場合、情報セキュリティや情報漏えいの危険性に不安を感じて、デジタル化が進まないケースがあります。
情報漏えいが発生する原因の一つとしてサイバー攻撃が挙げられますが、これは企業だけの問題ではありません。自治体を狙った攻撃も考えられるため、デジタル化を進める際は企業と同様に自治体もセキュリティ対策を万全に行う必要があります。地域住民の情報を多数取り扱う自治体において、特にデジタルセキュリティは重要な課題といえるでしょう。
導入するべきシステムが不明瞭
デジタル化を推進する意思はあるけれどデジタルツールやシステムの種類が多く、何を導入すればよいか分からないというケースも多いでしょう。導入するシステムを選ぶ際は、現状抱えている課題を洗い出す必要があります。その上で課題解決につながるシステムを選ぶことが大切です。
ただし、職員がシステムを使いこなせなければデジタル化は成功しません。デジタル化は組織全体で進めるべき取り組みです。現場でシステムを使う職員の意見や要望を適切に取り入れられる体制づくりも重要な課題といえます。
日本の企業や自治体の多くはデジタル化がうまく進んでいない
2022年3月に株式会社東京商工リサーチにより発表された「令和3年度 中小企業の経営戦略及びデジタル化の動向に関する調査に係る委託事業報告書」では、新型コロナウイルス感染症の収束後を想定し「デジタル化の優先順位はやや高い」と答えた企業が40.9%、「デジタル化の優先順位は高い」と答えた企業が25.1%でした。
一方で、2019年時点における新型コロナウイルス感染症の流行前は、「デジタル化の優先順位はやや高い」と答えた企業が31.2%、「デジタル化の優先順位は高い」と答えた企業が9.1%だったことを踏まえると、デジタル化を検討する企業が増えつつあることが分かります。しかし、デジタル化による経営の差別化や競争力の強化に取り組んでいる企業は2021年時点で10.2%にとどまっており、広く浸透している状況とはいえません。
デジタル化が思うように進まない状況は自治体も同じです。2023年4月に総務省がまとめた「自治体DX・情報化推進概要」では、地方公共団体における行政手続きのオンライン化について、2022年度の段階で申請・届出など手続きに関するシステムを導入した市区町村は全体の75.8%という結果でした。
しかし、2022年6月7日に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」において、地方公共団体が優先的にオンライン化するべき59種類の手続きのうち、2021年のオンライン利用率は55.0%でした。利用実績を見ると「図書館の図書貸出予約」「文化・スポーツ施設などの利用予約」「地方税申告手続き(eLTAX)」などの利用率は高いものの、「要介護・要支援認定の申請」「建築確認」「駐車の許可の申請」などの手続きに関するオンライン化は、ほとんどの自治体で利用に至っていません。特に介護や子育て、被災者支援関係の利用実績は低い傾向にあります。
デジタル化推進によるメリット
デジタル化推進によるメリットの一つが業務の効率化です。従来の手作業では、入力ミスや漏れといった人為的ミスを避けられませんでした。一方でデジタル化が成功するとこれらのミスを軽減できます。さらに、定期的に行うルーティン業務の自動化が可能であり、その結果、職員の負担削減や生産性の向上につながる点もデジタル化のメリットです。
また、情報の電子化によりペーパレス化が進めば、紛失や取り扱いの誤りなどを避けられ、紙媒体ゆえにかかっていたコスト削減も実現します。電子化された情報をクラウドサービスに保存することで、場所を問わず業務ができるためBCP対策としても役立つでしょう。
その他、AIやIoTの活用による新しいビジネスの創出が可能になる点や、オンライン業務によって職員が育児や介護と並行して働けるようになり、はたらき方の多様化が進む点もデジタル化推進におけるメリットといえます。
>>知っておきたいデジタル化事例|活用するメリットとDXとの違い
デジタル化を実際に進める際の懸念点
官民問わず早急な対策が求められるデジタル化ですが懸念点もあります。デジタル化を実際に進める際の懸念点を2つ解説します。
システムのメンテナンスが必要
デジタル化に伴い、あらたなシステムやツールを取り入れた場合、定期的にメンテナンスをしなければなりません。適切な保守管理ができなければ、万が一、システム障害や故障が発生した場合に業務全体に支障をきたします。また、職員の要望によってはシステムの修正を求められるケースもあるでしょう。
こうしたシステムのメンテナンスには、IT技術や知識に長けた人材を採用するか外部の事業者に任せる必要があります。万が一の事態に備えて、システム化を進める段階で故障やトラブルに対する策を講じておくことが大切です。
目的や手段に関する社員の理解が必要
システムやツールを取り入れても、社員が使いこなせなければデジタル化の成功とはいえません。また、ITリテラシーが低いままシステムを操作すれば情報漏えいのリスクが高まります。社内にデジタル化を浸透させて安全に活用するためには、職員の理解が不可欠です。
デジタル化を推進する際は、目的を明確にした上で全体に周知する必要があります。加えて、必要に応じて使い方に関する研修を実施すると、デジタルに苦手意識を持つ職員でも安心して業務に取り入れられるでしょう。
デジタル化の課題解決に向けた8つの対策
デジタル化の課題解決につながる対策として、以下の8つが挙げられます。それぞれの対策について詳しく解説します。
デジタル化の目的を明示化する
デジタル化を効率的に進めるためには、最初に目的を明らかにすることが肝要です。そのためには現状の課題を洗い出し、適した手段やツールを選ぶ必要があります。例えば、社内のコミュニケーション不足に悩んでいる場合はチャットツールが役立つでしょう。また、書類整理の簡略化を図るなら、タブレット端末やクラウドサービス、電子契約ツールの導入が適しています。
万が一、計画が思うように進まなかった場合も、目的が明確になっていると速やかな軌道修正が可能です。
デジタル化の重要性を浸透させる
デジタル化が成功しても、職員の理解が追いつかなければ効果的な活用ができません。デジタル化を進める際は、事前にデジタル化の重要性を全体に周知することが大切です。
職員によってはIT機器に苦手意識を持っている方もいるでしょう。また、大きな改革に不安を感じる方も少なくありません。デジタル化によってどのようなメリットがあるのか、なぜ重要なのかを理解できれば新しい仕組みを受け入れやすくなります。また、デジタル化を通してパフォーマンスの向上も期待できるでしょう。
管理職の意識を変えて組織全体で推進する
デジタル化は組織改革であるDX化につながる重要なステップであり、管理職の理解がなければ実現できません。管理職の意識が薄いとデジタル化が後回しにされやすくなる他、一部の部署だけがデジタル化を進めて全体の統一が図れなくなることも考えられます。
デジタル化を効率的に進めるには、管理職の意識を変えることが大切です。管理職がデジタル化に向けたビジョンを明確に持ち、組織が一丸となって推進できるように体制を整える必要があります。
職員が活用しやすいツールを導入する
デジタル化に適したツールは多岐にわたります。ITツールに慣れていない職員にとって高度なツールは使いこなせない可能性があり、モチベーションの低下につながりかねません。デジタル化を推進する際は、スキルを問わず使いやすいツールを選ぶ必要があります。ツールを取り入れた後も、職員から使い勝手や難易度に関するフィードバックを定期的に受け取り、状況次第ではより適した製品への切り替えも検討するとよいでしょう。
ただし、初心者でも使えるツールを取り入れたとしても、デジタル化がすぐに浸透するとは限りません。不明点を解消するための窓口を設けたり、研修やセミナーを開催したりしてサポート体制を整えることが大切です。また、ツールによっては試用期間が設けられているため、本格的に取り入れる前に操作性や適性を確認するとよいでしょう。
小規模からスタートする
デジタル化は組織全体で進める必要がありますが、広い範囲で一気に進めると失敗しかねません。まずは、デジタル化しやすい部分から少しずつ取り組むことが大切です。
例えば、負担の大きいルーティン業務をデジタル化すると、人材不足の解消や職員の負担軽減といった成功体験を積みやすいです。また、低予算で取り入れられるシステムの導入から始めることも重要です。手軽に使えるツールから段階的にデジタル化を進めることで失敗しづらく、最終的に組織全体のデジタル化、DX化の成功につながります。
セキュリティ対策を徹底する
デジタル化に伴い、データをオンラインでやり取りするケースが増加します。万全なセキュリティ対策が講じられていない場合、情報漏えいやデータ改ざんなどのリスクが高まるため注意が必要です。万が一、情報が外部に漏れてしまえば信頼損失にもつながるでしょう。
近年、官公庁をターゲットにしたサイバー攻撃も多数発生しています。自治体は住民の個人情報を管理しているため、セキュリティ体制が整っていなければ大規模な情報漏えいに発展しかねません。一般企業はもちろん自治体においても普段からシステムのメンテナンスをこまめに行い、強固なセキュリティを保つ必要があります。
例えば、対策が施されたシステム・ツールの採用やID・パスワードの管理などが挙げられます。その他、職員に対する情報セキュリティ教育も重要です。各々がセキュリティリテラシーを高めることで、組織全体のセキュリティレベルの向上につながります。
また、セキュリティ対策は定期的な見直しが必要です。新手のハッキングやウイルスにも対応できるように、最新のセキュリティソフトを採用したり関連情報を収集したりするとよいでしょう。
デジタル人材を確保する
組織のデジタル化において、ITの知識に長けたデジタル人材が欠かせません。適した人材を確保するためには職場環境の整備が求められます。
あらたな人材が見つからない場合は、既存の社員をデジタル人材へと育成するのも一つの方法です。ポテンシャルのある社員を募った上で、スキルや知識習得に向けた研修・教育プログラムなどを用意するとよいでしょう。ただし、デジタル人材の育成では中長期的な視点を持ち、体系的にデジタルスキルを得られるような環境を整えることが大切です。
>>デジタル人材の不足を解決する方法|採用・育成以外の選択肢も解説
アウトソーシングを活用する
国内全体でデジタル人材が不足している中、こうした課題の解決に役立つのがアウトソーシングの活用です。
外部の事業者に委託すれば、人材確保にリソースを割かなくてもスムーズにデジタル化を進められます。ノウハウや実績を持つ事業者にデジタル化をサポートしてもらえば、変化の激しい社会情勢に柔軟に対応することが可能です。また、デジタル化の課題となるセキュリティに関しても、サポートによって強固な体制を整えられるでしょう。
なお、アウトソーシングを活用することで、職員は本来注力すべき業務に専念できる点も大きなメリットです。
デジタル化に課題をお持ちの際はパーソルビジネスプロセスデザインへご相談ください
ビジネス環境やはたらき方が大きく変化する中、デジタル化は企業・自治体ともに早急な対策が求められる取り組みです。既存のシステムを放置すれば老朽化やブラックボックス化が進み、競争力を失う原因にもなります。
デジタル化の推進を検討しながらもデジタル人材不足や費用面、セキュリティ対策といった課題が立ちはだかり、思うように進められないという企業・自治体も多いでしょう。デジタル化に関する知識がないまま取り組みを進めても、失敗につながる可能性があるため注意が必要です。こうしたデジタル化推進に関する課題を解決するには、ITスキルや知識に長けた外部の事業者にご相談することをおすすめします。
パーソルビジネスプロセスデザインではデジタル化で効率を図る支援を主に行っており、ITツールを活用した業務運用経験が豊富です。また、一般企業に加えて官庁・地方公共団体のさまざまな受託実績があるため、安心してご利用いただけます。お客さまの状況を把握した上で、職員の負担軽減や注力すべき業務に集中いただく環境構築をサポートいたします。
デジタル化に課題をお持ちの際は、ぜひパーソルビジネスプロセスデザインへご相談ください。
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