ストレスマネジメントとは?
ストレスマネジメントとは、ストレスと適切に付き合える方法を考え、対処していくことをいいます。
ストレスを感じることは誰にも起こりうることですが、対処の仕方は人それぞれでしょう。適切な対処法を自然に取れれば心配はありませんが、対処が難しいとストレスが蓄積し、精神疾患を発症する可能性があります。メンタルヘルスの不調を予防するためにも、ストレスとの適度な付き合い方を学んでいくことが大切なのです。
ストレスに対処するためには、日ごろ感じているストレスに気づくことが不可欠です。そのためには、ストレスにはどんな種類があり、どのようなメカニズムで生じるのかを理解する必要があるでしょう。
ストレスとは?
では、そもそもストレスとはどういったメカニズムで生じるのでしょうか。
私たちは、周りの環境の変化や害になるような刺激を察知すると、身体と心に特定の反応が生じます。この反応がストレス反応であり、外部から受ける刺激はストレッサーと呼ばれます。
4つのストレッサー
ストレッサーは大きく分けると次の4つに分類されます。
- ・物理的ストレッサー(室温、騒音など)
- ・科学的ストレッサー(タバコ、有害物質など)
- ・生物的ストレッサー(ウイルス、花粉など)
- ・心理的ストレッサー(人間関係、転居、離婚など)
ストレスというと、「苦手な人と過ごすのが苦痛」「上司の叱責が怖い」など、心理的ストレッサーによる反応がイメージされがちですが、その他にもストレッサーはあります。自分が反応しやすいストレッサーを把握し、苦手なストレッサーはできるだけ回避できることが理想といえます。
ストレス反応が生じるメカニズム
ストレッサーによって生じるストレス反応には個人差があります。心理学者のラザルスによる『認知的ストレス理論』では、ストレッサーを認識してからストレス反応が生じるまでに、「認知的評価」と「コーピング」という段階があるとされています。
認知的評価
認知的評価とは、ストレッサーが害になるのか、対処可能なのかを評価するプロセスです。例えば、人の話し声でも、うるさく感じられてストレッサーになる人もいれば、気にならない人もいるでしょう。刺激や出来事がストレッサーになるかどうかの評価をしているため、ストレスの感じ方には個人差があるのです。
認知的評価は、ストレッサーの脅威や危害の程度を評価する1次的評価と、ストレス反応を軽減できるかを評価する2次的評価に分けられます。「自分には手に負えないほどのストレッサーで解決も難しい」と感じると負担が増えてしまい、長期化すると“疾患”へと移行してしまうのです。
コーピング
コーピングとは、脅威や危害をもたらすストレッサーからの負荷を少なくしようとする様々な対処のことをいいます。ストレスを意図的に減らすことができ、ストレスマネジメントにおいては非常に重要なプロセスです。
ストレッサーになっている問題を直接解決する問題焦点型、気晴らしのように感情を改善する情動焦点型に分けられます。具体的なコーピングの例として、以下の方法が挙げられるでしょう。
【(例)業務量が多くて参っている時】
- ・業務量を減らしてもらうよう、上司にお願いする
- ・仕事の優先順位を考えて効率を上げる
- ・休みの日は趣味や好きなことを目一杯楽しむ
- ・「よくやっているよ」と自分を励ます
コーピングの種類は多ければ多いほど効果を発揮します。一つのコーピングしか持っていないと、徐々に効果が薄れてしまったり、環境の変化によりできなくなったりする可能性があります。自分にとって効果的なコーピングは何かを振り返って、コーピングの種類を増やしていくことが重要でしょう。
ストレスマネジメントにストレスチェック制度を活用するには
※参考:厚生労働省「労働安全衛生法の改正について」
では、ストレスチェック制度をストレスマネジメントへの意識を高める方法とするために、どのような取り組みが求められるのでしょうか。2つほど挙げてみます。
質問票の実施と評価からストレスへの気づきを促す
ストレスチェックで推奨されているのは、『職業性ストレス簡易調査票57項目』を用いた評価です。職業性ストレス簡易調査票では、「仕事のストレス要因」「心身のストレス反応」「周囲のサポート」と3つの職場ストレスとなる因子の程度を分析できます。
※参考:厚生労働省「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」
※参考:厚生労働省「職業性ストレス簡易調査票を用いた ストレスの現状把握のためのマニュアル」
回答内容を産業医や保健師、公認心理師などの実施者が評価し、結果を本人に伝えます。結果はレーダーチャートのように分かりやすく記載し、気づきを促せるように工夫することが必要でしょう。
最近では、ワークエンゲージメントの評価が追加された、『新職業性ストレス簡易調査票80項目』を用いて測定する企業が多くなっています。
※参考:東京大学「新職業性ストレス簡易調査票の公表について」
ちなみに、経済産業省主催の健康経営度優良法人の認定に必要な健康経営度調査では、2022年度から『職業性ストレス簡易調査票80項目』で取得するワークエンゲージメントの2項目の回答結果も求めています。
※参考:経済産業省ホームページ「健康経営優良法人の申請について」
高ストレス者の評価
ストレスチェックの結果、高ストレス者とされた従業員に対しては、医師による面接指導を受けてもらいましょう。
職業性ストレス簡易調査票にて、「心身のストレス反応」の高い従業員が高ストレス者であると判定されることが多くなります。しかし、自覚症状のある従業員ばかりではありません。「仕事のストレス要因」が高く「周囲のサポート」が低い場合も、高ストレス者として判定するような基準を設けることが望ましいでしょう。
ストレスマネジメントによる効果
では、ストレスマネジメントを行うことでどのような効果が得られるのでしょうか。2つを挙げて解説します。
精神疾患の予防
精神疾患の発症原因の1つとして、ストレス脆弱性モデルという考え方があります。脆弱性とは、人が持つストレスの受けやすさであり、生まれ持った素質やこれまで獲得してきたストレスへの対応力により決まるものです。脆弱性とストレスの掛け合わせにより、精神疾患が発症すると考えられています。
ストレスマネジメントによりストレスへの対応力が上がれば、精神疾患を発症しにくくなるといえるでしょう。また、精神疾患により休職してしまった場合も再発予防に有効となるはずです。企業にとっては、貴重な人材を失ってしまうことを避けられるでしょう。
生産性やモチベーションが向上する
高ストレスの職場環境では、感情的になってきつい言葉かけをしてしまうことがあります。そうなると、職場内の雰囲気が悪くなり、仕事のプレッシャーが高まりミスが増えてしまうかもしれません。また、コミュニケーションの齟齬が起きやすく、ミスリードが増えて仕事の効率が下がってしまうこともあります。
従業員1人1人が自分のストレスに気づき、適切に対処できるようになると、このような問題は少なくなり、生産性やモチベーションの向上につながるでしょう。
ストレスマネジメントの実践方法
では、ストレスマネジメントを具体的に実践するには、どのような方法が良いのでしょうか。いくつか効果的な方法を挙げながら解説していきます。
認知行動療法
ストレスマネジメントに関する研修では、認知行動療法に基づく方法が紹介されることが多くあります。認知行動療法では、ストレッサーとなる出来事の捉え方を見直したり、有効でない行動習慣を見直したりと、認知と行動に働きかけてストレスを低減することを目指します。
セルフモニタリング
セルフモニタリングとは、自分に起きているストレス体験を観察し、何が起きているのかを詳しく理解することです。自分自身の体調や気分の変化を記録し、ストレッサーやストレス反応はどんなプロセスで起こっていたかを理解します。ストレス状況が客観的に整理できるため、自分のストレスに気づけるだけでなく、気持ちがすっきりする効果もあるでしょう。
リラクゼーション法
ストレス反応を和らげる方法として、リラクゼーション法も挙げられます。不安や緊張状態を緩和し、職場でも実践できる手軽なストレスマネジメント方法です。取り組みやすい方法としては、呼吸法や漸進的筋弛緩法などがあります。それぞれ次に解説していきます。
呼吸法
人は、緊張している状態では呼吸が浅くなるといわれています。呼吸は普段意識されず、無意識的に呼吸が浅くなっていることも少なくありません。意識的に深い腹式呼吸をすることで、リラックスできます。これは、職場でもすぐ実践しやすい方法といえるでしょう。
漸進的筋弛緩法
漸進的筋弛緩法は、力を入れて抜くという動作を行うことでリラックスできる方法です。力を入れると筋肉が緊張して硬くなりますが、力を抜いて緊張を緩めると、脳は精神的にも緊張が緩んだと誤解します。力を抜いたときの余韻のような感覚を味わいながら、手軽にリラックスできるようになります。
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ストレスマネジメントについて説明してきましたが、ストレスの状態を確認する「ストレスチェック」の重要性についてご理解いただけたのではないでしょうか。
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