【大学教授監修】レジリエンスとは何か?意味や向上させるための方法などを徹底解説

【大学教授監修】レジリエンスとは何か?意味や向上させるための方法などを徹底解説

昨今では、職場のストレスから精神疾患を発症するケースが増加し、メンタルヘルス対策の重要性が叫ばれています。メンタルヘルス対策において重要なのは、従業員11人のストレス耐性を高めることです。

ストレス耐性を高める方法としては、「頑強で折れない心を養う」といったイメージを抱かれる方が多いのではないでしょうか。しかし、「しなやかで柔軟性のある心」の方が、実はストレス耐性が高いといわれています。その柔軟性に富んだ心理的特性として近年注目されているものが、『レジリエンス』という概念です。
本記事では、メンタルヘルス対策に重要となる個人の能力、レジリエンスについて説明していきます。

この記事の監修



新井 卓二 先生

山野美容芸術短期大学 教授 
新井研究室 主宰
日本ヘルスケア協会 健康経営推進部会 副部会長
社会的健康戦略研究所 運営委員 特別研究員

目次

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    レジリエンスとは?

    レジリエンスとは、「困難な状況に遭遇したとしても、精神的に大きく落ち込むことなく適応し成長する能力」を指す言葉です。

    元々は物理学の用語であり、外部からの圧力を指すストレスが加わった際に、反発する力をレジリエンスと呼んでいました。現在では、人間が持つ精神的な回復力に関しても、レジリエンスと呼ぶようになったというわけです。いくつかポイントを挙げてみましょう。

    精神的な回復力、適応力、抵抗力を指す

    レジリエンスは、精神医療の分野で「大きな事故」や「戦争体験」のような重大なトラウマを扱う際に用いられてきた概念です。
    トラウマ体験が原因となり発症する精神疾患の1つとして、PTSDがあります。同じ事故に遭ったとしても、全ての人がPTSDになるわけではありません。一定の回復力によって発症を防いでいるとされるのですが、その自然治癒力がレジリエンスだとされています。

    我慢強さとは異なる

    レジリエンスはいわゆる「我慢強さ」とは異なります。我慢強い人は、弱音を吐かずストイックに一つの物事に打ち込める忍耐強さをもっているといえるでしょう。しかし、人間のキャパシティは人それぞれです。能力の限界を超えてまで我慢してしまうと、メンタルヘルスの不調を招いてしまう可能性があります。
    また、「文句を言わずに長時間労働に耐える」といったように、あまり生産的でない目的に向かって我慢し続けていることもあるでしょう。

    レジリエンスはどんなストレスにも折れない心を持つのではありません。自分のキャパシティを認識して、「問題解決に必要のない我慢はしない」というようなストレスへの対処を行うものなのです。

    レジリエンスとメンタルヘルスの違い

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    メンタルヘルス対策において使われるレジリエンスという言葉ですが、メンタルヘルスとどのような違いがあるのでしょうか。

    メンタルヘルスとは、直訳すると“心の健康”を指す言葉です。職場のメンタルヘルスにおいては、職場環境に適応し、業務に関するストレスにも対処して生産的な仕事ができている状態をいいます。

    しかし、ビジネスにおいては、時には困難な状況に遭遇することも少なくありません。
    そういった際に発揮すべきがレジリエンスです。レジリエンスを発揮して、困難な状況でも負けずに目標を達成できる力が、現代の職場環境には必要なのです。つまりメンタルヘルスが上位概念になり、その対策としてレジリエンスやワークエンゲージメント等が位置づけられるでしょう。

    ワークエンゲージメントについては、以下のコラムでも解説しておりますのであわせてご覧くださいませ。
    ワークエンゲージメントとは?意味や向上させるための方法などを徹底解説

    レジリエンスを高めるメリット

    では、レジリエンスを高めると、具体的にどんな良い影響があるのでしょうか。従業員1人1人が高めるメリットだけでなく、組織全体のレジリエンスを高めることにも大きなメリットがあります。それぞれ考えてみましょう。

    従業員の精神的健康度を高める

    令和2年度の労働安全衛生調査では、仕事や職業生活に関するストレスのうち、「仕事の失敗・責任等」がストレスとなっている人が35.0%と高い割合を占めていました。仕事をしていると責任や失敗は避けられませんが、それによってストレスを感じる人が多いといえるでしょう。

    ※参照:厚生労働省「令和2年度労働安全衛生調査(実態調査)」


    レジリエンスを高めると、責任が重い状況や失敗などの逆境に打ちのめされてしまうのではなく、成長の機会と捉えたり、適度に受け流したりできるようになると考えられます。必要以上に落ち込むことがなくなりますので、精神的健康度が向上するでしょう。

    企業価値を高める

    近年では、「組織レジリエンス」と呼ばれる評価指標が、企業価値を左右するものとして注目されています。組織レジリエンスは、企業が発展していくために長期的に変化していくことや、混乱を予期して準備し対応する能力を指す言葉です。
    つまり、個人の能力であるレジリエンスを組織にまで拡張した概念ということです。長期的な企業繁栄につながる指標であり、ビジネスの健全性を示すものとして今後も重視されることになるでしょう。

    従業員1人1人のレジリエンスが高まると、企業風土としてしなやかに判断する土壌が醸成されていきます。VUCA時代といわれる激動の時代を生き抜くためには、組織レジリエンスの高さがステークホルダーの信頼につながるのです。

    レジリエンスが高い人の特徴

    では、「レジリエンスが高い」とはどのような性格や行動の傾向があることを指すのでしょうか。レジリエンスを構成する要因は、生まれ持った性質の影響が大きい「資質的レジリエンス要因」と後から獲得される程度が大きい「獲得的レジリエンス要因」に分けられます。それぞれ解説をしましょう。

    従業員1人1人のレジリエンスが高まると、企業風土としてしなやかに判断する土壌が醸成されていきます。VUCA時代といわれる激動の時代を生き抜くためには、組織レジリエンスの高さがステークホルダーの信頼につながるのです。

    資質的レジリエンス要因

    資質的レジリエンス要因には、「楽観性」「統御力」「行動力」「社交性」が含まれます。レジリエンスが高い人は、これらの特徴を共通してもっているのです。ただし、先天的に備わった資質による影響が大きく、トレーニングでは向上しにくい性質だといえるでしょう。

    • 楽観性:将来に対する不安を持たずに楽観的な見通しを持って行動できる
    • 統御力:不安が少なく、負の感情や体調に振り回されずにコントロールできる
    • 行動力:目標や意欲を、忍耐力により努力して実行できる
    • 社交性:見知らぬ人への不安や恐怖が低く、関わりを好んでコミュニケーションを取れる

    獲得的レジリエンス要因

    獲得的レジリエンス要因には、「問題解決志向」「自己理解」「他者心理の理解」の3つが含まれます。資質的レジリエンス要因に比べると、教育やトレーニングによって身に付けやすいものだといえるでしょう。

    • 問題解決志向:状況を改善するために、積極的な問題解決への意思を持って方法を学ぶ
    •  自己理解:自分の特性や考え方を理解して、自分にあった目標設定や行動ができる
    • 他者心理の理解:他人の心理を認知的に理解する、もしくは受容する

    獲得的レジリエンス要因を高めることが重要

    資質的レジリエンス要因は、個人の生まれ持った性格が影響するため、人によって向上が見込める場合とそうでない場合がありえます。例えば、以下のようなレジリエンスの高め方は限界があるでしょう。

    • 内向的な人の「社交性」を高める:他人との積極的な関りがストレスになる可能性がある
    • 慎重な人の「楽観性」を高める:何事もポジティブに考えるのは難しい。

    本人の資質を変えようとすることは、逆に不適応を起こす可能性があります。3つの獲得的レジリエンス要因(問題解決志向、自己理解、他者心理の理解)を高めることで、元来持っている性格を残しつつ、ストレスに対してしなやかに対処できるようになっていくはずです。

    企業でできるレジリエンス向上のための方法

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    レジリエンスを高めるには、性格特性のように変えにくい部分に働きかけるのではなく、トレーニング可能な部分を強化していくことが重要だと前述しました。では、企業として従業員のレジリエンスを高めるには、どのような取り組みが求められるのでしょうか。
    いくつか方法を挙げてみます。

    問題解決志向を高める

    問題解決志向を高めることは、困難な課題に立ち向かって解決に導く姿勢を育み、レジリエンスの向上につながります。そのためには、働きながら問題解決志向を高められるような職場環境を整えていくことが不可欠になるでしょう。

    仕事の裁量範囲を徐々に増やしていく

    問題を解決するためには、解決のイメージとそこに至るまでの手段を計画し、行動していくことが求められます。従業員1人1人が、管理者から与えられた指示通りに動くばかりだと、「自力で解決する姿勢」が育まれません。仕事の裁量を少しずつ大きくし、自立的な課題解決ができるような職場環境づくりが必要でしょう。

    また、従業員が失敗を恐れずに課題に挑戦できるよう、必要以上に失敗を追求しない環境にしていくことも重要です。

    自己理解と他者心理の理解を深める

    自己理解ができていると、ストレスを感じやすいパターンや陥りやすい考え方の癖を認識し、適切な行動をとることにつながります。さらに、他者心理が理解できるとコミュニケーション上のミスリードが少なくなり、必要以上にネガティブな感情に振り回されなくなるでしょう。

    レジリエンスを高めるための思考法として有効なのは、次に紹介する『ABC理論』に基づいたストレス状況の整理です。従業員がABC理論による思考法を身につけられるよう、企業は研修体制を整えていくことが必要でしょう。

    企業としての方向性を明確にする

    経営方針が曖昧であると、従業員はどういった方向性で仕事に注力すればいいか分からなくなります。自社はどのような事業に力を入れていくのか、そのための課題は何か、といった具体性を持った方針を示すことで、従業員は自分の業務の意味を再確認できるのです。
    企業が今後の見通しや事業計画を示し共有することで、困難な課題に立ち向かって未来に進んでいくことができるでしょう。

    ABC理論で考え方の癖を把握する

    ストレスに対する反応は個人の受け止め方によって変化します。ABC理論とは、ストレスが生じるプロセスを次のようにして3つに分解して考えるフレームワークであり、認知行動療法のルーツとなった論理療法の中心的な理論です。
    次のようにして分解します。

    • A(Activating event):出来事 
    • B(Belief):解釈
    • C(Consequence):結果

    ストレスの引き金になる「出来事(A)」が起こり、それを「解釈(B)」し、何らかの感情や反応などの「結果(C)」が生じます。例えば、「上司から叱責された」という出来事から生じるストレスは、次のようなプロセスで起こるといえるでしょう。

    • A:上司から叱責された
    • B:自分のことを嫌っているに違いない
    • C:上司と話すのが怖い、話しかけられない

    この場合、もし「解釈(B)」として「期待しているから叱ってくれているんだ」と別の見方ができれば、「結果(C)」は違った反応になるかもしれません。ABC理論は、自分がどのような解釈をする癖があるのかを認識し、合理的な解釈ができるように修正できる有効な方法なのです。

    さらに、ABC理論を用いて整理すると考え方の癖を認識できるだけではなく、相手の発言の意図を客観的に分析できるようになります。自己理解が深まるだけでなく、他者心理の理解にもつながり、レジリエンスが高まっていくでしょう。

    レジリエンスを高めるなら『ストレスチェック』を

    レジリエンスを高めるためにも、ストレスの状態をチェックすることは重要です。

    私たちパーソルビジネスプロセスデザインでは、『Health Data Bank』というサービスを展開させていただいております。Health Data Bankでは、「ストレスチェックの結果管理機能」があり、従業員は自身の健康状態をスマホなどから確認することが可能です。

    また、「高ストレス該当者の集計」や「面談の記録」も管理しています。そのため、人事労務のご担当者様はストレスチェックの結果を踏まえて、従業員の健康課題を分析できます。健康経営における取り組みの一つとしても活用いただけます。

    詳細につきましては、下記の「Health Data Bank」のページをご確認いただき、何かご不明点などありましたらお気軽にお問い合わせください。

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