採用戦略とは「求める人材を採用」するための戦略
採用戦略とは、企業が「自社の求める優秀な人材」を採用するために立てる戦略のことです。企業経営において、『人』は重要な経営資源の一つです。安定して成長を続けるためには、質の高い人材の獲得が必要とされます。
また、中小企業をはじめとする多くの企業では人材不足が課題です。事業を拡大するためには人員の確保も重要なポイントといえるでしょう。中期経営計画や事業計画をもとに、長期的な視点で採用の方向性や軸を決定していくのが「採用戦略」なのです。
採用戦略を立てるメリット
それではまず、採用戦略を立てることが企業に対してどのようなメリットをもたらすのか、解説していきます。
(1)自社への応募を増やし、質の良い母集団の形成につながる
そもそも自社への応募者が集まらなければ、採用のスタートラインにつくことができません。中小企業やベンチャー企業は知名度や実績の点で大企業に劣る場合が多いため、採用方法を工夫しなければ、選考が実施できるほどの応募者が集まらない可能性が高くなります。
母数が少なければ優秀な人材に出会える確率も低くなってしまうでしょう。
一方、採用戦略を立てた場合には、市場の動向を踏まえながら、自社の魅力を効果的に伝えることができるため、応募者が集まりやすくなります。母数の確保だけでなく、自社が求める人材に絞って集客することも可能になるでしょう。
(2)内定辞退やミスマッチによる早期離職を防ぐことができる
採用戦略なしで人材を採用した場合、他社との差別化が十分にできず、せっかく内定をだしても辞退されてしまう可能性があります。
また、採用する人材要件を明確に定義していない場合、採用の判断は主観的になりがちです。「採用した人材のスキルが想定より低い」「社風や業務内容が自分に合わない」といったミスマッチが発生してしまい、早期退職につながるケースも出てくるでしょう。
採用や教育にかかるコストを考えると、早期離職はなるべく避けたいものです。
(3)会社全体の組織力が強化される
採用戦略を立てて人材の獲得を進めるには、採用担当者だけではなく企業全体で戦略や価値観の共有をすることが不可欠となります。
人材の採用や育成に対する社員の意識が高まり、組織力が強化されるのもメリットの一つといえます。
(4)無駄な採用コストを使わずに済むようになる
採用計画を立てずに採用活動をすると、自社の状況にあった採用手法を選択できず「コストをかけた割には成果が出ない」といった状況に陥る可能性があります。結果が出ないからと言って手法を都度変更してしまえば、さらにコストがかかって悪循環に陥ってしまうでしょう。
採用戦略を立てておけば、適切な採用手法を選択することができます。効果の検証もできるため、無駄なコストを使わずに済むでしょう。
(5)アクションが明確になり業務の無駄を省くことができる
優先しておこなうべきアクションが明確になることから、無駄なアクションを削減できることもメリットです。
採用戦略では、何人採用をするのかといった要員計画に紐づくKPIを設計し、優先するべきアクションを明確にします。そのため、チーム内で何を優先するべきかに関しての共通認識を持てるようになるのです。
チーム内でKPIに対するアクションの優先度が明確になっていれば、KPIへのインパクトが薄いアクションを避けられるようになるでしょう。
また、目標の達成に向かってピンポイントでリソースを注げるようになり、採用業務の効率化に期待できます。
採用戦略を立てる前に行うべきこと
採用戦略を立てる前に、「会社や組織のなりたい姿」を明確にすることが重要です。
たとえば、「5年後には売上を50億にする」「9割以上の顧客に満足してもらえるようになる」などが挙げられるでしょう。
会社や組織のなりたい姿は、いわば会社のゴール(KGI)です。
自社がどのような在り方で事業を営んでいきたいのかを明確にすることで、今どのような人材を採用するべきかの解像度を高められます。たとえば売り上げ重視ならば営業力の高い人材が必要になりますが、顧客満足度を重視するならサービス品質の高い人材のほうが適しているでしょう。
自社が目指す理想像と採用戦略とが紐づいていれば、その実現に向かって会社や組織を着実に成長させていけます。
一方で、自社のなりたい姿が明確でなければ、会社のゴールと採用戦略とがうまく結びつかず、多くの人材を採用しても「想定と異なり事業が好転しない」といった問題を抱える可能性があります。
【7ステップ】採用戦略の立て方
効果の出る採用戦略を策定するにはコツがあります。
具体的には、以下7つのステップを意識するとよいでしょう。
- 採用計画を策定する
- 採用をしたいターゲットを決める
- 自社の強みを明確に捉える
- 自社が打ち出すべき価値を明確にする
- 採用手法を洗い出す
- 採用スケジュールとKPIを決める
- 優先するべきアクションを決める
いきなりKPI決定や施策を検討するのではなく、計画の策定やターゲットの決定から進めていくことで、ターゲットを効率的に獲得しやすくなります。
ステップ(1)採用計画を策定する
まずは、中期経営計画をもとにして採用計画を立案しましょう。
中期経営計画とは、会社のビジョンや課題を整理して、今後3〜5年の間に実施すべきこと、達成すべきことを定めた計画です。
中期経営計画の内容にもとづいて、人材が必要な時期や数、そのために必要な予算を考えていきます。この計画をもとに採用戦略を策定していくことで、自社の経営方針やリソースにマッチした戦略を立てられるようになるでしょう。
ステップ(2)採用をしたいターゲットを決める
次に、採用したいターゲットを明確にしていきましょう。「誰を」採用するのかで、アプローチする手法や、企業として何を押し出していくべきなのかは変わってきます。またターゲットの解像度が明確になることで、採用する人材のミスマッチを防ぐことができ、マッチしない人材と面接をする確立も下がります。それにより、無駄な工数の削減が期待できるでしょう。
ターゲット設定では、一般的に以下の項目を埋めていきます。
- 経歴
- スキル
- 勤務条件
- 年齢
- 役職
ただし経歴やスキルだけでは、ターゲットがどのようなポイントで企業を選んでいるのかを把握することは容易ではありません。上記のポイントに加えて、定性的な「価値観」や「志向性」といった部分にも着目をすることが大切です。
ターゲットが価値を感じやすいポイントは何かを分析し、明らかにしましょう。ターゲットが求めるものを明確にできれば、ターゲットに何を訴求するべきなのかも明確になります。
ステップ(3)自社の強みを明確に捉える
次に、自社の強みはどのようなものなのかを整理しましょう。どのような採用手法をおこなうにしても、ターゲットに対して自社の強みが何なのかを明確に伝えることができなければ、候補者から自社に魅力を感じてもらうのは難しいものです。
そのため、客観的な視点で自社の強みを分析することが重要といえます。分析をする際には、3C分析やSWOT分析といったフレームワークを活用するとよいでしょう。
活用できるフレームワーク① 3C分析
採用戦略を立てる際に役立つフレームワークの1つ目が「3C分析」です。
3C分析とは、市場・顧客(Customer)、競合(Competitor)、自社(Company)の3つの視点からビジネス環境を理解し、その分析結果をもとに差別化戦略を構築する手法です。
具体的には、自社の強みや弱み、競合の状況、市場や顧客の動向などを分析し、自社の採用戦略に反映させます。3C分析は経営の方針決定に活用されることが多いですが、そのまま採用活動にも転用可能です。たとえば、以下のような要領で実施するとよいでしょう。
Customer(市場・顧客) | ターゲットが企業選定で重きを置くことは何か? 現在の採用市場での候補者数はどれくらいか? |
Competitor(競合) | 採用市場で競合となる企業はどこで、どのような強み・弱みがあるか? 競合他社の採用活動の方法は何か? |
Company(自社) | 採用での自社の強み・弱み、独自性は何か? 自社の仕事のやりがいは何か? |
3つの観点から自社の状況を考察することで、採用市場においてどのように立ち回り、アピールしていけばよいかを掴めるようになります。
活用できるフレームワーク② SWOT分析
採用戦略を立てる際には、「SWOT分析」も有用です。
SWOT分析は、強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)の4視点から、自社の置かれている状況を把握するフレームワークです。
3C分析と同じく経営に使われることが多いですが、採用戦略を立てるのにもおおいに役立ちます。採用戦略に活用する際の一例としては、以下が挙げられるでしょう。
強み(Strength) | 事業拡大中で、社員が成長できる環境である実力主義で年齢や社歴を問わず評価される |
弱み(Weakness) | 設立後間もなく、評価制度が完全に整っていない 人手不足で残業が多い |
機会(Opportunity) | 国に取り組み内容を表彰された 新しく参入した市場で順調に顧客を伸ばしている |
脅威(Threat) | 売り手市場で採用が難航している 競合他社の参入が増えつつある |
上記のように自社の状況を4つの観点から分析することで、採用でアピールポイントとなる部分や、逆に改善すべき部分が見えてきます。
ステップ(4)自社が打ち出すべき価値を明確にする
次に、自社が打ち出すべき価値を明確にしていきましょう。
ステップ(3)で捉えた「自社の強み」は、必ずしもそのまま活用できるとは限りません。ターゲットのことを考えずに自社の強みだけを訴求してしまうと、「押し売り」だと感じてしまう可能性があるためです。
たとえば「事業拡大中で、社員が成長できる環境である」といった訴求は、成長意欲の高い人達には刺さりますが、安定や現状維持を求める人には響きづらいでしょう。また、成長意欲に長けた人材にとっては「残業が少ない=成長機会が少ない」と捉えられるかもしれません。
「採用したいターゲットが感じる価値」と「自社の強み」とを結びつけていき、ターゲットに刺さりそうな訴求ポイントを見つけていくことが重要です。
ステップ(5)採用手法を洗い出す
自社が打ち出す強みを明確にできたら、具体的な採用手法を洗い出していきましょう。
まずは、目標の採用人数に対してどのような手法があるのかを整理する必要があります。ステップ(5)の目的は、具体的なアクションを決めることではなく、アクションの選択肢を把握することです。
現状おこなっている施策のみにとらわれず、幅広い視点をもって採用手法を洗い出すとよいでしょう。
ステップ(6)採用スケジュールとKPIを決める
次に、採用スケジュールとKPIを決めていきましょう。いつまでに何人の人材を採用するのか、といった自社の目標(KGI)に合わせて、KPIを設計していきます。
採用活動におけるKPIの例として挙げられるのは、以下のようなものです。
- 応募者数
- 選考通過人数/率
- 内定数/率
- 内定辞退数/率
- 採用コスト
KPIを設計する際には、採用数から逆算をしてロジックツリーを作成し、KPIツリーを作成するとよいでしょう。KPIツリーとは、採用のKGIを軸に、KPIとの関係をツリー形式にまとめた図のことです。KPIをツリー状で表現することによって全体を俯瞰的に見られるようになり、状況把握をしやすくなります。
KPIツリーの作成には、マインドマップなどを利用するとよいでしょう。
ステップ(7)優先するべきアクションを決める
最後に、掲げたKPIを達成するために優先するべきアクションを決めていきます。
KPIを達成するためには、どのような採用手法を選択し、どのようなアクションを優先するべきかを明確にしていきましょう。優先するべきアクションを明確にする際には、現状のリソースや予算を加味しながら決めることが大切です。
企業のリソースや予算は、当然ながら無限ではありません。リソースも考慮した上で採用施策の優先順位を考えることで、数ある手法の中でも最も費用対効果の高いものに注力できるようになります。
リソースを無視して計画を立てると、十分に実行できないアクションに中途半端にリソースを割り当ててしまうリスクも否めません。そうしたケースでは途中で頓挫してしまう可能性があるため、自社のキャパシティを加味し、最後まで遂行可能なアクションを決定することが大切です。
採用戦略を立てた後にやるべきこと
採用戦略を立てただけで終わらせてしまうと、施策で思うような成果を出せない可能性があります。
以下のポイントも意識することが大切です。
採用後の人事戦略と一貫性を持たせる
あくまで採用は、自社の業績に貢献する優秀な人材を確保するための手段の一つでしかありません。採用戦略を、入社後の人事戦略と連動させていくのは重要なポイントです。
たとえば自社内に入社後十分な育成ができる体制が整っているのであれば、採用時点では将来性に期待できる人材の獲得を中心に考えるべきです。一方、育成にコストがかけられない場合には、即戦力となる中途社員の採用をメインにした方が良い結果につながるでしょう。
採用担当者の実務スキルを上げる
優れた戦略があっても施策を実行する担当者のスキルが不足している場合には、計画通りの運用ができない可能性があります。とくに採用担当者は雑務や社内外の関係者とのコミュニケーションなど、多くの業務を抱えているケースが多いでしょう。そうなると、常にスキルを高め、的確に戦略を実行に移せる体制を作り上げておかなければなりません。
また、選考フローの中でも最も重要なのが面接です。面接官には応募者が自社の定める要件に合っているかの見極めに加えて、自社の魅力をアピールして入社の動機付けをする役割もあります。近年では、オンラインでの面接も主流となってきているため、より専門的なスキルが必要でしょう。採用担当者は面接のスキルについても高めておく必要があるのです。
人事のリソースを確認する
採用戦略を進めるにあたっては、人事担当者に十分なリソースがあることが理想です。戦略の実施に必要なリソースが確保できない場合には、一部の業務をアウトソーシングし、採用に直結するコア業務に集中して取り組むのも一つの手といえます。
戦略の実行と改善はセットで考える
採用活動は長期戦です。綿密に採用計画を立てて実行に移したとしても、すぐに思った通りの結果が出るケースは稀でしょう。戦略が正しかったのかどうか、効果の検証をする動きは重要といえます。いわゆる「PDCAサイクル」を回しながら同じ失敗を繰り返さないよう、施策の実行と改善を繰り返していきましょう。
とくに技術や人材の状況が変わりやすいIT業界においては、効果的な手法といえます。
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