人材要件(採用要件)とは?
もしかすると、「人材要件」「採用要件」という用語に聞きなじみのない採用担当者もいるかもしれません。まずは、人材要件にまつわる基本情報をまとめていきましょう。
1. 人材要件=自社が採用したい人物像の定義
「人材要件」とは、企業が採用したい理想的な人材像を具体的に定義したもので、採用ターゲットとなる人材の属性やスキルを詳細に言語化するものです。
人材要件の設定は採用活動を成功に導くための重要なステップであり、企業にとって必要不可欠なプロセスです。人材要件を『人材要件フレームワーク』などに沿って明確に設定することで、企業はどのような人材を求め、どのような人材を採用すべきかを明確に理解できます。
これにより、採用活動がよりスムーズに進められるほか、ミスマッチのリスクを低減できるようになるのです。
2. 人材要件フレームワークとは
人材要件フレームワークとは、人材要件を次の4つの要素で具体的に言語化したものです。
- MUST:求職者が必ず持っていなければならない基本的なスキルや経験
- WANT:持っていると企業にとってプラスとなるスキルや経験
- BETTER:求職者が持っていると企業にとって大きな利点となるスキルや経験
- NEGATIVE:企業にとってマイナスとなる特性や経験
この人材要件フレームワークを用いることで、企業は求める人材像をより分かりやすく定義できるでしょう。採用担当者の間で採用ターゲットに対する認識を共有するためにも、人材要件フレームワークは非常に重要なのです。
3. 人材要件と採用ペルソナの違いとは
3. 人材要件と採用ペルソナの違いとは
人材要件と混同されやすいのが、「採用ペルソナ」という考え方です。
人材要件と採用ペルソナは、どちらも企業が採用活動を行う際に重要な要素ですが、その役割と内容が異なります。人材要件は上述のとおり、企業が求めるスキルや経験などを明確にした条件を指します。一方で採用ペルソナは、さらに具体的な人物像を描き出したものです。
採用ペルソナは人材要件で設定したスキルや経験に基づいて、架空の人物のプロフィールを作成するため、「家族構成」や「出身大学」、「これまでの経験」「週末の過ごし方」などの個人的な情報も設定していきます。
人材要件(採用要件)の定義がなぜ必要になるのか
ここまで「人材要件」の概要を説明してきましたが、企業の採用活動においては人材要件の定義はますます重要性が高まっています。人材要件の定義が必要な背景としては、大きく次の2つが挙げられます。
背景(1)少子高齢化にともなう労働人口の減少
背景(2)仕事に対する価値観の多様化
それぞれ詳しく見ていきましょう。
背景(1)少子高齢化にともなう労働人口の減少
背景(1)少子高齢化にともなう労働人口の減少
少子高齢化が進む日本では、労働力となる人口が年々減少しています。企業が採用できる人材には限りがありますので、自社が求めるスキルや経験を持つ人材を見つけることはますます困難になっていくでしょう。
そのため、企業はより具体的に、どのような人材を求めているのか、その人材が持つべきスキルや経験は何なのかを明確化する必要があるのです。
人材要件を定義することで、日本国内の採用市場における競合優位性を高め、求める人材を採用しやすくなるというわけです。
背景(2)仕事に対する価値観の多様化
背景(2)仕事に対する価値観の多様化
現代社会では仕事に対する価値観が多様化しており、人々が求める仕事の形や働き方は常に変わり続けています。仕事観の多様化は、人々が自分自身のライフスタイルや価値観に合わせた働き方を求めるようになった結果といえるでしょう。
人材要件を開示すれば、求職者はその仕事が自分の仕事観に合っているかどうか、応募前に確認できるようになります。
その結果として、自社の働き方に賛同する求職者が集まりますので、採用のミスマッチを防止できるほか、入社後もモチベーションを維持しやすくなるのです。
人材要件(採用要件)を定義するメリット
では、人材要件を定義する主なメリットは何なのでしょうか。ここでは、2つを挙げて解説していきましょう。
メリット(1)自社が求める人材を客観的に採用できる
メリット(1)自社が求める人材を客観的に採用できる
人材要件を定義すれば、企業は求職者を客観的に評価し、自社が求める人材を採用しやすくなります。また、人材要件を明確にすれば、求職者も自分がどのようなスキルや経験を持っているか、それが企業側の求める人材像とどのように一致するかを理解しやすくなるでしょう。
求職者と企業の間のミスマッチを防いで採用結果を最適化するうえで、人材要件の定義は非常に有効なのです。
メリット(2)PDCAを回して素早く軌道修正できる
メリット(2)PDCAを回して素早く軌道修正できる
人材要件の定義は、企業がPDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルを効果的に回すための基盤ともいえます。
具体的には、企業は人材要件を基に採用計画(Plan)を立て、それに基づいて採用活動(Do)を行います。そして採用結果を評価(Check)し、必要に応じて採用方針を修正(Action)します。
このようなPDCAサイクルを回すことで、企業は採用活動における方針や基準を常に改善し続けられ、素早く軌道修正ができるようになるでしょう。
人材要件(採用要件)の作り方
人材要件(採用要件)の作り方
人材要件は正しい手順に沿って作成する必要があります。一般的に、人材要件は次の手順で作成します。
手順(1)自社の企業理念や経営戦略を要件に落とし込む
手順(2)MUST・WANT・BETTER・NEGATIVEの優先度を明確にする
手順(3)定性的な要件を踏まえて採用ペルソナを設定する
手順(4)採用ターゲットへの訴求ポイントをまとめる
それぞれの手順で何をするのか見ていきましょう。
手順(1)自社の企業理念や経営戦略を要件に落とし込む
手順(1)自社の企業理念や経営戦略を要件に落とし込む
人材要件を定義する際は、まず自社の企業理念や経営戦略を理解しておかなければなりません。自社が最終的にどのような未来を目指しているのか、どのような組織をつくりたいのか、そのためにどのような採用計画が必要なのかを把握し、どのような人物が必要となるかを明確にしておきましょう。
また、自社の経営理念や企業理念と採用計画を比較して、矛盾が生じていないか、非現実的な計画となっていないかを見極めることも重要です。
手順(2)MUST・WANT・BETTER・NEGATIVEの優先度を明確にする
手順(2)MUST・WANT・BETTER・NEGATIVEの優先度を明確にする
新規人材に求める条件が明確になったら、それらに優先順位をつけます。求める条件を「人材要件フレームワーク」のMUST・WANT・BETTER・NEGATIVEの4要素に分けて、どの要素が最も重要であるかを検討しましょう。
ただし、条件が多ければ多いほど全ての条件を満たす人材を見つける確率は低くなります。業務に必要なスキルを持っているにもかかわらず、一部の条件を満たしていないために採用を見送ってしまうのは大きな機会損失です。優秀な人材を見逃さないためにも、条件の優先順位付けは必須といえるでしょう。
なお、MUST・WANT・BETTER・NEGATIVEの4要素を検討する際は、誰が見ても分かるように客観的もしくは定量的に定義する必要があります。例えば、即戦力となるエンジニアの人材要件を作成する場合、次のような項目が考えられるでしょう。
カテゴリ | 条件 |
---|---|
MUST(必要条件) | ・要件定義を実施した経験 ・コーディングの経験 |
WANT(十分条件) | ・プロジェクトマネージャーの経験 ・Webシステム開発の経験 ・アプリ開発の経験 |
BETTER(歓迎条件) | ・技術営業に携わった経験 |
NEGATIVE(不要条件) | ・エンジニアとしての勤務経験が5年以下 ・常駐勤務不可 |
手順(3)定性的な要件を踏まえて採用ペルソナを設定する
手順(3)定性的な要件を踏まえて採用ペルソナを設定する
MUST・WANT・BETTER・NEGATIVEの4要素を洗い出し、それぞれの優先度を決めたら、次に定性的な要件を考えていきます。
定性的とは数字で表しにくい特徴を指しますが、「ポジティブで積極的」「会話がうまい」「完璧主義」「トライアンドエラーを恐れない」などが挙げられます。
客観的なスキルや経験、資格などだけで人材を採用すると、採用後に思わぬミスマッチが発生するかもしれません。候補者が入社後のびのびと活躍できるように、また自社とWin-Winの関係を維持できるように、定性的な要件も踏まえて採用ペルソナを設定するようにしましょう。
手順(4)採用ターゲットへの訴求ポイントをまとめる
手順(4)採用ターゲットへの訴求ポイントをまとめる
ここまで設定した人材要件と採用ペルソナをまとめると、採用ターゲットに対する訴求ポイントを明確化できます。訴求ポイントをまとめる際は、自社がどのような特性を持つ人材にとって魅力的な職場であるのかを、人材要件と照らし合わせることが重要です。
また、採用活動を進めるうえで競合他社の分析は欠かせません。特に、同じ業界で同じターゲットに対して採用活動を行っている競合他社がいる場合、それらの会社がどのような戦略で採用活動を展開しているのかを細かく研究しましょう。
競合他社の成功事例は、自社の採用方針を決めるうえで非常に参考になります。競合他社と自社を比較し、自社の強みと弱みを把握することはもちろん、それを踏まえた“差別化したメッセージ”を発信することが重要です。
そのため、単に自社の長所をアピールするだけでなく、競合他社と比較したうえでの優位性を強調するメッセージを考えることが効果的でしょう。
人材要件(採用要件)を作成する際のポイント
前述した手順に沿って人材要件を作成する際には、いくつかポイントがあります。特に、次の3点を意識するようにしましょう。
ポイント(1)人材要件を作るアプローチを理解する
ポイント(2)入社後の育成による伸び代を考慮する
ポイント(3)効果検証とPDCAを徹底する
それぞれ詳しく解説していきます。
ポイント(1)人材要件を作るアプロ―チを理解する
ポイント(1)人材要件を作るアプロ―チを理解する
先ほど人材要件の作り方を解説しましたが、初めて人材要件に取り組む企業の場合は何から始めれば良いか分からないかもしれません。
そのような企業の採用担当者におすすめなのが、人材要件の「演繹的アプローチ」と「帰納的アプローチ」です。演繹的アプローチと帰納的アプローチはどちらも人材要件を作るうえでポピュラーな方法ですが、それぞれ目的や役割が異なります。
・演繹的アプローチ
演繹的アプローチは人材要件を考える際に、企業の「ありたい姿」から必要な人材を検討する手法です。
まず、経営方針や事業計画を確認し、採用担当者自身がその内容を深く理解します。詳細な経営方針や事業計画については、経営層へのヒアリングを実施し、採用の目的や大まかな方向性をすり合わせます。
次に、今回の採用活動で獲得したい人材について、現場責任者や該当部署の社員にヒアリングを実施します。現場感覚を正しく理解したうえで、求める人物像の条件について、条件、スキル、人柄など各項目をリストアップしていくのです。
ここで重要なのは、まず「どのような仕事を任せたいか」を明確にしたうえで、「それができる人」を採用の基準とすることです。
求める人材の基準が出揃ったら、その中で優先順位をつけます。すべての基準を満たす完璧な応募者を探すことは非現実なので、理想を追い求めすぎず、MUST・WANT・BETTER・NEGATIVEに振り分けて考えます。
採用要件の軸が見えてきたら、もう一歩踏み込んだ採用ペルソナを設定していきます。
・帰納的アプローチ
・帰納的アプローチ
前述した「演繹的アプローチ」は“企業の目指す姿”から求める人材像を逆算する手法でした。それに対して、現場で実際に活躍している人材の特性やスキル、価値観などを分析し、それを基に人材要件を設定する手法が「帰納的アプローチ」と呼ばれます。
帰納的アプローチでは実在する成功事例に基づいて人材要件を定義するため、採用担当者の間で認識のズレが起きにくく、また採用した人材のパフォーマンスも再現性が高くなります。
しかし帰納的アプローチだけに頼ると、組織の多様性が失われ、新たな視点やアイデアを持つ人材の採用が見逃されるかもしれません。最も理想的な人材要件は、未来志向の演繹的アプローチと現状分析の帰納的アプローチをバランス良く組み合わせることで作られるということを理解しましょう。
ポイント(2)入社後、育成によって伸ばせるスキルを考慮する
ポイント(2)入社後、育成によって伸ばせるスキルを考慮する
特に新卒採用の場合、基本的にポテンシャル採用となるため、多くの条件をあらかじめ満たす人材を探すのは非常に困難です。ですので、人材要件は極力絞ったうえで、候補者の先天的な資質を重視しましょう。
先天的な資質が人材要件と合致していれば、その他の部分は入社後の教育で伸ばせます。一方で後天的なスキルや経験が人材要件と合致していても、先天的な資質を入社後に開発することは極めて困難です。
たとえば研究職やアナリストを採用する場合、専門分野の学力が高く研究に没頭できるような人は、ビジネスマナーや業務知識を教えることで育成できます。一方で、研究所にこもることが苦手で、人と話すのが好きな人には苦痛になってしまいます。後者のケースは先天的な要素となるため、入社後の育成では開発が難しいでしょう。
適材適所の人員配置を実現するためにも、「最初から備わっていてほしい素質」と「後から育てられるスキル」を見極めることが重要です。
ポイント(3)効果検証とPDCAを徹底する
ポイント(3)効果検証とPDCAを徹底する
人材要件は一度設定したら終わりではなく、組織の成長や進化にともなって常にアップデートする必要があります。そのため、定期的な効果検証とPDCAサイクルの適用が不可欠です。
要件が適切に設定されているか、またその結果が組織の目標達成に寄与しているかを確認することで、必要な改善点を見つけ出し、より適切な人材要件を設定できるようになるのです。
採用のアウトソーシングならパーソルビジネスプロセスデザインへ
本記事では、人材要件・採用要件の定義方法、作成時のポイントについてご紹介してきました。
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