「要員計画」とは
『要員計画』は、近年の「人材マネジメント」のなかで注目が高まっている手法の一つです。
しかし、『要員計画』というキーワードを耳にしたことはあっても、正確な意味や定義がわからない人も多いのではないでしょうか。
そこで、まずは『要員計画』について解説していきましょう。また、要員計画とよく似ている用語である『人員計画』との違いについても触れていきます。
概要
『要員計画』とは、企業が事業計画を進める際に必要な人員の確保や不要な人員の整理を行う計画および、それを立てていくことを指します。人材採用や人事異動を考えるために行われる手段であり、経営計画を進めていくのにも必要な要素です。
自社社員の能力開発や研修といった「社員の成長を促す業務」も、この『要員計画』のなかで行われているものです。
つまり、文字通り「自社の要員にかかわるすべての業務をこなすための計画」といえるでしょう。
「人員計画」との違い
「要員計画」と同じ意味で用いられることも少なくないのが「人員計画」というキーワードです。
この「人員計画」とは、厳密には部署ごとにどのような人材が必要か、どこにだれを配置するのかを具体的に考え、計画することを指します。
もっとシンプルに表現するならば、「人員配置を具体的に行うための計画」です。つまり、「要員計画」による人員の確保や整理が行われていないと、人員計画に取りかかることはできません。ですから、人員計画は要員計画の一部であるともいえるのです。
要員計画を立てることで得られる3つのメリット
要員計画を正しく行うことで、以下のメリットを享受することができます。
【要員計画によって得られる3つのメリット】
- 人材バランスの維持
- 採用のすれ違いや離職防止
- 生産性・モチベーションの向上
それぞれの内容について、ひとつずつ解説していきます。
人材バランスの維持
要員計画を立てる際には、実際の部署に必要な人材を把握することができます。
つまり、要員計画を立てて実行することで、人員の過不足による業務のロスやコストを最小限に抑えることが可能になるのです。
もちろん、人員の配置や採用にかけられる予算の兼ね合いもありますし、実際の採用応募者の状況などの制限もあります。そのため、要員計画を実施すれば必ず人材不足を解消できるというわけではありません。
それでも、必要な人員を把握して定義していくことには人材バランスの維持という点で一定の効果が期待できるといえるでしょう。
採用のすれ違いや離職の防止
要員計画を立てる際には、「足りない人員」や「必要とされるスキル」などについて現場の意見をヒアリングしていきます。そうすることで、人材募集の際に必要なスキルや求められる特性などを明確に定義できるようになっていきます。
その結果として、以下のような効果がでてくることにもなります。
- 必要としている人材からの応募が増える
- 入社後のギャップによる離職が低下する
また、二次的なメリットとして「社員の定着率が高まることによる人事業務の負荷軽減」などにもつながる場合が考えられるでしょう。
生産性・モチベーションの向上
適切に要員配置を計画する場合には、前述したようなヒアリングをもとに「現在の業務量」について再確認して計画していくものです。そういった過程で業務量などを見直しすることで、実際の現場を『可視化』することにもつながっていきます。
可視化したうえで人員を適切に配置することができれば、従業員にかかる業務の負担が軽減され、業務の生産性や精度の向上が期待できるようになるでしょう。
さらに、適切な人員配置が行われた環境は従業員も働きやすくなるため、従業員のモチベーションが向上しやすくなることにもつながります。
従業員の生産性・モチベーションの向上による効果が出てくるようになると、新しい事業や働き方に挑戦する余裕も生まれるかもしれません。適切な要員計画は、企業の成長にも大きなメリットをもたらすものなのです。
要員計画の立てかた|2つのアプローチ
続いて、要員計画の立てかたについて解説していきます。
要員計画を立てることによるメリットを説明してきましたが、メリットを理解できたとしても、すぐに実行できるとはかぎりません。
要員計画を立てたことのない企業の場合、「どこから手をつければよいのかわからない」というのが本音かもしれません。
そこで、前提条件として押さえておきたいのが要員計画の立てかたの『2つのアプローチ』です。2つのアプローチというのは「トップダウン方式」と「ボトムアップ方式」を指しますが、どちらにもメリット・デメリットがありますので自社への導入シーンを思い浮かべながら読み進めてみてください。
要員計画の立てかた……トップダウン方式
まずはトップダウン方式の概要とポイントを押さえていきましょう。
詳しい内容については以下のとおりです。
(1)トップダウン方式の概要
「トップダウン方式」とは、経営計画や利益計画などの企業戦略に基づき、人件費と採算から必要な人材を算定する方式のことです。
「マクロ的算定方式」とも呼ばれていますが、算定には以下の指標を用いるのが一般的です。
【トップダウン方式で使われる指標】
- 売上高
- 付加価値
- 損益分岐点
- 人件費率
- 労働分配率
これらの指標を参考に、「総人件費として許容できる人員数」を基準にして、「全体で必要な要員」を算定し、人員を配置していく方式です。
(2) トップダウン方式でのポイント
トップダウン方式の場合、予算にあわせて人員補充などを行います。
そのため、採用業務などが予算を超えてしまう事態を防止できます。その一方で、予算にとらわれてしまい必要な人員を確保できない可能性も生じてしまいます。
トップダウン方式を行う際は、業務を行う現場の「人員不足改善が可能なのか」に注目しなくてはなりません。
要員計画の立てかた……ボトムアップ方式
次に、もう1つのアプローチであるボトムアップ方式について解説していきます。
詳しい内容については以下のとおりです。
(1)ボトムアップ方式の概要
「ボトムアップ方式」は、実際に業務をこなす従業員の声を参考にしながら、各部署の業務量をもとに必要な人員を算定する方式です。別名、「ミクロ的算定方式」ともよばれます。
進めかたとしては、最初に各部署にヒアリングを行い、実際の「業務量」や業務を進めるうえで必要な「人員の数」や「スキル」などを把握していきます。その後、部門ごと→事業所ごと→全社といった順で必要な人員を積み上げていき、会社全体として「どんな人材が何人必要なのか」を算定します。
現場から積み上げながら人員を算定するため、「ボトムアップ方式」ということになるわけです。
(2)ボトムアップ方式でのポイント
ボトムアップ方式の場合には、「業務遂行に何人必要か」という観点で要員を集めていくことになります。
そうすることで、各部署の人手不足の解消につながりますが、一方で、すべての要望に応えようとすると必要な人数が多すぎてしまい、当初予定していた人件費の予算をオーバーしてしまう可能性があります。
人件費の予算オーバーを避けるには、部署の人数やスキルばかりに気をとられていてはいけません。このため、ボトムアップ方式は予算から人員を求めるトップダウン方式とすり合わせを行いながら計画されていくのが理想といえます。
トップダウン方式とボトムアップ方式はどちらか一方だけで進めていくものではなくて、お互いにすり合わせをすることでより正確な人員の把握ができることになるのです。
要員計画の立てかた|フローを解説
最後に、要員計画のフローについても確認しておきましょう。
要員計画を作成する際には必要な作業が非常に多くなりますが、計画立案のフローをしっかり押さえておけば手順に迷わずに進められるはずです。
現状把握と調査
まずは現状把握です。正しい要員計画を立てるには、自社の現状を知る必要があります。
具体的には、以下のようなデータを集めていくことになります。
【要員計画に必要な指標】
項目 | 内容 |
---|---|
年度末在籍人数 | 各部署の増減を考慮したうえで年度末に在籍予定の従業員数を把握する |
年度当初在籍人数 | 年度初めの時点で各部署に在籍している従業員数 |
年度減員分 | 今年度中に減る見込みの従業員数 |
年度増員分 | 今年度中に増える見込みの従業員数 |
要員計画を立てる際は、これらのデータを用意するところから始めていきましょう。また、この後の工程で必要になる以下のデータを現時点から集めておくと、よりスムーズに計画が立てられるはずです。
項目 | 内容 | 計算式や調べ方 |
---|---|---|
労働生産性 | 従業員が生み出す付加価値を労働投入量で割ったもの | 今年度の売り上げ見込み ÷ 人員数 |
直間比率 | ・営業など直接利益を出している人材と、総務などの間接的に利益をもたらしている人材の比率 ・理想的な比率は企業や組織の規模や商品・サービスにより異なるが、直接利益をもたらす従業員の割合が70~80%になるのが目安 | ・人数比率の求め方 間接部署の人数 ÷ 会社全体の人数 ・人件費比率 間接部署の人件費 ÷ 会社全体の人件費 |
求人倍数 | 企業や組織の採用活動における人材状況や求職者の就職難易度を示す | 毎月、厚生労働省が公表する |
新卒者の内定状況 | 就職問題解決のために内定状況をまとめた資料 | 厚生労働省が毎年3月に公表する |
それぞれのデータを整理しながら情報を集めていきましょう。
各部署へのヒアリング
次に、トップダウン方式とボトムアップ方式で必要なデータを集めます。
要員計画をより現実的に行うために、先ほどのデータに加えて以下のデータも収集しましょう。
【トップダウン方式とボトムアップ方式での算出に必要なデータ】
トップダウン方式 | ・事業計画を進めるうえでのニーズ ・人材構成の課題を改善するためのニーズ |
---|---|
ボトムアップ方式 | ・欠員補充のニーズ ・負担軽減のためのニーズ ・専門性の高い人材のニーズ |
これらのデータは自社の部署へヒアリングを行って集め、どちらの方式でも必要な要員を算出していきます。
要員要望数の検証とギャップ調整
データが集まったら、トップダウン方式とボトムアップ方式で要員要望数を算出しましょう。
どちらも計算の性質上、どうしても現実とのギャップがでてしまいます。数値が適切かを確認して、ギャップが出てしまったら埋めておくようにしましょう。
数値の確認やギャップを埋める作業では、労働生産性や直間比率から算出された数値で判断します。これらの数値が適正であれば、すり合わせができていることになります。
新卒採用数の算出
ギャップ調整が終わったら、計算した年度の新卒採用数を割り出しましょう。
新卒採用者は、中途採用者や異動による要員とは違って業務を理解していませんので、教育に時間がかかってしまいます。つまりコストを投じることになりますので、新卒採用者の数は要員計画において重要な要素といえます。
新卒採用者数は、各部署の年度減員分や要員要望数などをもとに割り出していきます。集めたデータやヒアリングをもとに、適切な人数を算出するようにしましょう。
採用計画の立案
新卒採用者数の割り出しが終わったら、採用計画を立案します。
「いつまで」に、「どんな人材」が「何人必要なのか」を考えながら計画していきましょう。
このとき、離職してしまうことや休職になってしまうことも念頭に置いて、余裕を持ったスケジュールを引いていくことが重要です。
採用は、その年の新卒人数や景気に左右されるため、必ずしも計画通りにいくわけではありません。業務をこなしている現場に無理をかけない程度に、現実的な計画を立てるよう心がけましょう。
要員計画の策定
採用計画の立案が終わったら、いよいよ要員計画です。
ただ、要員計画は採用や人事異動だけを取り扱うわけではなく、以下の策定も必要になります。
【要員計画で計画・実行する業務】
- 人材管理システムの構築
- 人材教育や定着のための対策
- 業務改善
これらの作業は並行して行われる場合も多いものであり、より的確な計画が求められます。
根本的な考えとして、自社で働く従業員の成長や、業務改善につながる計画を立てることを心掛けるようにしましょう。
要員計画の決定と運用
要員計画が完成したら、各部署の責任者や経営者に承認をもらいましょう。
承認後は計画を実行に移していきます。
計画を実行する際には、現場と細かく連携を取るようにしましょう。
また、実行している際には、経営計画から大きく外れていないか進捗を確認することも大切な作業です。
中核人材の離職や休職、業績の悪化や業務効率の悪化など、要員計画に大きな影響を与えてしまう変化がある場合には、経営計画とあわせて計画を立て直していく必要が出てきます。常に要員計画と実際の運用が合っているかを確認するようにしましょう。
まとめ
要員計画は、企業成長のために必要な人材マネジメント手法であり、効果的に活用することで、業務効率化や生産性向上につながることがお分かりいただけたのではないでしょうか。
ただ、要員計画を成功させるには、データの収集だけでなくフロー全体の設計や正確な運用が必要になります。
私たちパーソルビジネスプロセスデザインでは、人材採用における全体のオペレーション設計はもちろん、「求人広告管理」から「入社書類の送付」に至るまで、あらゆる採用関連業務のアウトソーシングに対応しています。
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