「受動喫煙」とは
そもそも受動喫煙防止法で禁止している「受動喫煙」とはどのようなものなのか、確認してみましょう。
「受動喫煙」は、室内と室内に準ずる環境において他人のたばこの煙を吸ってしまうことです。
たばこの煙には以下のように二つの種類がありますが、受動喫煙とはそのうち「副流煙」を吸ってしまうことを指しています。
【たばこの煙の種類】
- 主流煙:喫煙者が自分のたばこから吸い込む煙
- 副流煙:喫煙者の周りにいる人が吸い込む煙
副流煙は主流煙よりもニコチン・タール・一酸化炭素などの有害物質が多く含まれており、肺がんなどの原因になるものです。そのため、副流煙による健康被害が注目されるようになっていきました。
職場環境において重要な「受動喫煙防止法」とは
受動喫煙は2020年(令和2年)から「受動喫煙防止法」により取り締まられるようになりました。
続いては、その法律の概要や背景を解説していきます。
法律の概要
「受動喫煙防止法」は、2018年(平成30年)に成立した法律です。
資本金の大きさや常時雇用する労働者の数にかかわらず、すべての事業者が対象となっています。
法律の概要として「労働者の健康保持・促進の観点から、企業や組織は従業員が受動喫煙による健康被害を受けないよう対策しなくてはならない」ということが定められています。これにより、多くの企業や組織が受動喫煙に対する対策を行うようになっていきました。
このあと詳しく解説しますが、受動喫煙防止法には過料などの罰則が設けられています。この罰則は、違反者だけでなく施設管理者も対象になる場合がありますので注意が必要です。
受動喫煙が法律で禁止された背景
受動喫煙への対策は、今までまったく行われていなかったわけではありません。
都道府県・市区町村の条約や、労働安全衛生法・健康増進法などでも、受動喫煙の防止は“努力義務”として推奨されていました。しかし、受動喫煙による健康被害が問題視されてきたことや、2015年にWHOが副流煙の健康被害を防ぐために発効した「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約」への国としての加入などを受け、受動喫煙防止法が成立することになりました。
これにより、それまで努力義務だった受動喫煙対策が、果たさなくてはならない義務として扱われるようになったのです。
受動喫煙対策防止法に関係する4つの法律
職場における受動喫煙防止法は、以下の4つの法律と関係があります。
【受動喫煙防止法に関係する4つの法律】
- 健康増進法
- 職業安定法施行規則
- 安全配慮義務
- 労働安全衛生法
続いては、これら4つの法律と受動喫煙防止法がどのように関係するのか解説していきます。
健康増進法
まず1つ目は、健康増進法です。健康増進法では、2020年4月1日から以下のように複数の新しいルールが定められました。
【健康増進法により定められた新しいルール】
- 屋内での喫煙は原則禁止
- 20歳未満は喫煙エリアへ立ち入り禁止
- 屋内での喫煙には喫煙室を設置
- 喫煙室の標識掲示義務
これらのルールの項目を見るかぎりでは、喫煙施設を設置すればどのような施設の屋内でも喫煙が認められるように受け取れます。しかし、健康増進法では、病院や学校など子供や患者に配慮が必要な施設では、敷地内での喫煙が禁止されています。
厚生労働省のページなどを見ると分かりますが、健康増進法では施設ごとに守らなくてはならないルールが異なりますので、複数の施設を有している企業や組織は特に注意が必要です。自社の施設がどのカテゴリーに当てはまるかを必ず確認しておきましょう。
※参考:厚生労働省「なくそう!望まない受動喫煙」
また、喫煙室を用意できる場合であっても、喫煙室や屋外喫煙所は設備に条件が設けられています。密閉性や空気環境の目安など、規定が細かく定められていますので、設備を設置する際にはあらかじめ確認したうえで取りかかるようにしましょう。
職業安定法施行規則
2つ目の職業安定法施行規則では、2020年4月から「受動喫煙に対する企業対策を募集時・採用時に明示しなくてはならない」と義務付けられました。具体的には、求人募集をする際に「屋内禁煙」「屋外喫煙可」「屋内原則禁煙(喫煙室あり)」などの形でルールを提示しなくてはならないのです。
また、業務を行う場所が複数ある場合には、場所ごとにも明記が必要になります。
受動喫煙防止法は、業務を行う施設だけでなく求人にも影響を与えている点に注意しなければなりません。特に、複数の施設を有している企業や組織は、記載もれに気を付ける必要があるでしょう。
施設の種類や数は、受動喫煙防止法に深く関わってくる要素です。受動喫煙の対策を行う際には、自社の施設に関連する情報をしっかり集めておきましょう。
安全配慮義務
3つ目は、「安全配慮義務」です。従業員の安全や健康を守る安全配慮義務の観点においても、従業員の受動喫煙について配慮する姿勢が要求されます。具体的には、安全配慮義務の中に“従業員の受動喫煙対策”も含まれるようになりました。
例えば、受動喫煙による被害を受けた従業員がいて、被害を訴えているにもかかわらず会社側が対策を行わなかった場合には、従業員から損害賠償請求をされてしまう可能性があります。
普段から受動喫煙の対策は必要ですが、加えて従業員からの指摘や訴えにも気を配る必要がありますので注意してください。
労働安全衛生法
4つ目の労働安全衛生法ですが、2015年6月より労働者の受動喫煙を防止するため「事業者は、(中略)当該事業者及び事業場の実情に応じ適切な措置を講ずるよう努めるものとする」と、事業主に対する努力義務を課しています。
ほかの法律とは異なり受動喫煙に対する対策は努力義務ではありますが、ほかの法の影響からも適切な措置を講じていくことが重要なのは変わりありません。しっかりと受動喫煙に対する対策を行っていきましょう。
受動喫煙防止法の罰則と職場での管理責任
ここまで法律について説明してきましたが、それでは受動喫煙防止法に違反した場合、どのような罰則が科せられるのでしょうか。また、違反者が出た場合には、施設やその管理者にはどのような影響が出るのでしょうか。
続いては、受動喫煙防止法の罰則や職場の管理責任について解説していきます。
どんな罰則が科せられるのか
受動喫煙防止法では、違反者に対して最大50万円以下の過料が科せられると定められています。この過料は違反者だけでなく、違反者が出た施設の管理責任者にも科される場合がありますので、注意が必要です。
また、自社の管理する施設内で従業員ではない人が違反した場合であっても状況次第では施設の管理責任者が罰則を受けてしまう可能性があります。違反者が出ないよう、何らかの対策をしなければならないでしょう。
通報はどこにするのか
従業員・施設の利用客・職場の管理者が「受動喫煙防止法」の違反を発見した場合、通報先は状況や違反の内容によっても異なってきます。
原則的な通報先としては、管轄の行政庁になります。また、従業員や経営者が受動喫煙についての一般的な相談をしたい場合、コールセンターも設けられています。
※厚生労働省:0120-251-262 受付時間 9:30~18:15(土日・祝日は除く)
罰則規定の適用などは個々の行政庁の判断に委ねられ、場合によっては民事裁判が行われることになります。また、悪質な違反者がいる場合には、従業員が警察署や管轄の交番に直接連絡を取るケースもあるかもしれません。
いずれにせよ、従業員や関係者からの連絡が入った場合には、大きなトラブルに発展しかねません。事態が深刻になる前にしっかりと予防策を講じておく必要があるでしょう。
職場の受動喫煙防止法対策
続いて、職場で実際に行うべき受動喫煙防止対策を解説していきます。
企業や施設によって行うべき対策は違いますので、「どの対策が役に立ちそうか」を考えながらご覧ください。
職場での喫煙状況を把握する
喫煙者の人数や一人ひとりの喫煙頻度は、施設や業務内容によって異なります。そのため、まずは従業員にどれだけ喫煙者がいるのかを把握しなくてはなりません。もし、従業員以外で社内施設を利用する人がいる場合には、その人たちの喫煙状況も把握する必要があります。
業種や施設の種類次第では『全面禁煙』が義務付けられている場合もありますので、そういった区分も忘れずに調べておきましょう。
喫煙状況にあわせて設備を整える
職場での喫煙状況が判明したら、それらにあわせて設備を整えていきましょう。
受動喫煙防止法の対策として一番簡単なのは、職場を全面禁煙にすることです。しかし、従業員や顧客・利用者に喫煙者がある程度いる場合は、いきなり全面禁煙にするとトラブルの原因になってしまうかもしれません。
もし従業員や顧客などに喫煙者がいる場合には、喫煙室を設けましょう。ただし、喫煙室はたばこの煙が外にもれないよう受動喫煙防止法で定められた技術的基準を満たしている必要がありますので注意してください。
禁煙しやすい環境づくりをする
職場の喫煙状況にあわせた設備の整備と並行して、禁煙しやすい環境づくりにも力を入れていきましょう。
当たり前の話ですが、喫煙者がいなくなれば受動喫煙への対策も必要なくなります。喫煙者がいなくなったタイミングで設備を撤去して全面禁煙の体制をとれば、対策のために費やす労力を最小限に抑えることができます。
禁煙しやすい環境づくりの具体的な対策としては、以下のものがあります。
【禁煙しやすい環境づくりの例】
- たばこ自販機の撤去
- ニコチンパッチなどの禁煙グッズの無料配布
- 産業医や専門家による禁煙相談や説明会
これらの対策を行うことで、従業員から喫煙者を減らせるかもしれません。副流煙を外にもらさない対策だけでなく、そもそも「発生させない対策」も講じてみると良いのではないでしょうか。
健康経営と喫煙対策
喫煙対策は健康経営にも関係しています。経済産業省が推進している健康経営度調査では、喫煙対策に関する設問も含まれます。令和4年の調査票では、以下の2問があります。
- 喫煙率の低下(設問:従業員の喫煙率を下げるために、どのような取り組みを行っていますか)
- 受動喫煙対策の取り組み(設問:本社を含む国内全事業場の禁煙の状況はどのようになっていますか)
職場における受動喫煙防止対策の支援事業
受動喫煙防止法を施行するにあたり、国は副流煙対策の支援事業も行っています。具体的には、企業や組織が受動喫煙防止法で定められた義務を果たしやすいような複数の支援事業を行っているのです。
受動喫煙防止法を遵守するための対策をする際には、これより解説する支援事業を利用していきましょう。
受動喫煙防止対策助成金
受動喫煙対策のための助成金が国から出ています。
対象は、すべての業種の中小企業事業主で、助成率は2分の1、上限は100万円までです。
助成金の申請は年度ごとに期限が定められていますので注意してください。
この助成金は、喫煙室や屋外喫煙所を設置する際に活用することができます。
助成金に関する問い合わせは、企業や施設のある都道府県労働局の健康安全課、または健康課で受け付けています。
「喫煙所などの設備を整えていきたいが、設備投資のための資金がない」などの場合には、積極的に活用するようにしましょう。
受動喫煙防止対策の無料相談・講師派遣
国は受動喫煙防止対策に関する電話相談や説明会・会合への講師無料派遣なども行っています。
助成金とは異なり、この支援には企業規模の制限はありません。すべての業種の事業主、あらゆる規模の企業が利用できます。
受動喫煙防止法に関する疑問や困りごとがあれば、厚生労働省の業務委託先としてこれらの支援を行っている「企画・宣伝協同組合」へ連絡してみましょう。
【令和6年度受託先】企画・宣伝協同組合
相談ダイヤル:050-3537-0777
HP:https://judou-kitsuen.jp/
※参照:職場における受動喫煙防止対策について
まとめ
受動喫煙防止法はこれまで努力目標とされていましたが、世界的な健康意識の高まりから、2020年に受動喫煙に対する企業や組織としての対策が義務化されました。義務違反に対しては、企業の代表者だけでなく施設の管理責任者も罰則を科せられる可能性があります。
したがって、企業や組織は従来以上に受動喫煙の対策について力をいれて対策をしなくてはなりません。それと同時に、従業員の健康のために禁煙対策を実施していくことも重要です。国による対策助成金や相談ダイヤルなど、支援事業の力も活用しながら対策していきましょう。
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