新卒社員が1年以内に離職する現状
入社して1年以内での早期離職者が出てしまうと、企業はコストや手間などの負担を抱えることになります。
リスクを最小限に抑えるには、日本における離職状況と、離職理由などを把握することが重要です。
自社の状況と照らし合わせながら、ご確認ください。
1年以内に新卒者が離職する割合
以下の図は、厚生労働省のプレスリリース「新規学卒就職者の離職状況を公表します」より、大学卒の3年以内離職推移をまとめたグラフです。このグラフのうち、オレンジ色の部分は『就社後1年以内で離職した割合』を示しています。
引用:厚生労働省プレスリリース「新規学卒就職者の離職状況を公表します」(PDF)
この図を見ると、毎年1割近くの人が1年以内で離職していることがわかります。
新卒離職者全体でみても、ここ数年は3割近くの人が3年以内に離職している状況です。
このように、日本全体を表したデータからも新卒者が1年以内に離職することが珍しくないことが確認できます。
業界別の新卒離職率
次に、業界別の新卒離職者の状況を確認してみましょう。
以下の図は、先ほどのグラフと同じ厚生労働省のプレスリリース資料より、大卒離職者を業種別にまとめたグラフです。
引用:厚生労働省プレスリリース「新規学卒就職者の離職状況を公表します」(PDF)
図を見ると、「宿泊業、飲食サービス業」を筆頭に、サービス業が高い数値を示していることがわかります。
反対に、「電気・ガス・熱供給・水道業」などのインフラ業は一番離職率が低い数値になっています。
新卒・早期離職の理由と特徴
新卒入社から1年以内での離職が少なくない理由を考えるうえで押さえておきたいのが、退職理由です。
以下の図は、「独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)」資料の「若年者の離職状況と離職後のキャリア形成Ⅱ」より、離職理由とその数をまとめたグラフです。
※引用:独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)『第2回若年の能力開発と職場への定着に関する調査 ヒアリング調査』より「第5章 若年者の離職状況と離職後のキャリア形成Ⅱ」を抜粋(PDF)
グラフを見ると、男女ともに「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかったこと」や「肉体的・精神的に健康を損ねたため」が上位にランクされています。
男性はこれに加えて「賃金の条件がよくなかったため」を、女性は「結婚・出産のため」を挙げている人が多いことが、男女それぞれの特徴といえます。
健康を損ねてしまったケースや、結婚・出産など、仕方がない場合もありますが、待遇や賃金の条件は採用試験を受ける前までにはある程度調べられる内容です。早期離職した人たちは、なぜ事前にわかる情報を退職理由にあげているのでしょうか。
これは、入社前に企業と新卒で生まれる「リアリティ・ショック(リアリティギャップ)」が関係している可能性があります。
「リアリティ・ショック」とは、新入社員が入社前の理想と入社後の現実にギャップを感じ、悩んでしまうことを指す用語です。
以下のグラフは、パーソル総合研究所が調査した「就職活動と入社後の実態に関する定量調査」内にある、社会人1~3年目以内の方がリアリティ・ショックを感じた割合をまとめたものです。
※引用:パーソル総合研究所×CAMP「就職活動と入社後の実態に関する定量調査」(PDF)
グラフには、社会人1~3年目のうち76.6%に当たる方が、何らかのリアリティ・ショックを受けていると記載されています。
また、同資料によると、リアリティ・ショックの内容と退職理由には「給与・報酬」や「働きやすさ」など共通する項目も多く見られます(図の赤枠部分)。
このことから、早期離職した方の中には、賃金や残業・休日などに対してリアリティ・ショックを感じてやめた人がいるのではないかと考えられます。
新卒1年以内での離職が企業に与える影響
新卒者の離職率低下の取り組みに本腰を入れるためにも、『1年以内に退職されてしまうリスク』について理解しておくことが重要です。特に、経営陣と現場の社員との間に『早期退職の捉え方』に関して温度感の開きがある場合などは、合理的な判断をするための客観的な情報を用意しておく必要があります。
ここから、「新卒者の離職が起きてしまうと企業にどのような影響があるのか」というのを3つほど挙げていきますので、しっかり把握しておきましょう。
採用・教育コストの無駄
採用手法や実施する研修方法などによって具体的な金額は変動しますが、採用にかかる費用だけを切り取っても1人あたり50万円の費用が発生するとされています。
つまり、何度も新卒者の離職が起こってしまう状況は、これらの採用や教育にかかる費用をかなり無駄にしているといえるでしょう。
また、採用コストを無駄にしてしまうということは企業の収益性を低下させ、結果的には経営体力にまで影響してしまう恐れもあります。経営体力を強固なものにするためにも、採用・教育コストを最適化しておくことは非常に重要なのです。
企業のイメージダウン
離職者が多い企業というのは、求職者だけでなく取引先などに対しても「働きにくい会社」だという印象を与えてしまいます。
新卒での離職者が毎年出るような状態を放置していると、悪い印象がいつの間にか広がってしまい、「求人を出しても、なぜか応募者が来ない」といった状況を作ってしまいかねません。
近年では、SNSやクチコミページから社内の情報が漏れ伝わって拡散してしまうこともあるため、ネガティブな情報への対策は慎重に進めていく必要があります。企業のイメージダウンは、採用業務の妨げになるだけでなく、業績にも悪影響が生じてしまうこともあるのです。
人材確保の難化による悪いスパイラル
少子高齢化や外資企業の参入などにより、現在は新卒社員を簡単に雇用できない状況が続いています。
そのため、新卒が離職してしまった分を新たに採用しようとしても、そう簡単にはいきません。
さらに、新たな採用が進まずに人事部としての業務負担が重くなるということは、既存の社員一人ひとりの業務負担が増えることになるわけですから、さらに社員の定着率も悪くなってしまうことも考えられます。そんな「悪いスパイラル」も起こりかねないのです。
新卒の1年以内離職を防ぐ対策
新卒の社員が1年以内に離職してしまう状況を回避するには、経営側からのアプローチも必要になります。
具体的には、以下のような対策が有効となります。
【新卒の社員が1年以内に離職することへの主な対策】
- 採用ミスマッチの防止
- オン・ボーディング施策の実施
- 労働時間の管理
- キャリアアップ制度やワークライフバランスの導入
それぞれの方法について、詳しく解説していきます。
採用ミスマッチの防止
新卒の離職者が発生してしまう要因のひとつに、「労働環境への不満」があります。
給与をはじめとする労働環境に不満を持たれてしまう企業は、離職者が出やすい状況になりがちです。
業務上の特性としてどうしても待遇や勤務形態にデメリットが含まれる場合には、採用活動の段階から注意して対策を取らなければなりません。その「含まれるデメリット」を理解してもらったうえで、それでも入社したいという意思を示してくれている応募者をしっかり見極めるようにしましょう。そうして採用していく体制を整えていけば、離職者の発生は少なからず抑制できるはずです。
また、新卒の応募者が持つ「仕事への適応力」や、「持っているスキル」を見極める力も鍛えていく必要があります。経営側がやるべきこととしては、採用計画を立てる時点で「欲しい人材」の具体像をしっかり持っておくことが重要となるでしょう。
さらに、前述した通り「労働環境」はリアリティ・ショックが起きる要因のひとつといえます。
採用した社員がリアリティ・ショックを感じて早期退職してしまう事態を防ぐには、求人情報には求職者に対して都合のよいことばかり記載せず、転勤の可能性など社員にとってデメリットになる部分もしっかりと提示しておく必要があります。
オン・ボーディング施策の実施
新入社員が会社になじめるようにする施策のことを「オン・ボーディング」と呼びますが、具体的には以下のことが当てはまります。
【「オン・ボーディング」に該当する施策】
- メンター制度の導入
- 新入社員が自社になじむためのレクリエーション
- 新入社員の研修
新入社員が独り立ちできるようになるには、ある程度の実力がつくまでの間に上司や相談役であるメンターなどのサポートが必要でしょう。そうなると、サポートする上司やメンター役には、「マネジメントスキル」や「フォローアップ力」が求められます。ですから、新卒社員に対する研修と並行して、既存の社員に対しても「マネジメントスキル」や「フォローアップ力」の研修を実施することが重要となってきます。
また、新入社員が孤立しないよう、上司やメンター以外の社員とも交流できる環境を整えておくことも効果的でしょう。相談がしやすく意見を伝えやすい環境は、リアリティ・ショックを緩和し「社員の定着」にもつながっていくはずです。
労働時間の管理
労働時間が長くなると、心身の健康に悪影響を与えてしまい離職の原因になってしまいます。
労働条件が良好な業界や企業は離職率が低い傾向にあることを考えると、労働時間をしっかりと管理することは早期離職の防止に役立つ対策といえるでしょう。労働時間は適切な時間内に収まるよう、管理を徹底していきましょう。
労働時間が長くなってしまう原因は、企業によって異なります。
例えば、労働力が不足しているために一人ひとりの労働時間が長くなっている場合には、部署やチームの再編成が必要になるかもしれません。また、業務のなかには電子化できるものや外部に委託できるものもあるはずです。
そもそも労働時間を管理する必要があるのですが、その際には専用のツールやシステムを導入すると良いでしょう。
労働時間を正確に管理していくことで、長くなってしまう原因を分析することができます。もし「労働時間は長いけれど原因がわからない」という場合には、ツールやシステムの導入をし、すでに何かしら導入されている場合には、それらに蓄積されたデータをもとに分析を行っていきましょう。
キャリアアップ制度やワークライフバランスの導入
早期退職者を生む原因のひとつとして、「なんでこんな仕事をしなくちゃいけないんだろう」といった「仕事内容への不満」も挙げられるでしょう。ですから、早期退職者を防ぐには、キャリアアップするための制度など以下のような「キャリア支援」も有効です。
【新入社員のキャリアを支える制度や支援】
- 若手でも成果を残せれば評価される報酬設定
- 評価理由をこまめにフィードバックする体制
- スキルマップや評価シートを用いたキャリア支援
- 上司の面談やフォロー研修の際にキャリアを考える機会を設ける
これらの支援を行うことで、自身のキャリアの流れや達成すべき目標を具体的に考える機会が得られるはずです。
新入社員が自分自身で「どれだけ業務をこなせているか」を確認し、新たな目標を設定していくことができれば、リアリティ・ショックの緩和にも役立つでしょう。そしてこれらの支援は、新入社員が「自発的に考える力」を養ってくれることにもなると考えられます。
また、キャリアアップ制度の見直しだけでは不十分です。
女性の新入社員が離職してしまう理由のなかには、結婚や出産などの「ライフスタイルの変化」があります。
ですから、そういった変化に対応できない企業では、女性からすると働きにくさを感じられてしまいます。
これからの時代、女性に限らず多様な生きかたや働きかたを選べるようになっていきますから、変化に対応できなければ離職者の防止は非常に難しくなってしまいます。新卒離職者を防ぐためには、キャリアアップ制度の見直しと並行して柔軟な働きかたができる環境を整えていく必要もあるのです。
「考える機会」や「働きかたの環境整備」は、どちらもすぐに対策できるものではありませんが、少しずつでも取り組んでいけば離職者防止につながっていくはずです。まずは、自社の従業員が「どのような対策を求めているのか?」を調べるところから始めてみるとよいのではないでしょうか。
まとめ
新卒社員が離職してしまう状態が、いかに企業の業績に悪影響を与えてしまうかがお分かりいただけたかと思います。
ただ、新卒社員が離職せずに気持ちよく仕事をしてくれるようになるには、企業が様々なサポートを行っていく必要があるのです。
その対策については、いまの人事部のリソースだけでは難しい面もあるかもしれません。
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