受診勧奨とは
受診勧奨とは
受診勧奨とは、健康診断データの結果に基づいて、企業が従業員に対して二次検査など医療機関の受診を勧める行為です。健康診断の結果で「C:要再検査」や「D:要精密検査・治療」と判定された場合に、受診勧奨が実施されます。
健康診断結果の判定は以下の区分で分けられることが一般的です。※ただし、医療機関によって判定基準は異なりますので、あくまで一例です。
分類 | 内容 |
---|---|
A:異常なし | 今回の検査で、異常は認められなかった |
B:軽度異常 | 軽度の異常が見られたが、問題とはならない |
C:要再検査 | 病気に進行する恐れがあるので、再検査を推奨する |
D:要精密検査・治療 | 精密検査や治療など、早めの診察を推奨する |
E:治療中 | 薬物治療中の疾患がある |
なお、生活習慣病の発症リスクが高い従業員に対する「特定保健指導」でも、受診勧奨が行われます。この記事では、特定保健指導ではなく「企業における健康診断」について説明していきます。
受診勧奨をしても従業員が二次検査を受けたがらない理由
受診勧奨をしても従業員が二次検査を受けたがらない理由
企業が受診勧奨を実施しても、二次検査を受けたがらない従業員は一定数いるものです。健康診断の結果表に「◯ヵ月以内に再検査が必要」と記載されているのに、二次検査を受けようとしないわけです。その理由として考えられることを3点挙げて、解説していきましょう。
理由(1)検査費用がかかる
理由(1)検査費用がかかる
定期健康診断にかかる費用は全額会社負担ですが、二次検査は基本的に従業員の負担となります。検査内容によっては自己負担額が数万円かかる場合もあるため、それが一つの壁になって「受診勧奨をしても二次検査につながらない」という面もあります。
理由(2)自覚症状がない
理由(2)自覚症状がない
健康診断結果で「要検査」と判定されても、自覚症状がなければ危機感を持てないため、二次検査を積極的に受けたがらない従業員もいます。
例えば、「コレステロールが高い」と診断されても、初期段階では自覚症状がほとんどないため、検査を受けずそのまま放置してしまうわけです。
しかし、自覚症状が現れた頃には重篤な疾患にかかるリスクが高くなってしまいます。できるだけ早く治療を受けるためにも「自覚症状がなくても二次検査を受ける」ということが重要なのです。
理由(3)企業側は強制できない
理由(3)企業側は強制できない
健康診断を受けること自体は、企業から従業員に対して業務命令として強制できるため、従業員はそれを拒否できません。一方で、二次検査については、企業から従業員に対して受診を強制できません。労働安全衛生法において、二次検査の受診勧奨は企業の努力義務と定められているからです。
そのため、対象者への強制を伴わない形で、企業が対象者へ定期的に声掛けを続けていく必要があるのです。
受診勧奨後に二次検査を受けないリスク
受診勧奨後に二次検査を受けないリスク
受診勧奨後、従業員が二次検査を受けなかった場合にどのようなリスクがあるかというと、一番は優秀な人材を失うリスクではないでしょうか。
二次検査を受けず症状を放置していると、気がつかないうちに悪化してしまうこともあるでしょう。がんや生活習慣病などの早期発見ができず、健康被害が急に現れて休職になってしまうかも知れません。
貴重な人材を失って競争力が低下してしまう恐れもありますので、受診勧奨は経営面においても非常に重要なことなのです。
【会社全体】受診勧奨の効果的な実施方法
続いて、受診勧奨を効果的に行うために「会社全体として実施するべき3つの方法」を解説します。
実施方法(1)就業時間内に二次検査が受診できる体制を作る
実施方法(1)就業時間内に二次検査が受診できる体制を作る
受診勧奨の対象者が就業時間内に二次検査を受診できる体制を構築すると、受診率は向上するでしょう。
平日しか検査が受けられない場合、休暇を取って受診することに抵抗を感じてしまう従業員も少なくありません。会社の制度として就業時間内に受診できる制度を導入することで、抵抗を感じずに受診しやすくなるはずです。
実施方法(2)会社として二次検査の重要性を発信する
実施方法(2)会社として二次検査の重要性を発信する
二次検査の受診率を高めるために、会社として二次検査の重要性を積極的に発信することも重要です。管理職だけでなく経営層からも伝えることで、受診の後押しとなるでしょう。
例えば、社内報や行事ごとの代表挨拶、朝礼など、あらゆる機会において健康情報の発信を続ける仕組みを作っていくと、二次検査の重要性を周知できるはずです。具体的には「健康経営を推進するうえで二次検査は大切で、従業員の健康が企業の資産」ということを強調するとより効果的です。
実施方法(3)上司が部下の健康状態について声がけを行う
実施方法(3)上司が部下の健康状態について声がけを行う
経営層だけでなく、管理職も“健康状態を気遣った声掛け”をすると、従業員の健康への意識が高まりやすくなるでしょう。直接的な受診勧奨でなくても、「最近、体の調子はどうか」と聞くだけで、健康について考えるきっかけになるはずです。
日々の業務や1on1ミーティングを通して、二次検査の受診に間接的につながるきっかけをつくっていくことが重要です。
【人事部】受診勧奨の効果的な実施方法
次に、「人事部が主導となって、二次検査の受診率を上げる3つの方法」を解説していきます。
実施方法(1)二次検査が無料になる給付制度を案内する
実施方法(1)二次検査が無料になる給付制度を案内する
人事担当者から従業員に受診勧奨を行う際には、「労災保険二次健康診断等給付」を案内しましょう。条件を満たす場合、本制度の利用で二次検査が無料で受診できるケースもあります。
具体的には、健康診断結果で以下の項目に「異常の所見」があると判断された場合、無料で二次検査を受けることができます。
・血圧検査
・血中脂質検査
・血糖検査
・腹囲の検査またはBMI(肥満度)の測定
これら4つの項目で異常があると、脳血管と心臓の状態を把握するための以下の検査を無料で受診することができるのです。
- 空腹時血中脂質検査
- 空腹時血糖値検査
- ヘモグロビンA₁c検査
- 負荷心電図検査または胸部超音波検査(心エコー検査)のいずれか一方の検査
- 頸部超音波検査(頸部エコー検査)
- 微量アルブミン尿検査
前述したように、「検査費用が掛かる」ことが理由で二次検査を避けていた従業員にとっては拒否する理由がなくなりますので、受診勧奨の際にこの詳細を案内すると良いでしょう。
実施方法(2)受診勧奨のオペレーションを決める
実施方法(2)受診勧奨のオペレーションを決める
受診勧奨を効果的に実施して二次検査の受診率を高めるには、受診勧奨の社内オペレーションを整備していくことが重要です。オペレーションが曖昧だと、通知漏れが出てしまう可能性もあるためです。
例えば、健康診断結果に「要検査」と判定された従業員がいた場合、メールの送信や資料を作成して実際に送付するまでのルーティンを作ってしまうと良いでしょう。メールの中には「二次検査の重要性」などの健康情報を記載して通知するのです。
それでも受診しなければ、内線電話で直接話して受診を促すなど、受診勧奨の流れを設定しておくことが重要です。オペレーションをしっかりと決めて実践していくことで、受診率の向上が少しずつでも期待できるでしょう。
実施方法(3)社員研修で二次検査の重要性を伝える
実施方法(3)社員研修で二次検査の重要性を伝える
人事部で企画する社員研修などで、二次検査の重要性を含めた「健康」について学ぶ機会を設けましょう。若手社員のうちから健康を意識してもらうことで、受診勧奨をスムーズに実施しやすくなります。
二次検査の受診率が向上しない理由として、検査費用が掛かることや自覚症状の少なさだけでなく、従業員の健康意識の低さもあります。健康を維持するための取り組みはもちろん、「病気の早期発見には検査が重要だ」と伝える研修を設定していくと良いでしょう。
【保健師と連携】受診勧奨の効果的な実施方法
【保健師と連携】受診勧奨の効果的な実施方法
健康診断結果で所見があると判断された場合、保健師や医師と連携して受診を勧奨するケースもあります。ここでは、「保健師と連携して受診勧奨を実施する効果的な方法」について解説していきます。
実施方法(1)保健師が個別にチェックを行う
実施方法(1)保健師が個別にチェックを行う
健康診断の結果が届いたら、保健師が個別にチェックを行って受診勧奨することで、受診率の向上が期待できるでしょう。
企業に所属する産業保健師は、病気や怪我の予防に向けて保健指導を行います。その一環として、従業員の健康改善のために受診勧奨を実施し、二次検査の受診を促すと効果的です。
健康診断の結果から、二次検査の受診を特に急いだ方が良い従業員を判断し、優先的に受診勧奨をすることで病気の早期発見につながります。保健師は健康に関する専門知識を身につけていますので、受診勧奨における説得力も高まるでしょう。
実施方法(2)二次検査に行かない従業員を保健師がフォローする
実施方法(2)二次検査に行かない従業員を保健師がフォローする
受診勧奨でどれだけ声を掛け続けても、二次検査を受診しない従業員も一定数います。そこで保健師がフォローし、たとえ受診しなくても体調や生活改善についてヒアリングしていくと、少しずつ健康への意識に変化が現れるはずです。
保健師であれば、人事担当者だけでは伝えきれない具体的な健康アドバイスを提供でき、受診に向けて従業員の行動変容を促すことができるでしょう。
受診勧奨のリマインドが重要とされる科学的根拠
受診勧奨のリマインドが重要とされる科学的根拠
受診勧奨のリマインドが重要であることは、研究によって科学的根拠が報告されています。具体的には、京都大学大学院医学研究科の星野伸晃氏らが、以下のような実験を行いました。
項目 | 内容 |
---|---|
A実験の目的 | 受診勧奨の「リマインダーレター」が対象者の受診行動に与える影響を調査 |
実験内容 | ・健康保険組合に所属する2014〜2017年の健康診断参加者データを使用 ・参加者の受診行動を改善するために、健診の6ヶ月後に定期的に「リマインドレター」を送付 ・高血圧、高血糖、脂質異常症のスクリーニングが陽性で、健康診断時にこれらの疾患の薬を服用していない参加者を分析対象とした |
結果 | ・2014年に1,739人、2015年に1,693人、2016年に2,002人、2017年に2,144人の参加者が高血圧の解析に含まれた ・病院受診の累積割合は、すべての年で検診後12ヶ月の間に徐々に増加した |
星野氏らは、「リマインダーの送付で受診率を高める可能性がある」と結論づけています。また、「受診者の行動変容を促すには、複数回のリマインダーが必要と考えられる」とも述べています。
この結果から、二次検査の受診率を高めるには定期的に従業員に通知を送ったり、直接話す機会を設けたりすることが重要だと分かります。
人事担当者としては、二次検査を受診していない従業員に対し、受診を促すメールや資料を定期的に送付する仕組みを作っていきましょう。
受診率を高めるならパーソルビジネスプロセスデザインへ
受診勧奨を効果的に実践し、二次検査の受診率を高めることで病気の早期発見につながります。組織全体・人事部門・産業医それぞれが連携しながら、取り組みを進めることが重要です。
しかし、企業担当者のなかには以下の課題を抱える方も多くいらっしゃいます。
・健康診断の管理に手間がかかり、受診勧奨まで手が回らない
・医療機関によって判定基準が異なり、どれが受診勧奨の対象となるか分からない
従業員数が多いほど、健康診断の管理は煩雑になります。受診勧奨以外にも、支払処理や書類のデータ化など、幅広い業務に追われる担当者は少なくありません。
私たちパーソルビジネスプロセスデザインでは、健康診断管理業務をトータルサポートしています。受診勧奨はもちろん、通常の予約や書類管理・作成もお任せいただけます。
また、全国4,000の医療機関と提携しており、健診実施時期からコース内容、オプションまで調整できること、受診料を一括請求できることが強みです。医療機関ごとに請求を行う必要がなくなるため、担当者は煩雑な作業から解放されます。
お客様のニーズに合わせて、作業内容をカスタマイズすることも可能です。健康診断業務でお困りのことがありましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。