コラボヘルスとは
コラボヘルスとは、健康保険組合等の保険者と事業主がそれぞれの役割を持ちながら連携し、良好な職場環境において、加入者(従業員や家族)の予防を含めた健康づくりを支援することです。
従業員の健康を維持そして促進するには、企業や従業員の努力だけでは十分ではありません。事業者と保険者が積極的に連携し、健康増進に向けて取り組むことで、労働災害を防止し生産性向上が実現します。このようなコラボヘルスの実践は、厚生労働省からも推奨されているのです。
コラボヘルスで重要となるのが、健康保険組合と事業主それぞれの役割分担です。双方が同じ目的を持ち、健康保険組合は保健事業を実施することで、事業主は職場環境を整備することで、コラボヘルスが機能します。
たとえば、喫煙率が高い職場でコラボヘルスに取り組むことになったとしましょう。喫煙対策を講じるために、まず健康保険組合の保健師は企業の産業保健スタッフと連携します。健康保険組合側では、禁煙を希望する従業員に個別サポートを実施し、企業側では禁煙場所を拡張したり就業時間内は禁煙にしたりするなど、それぞれが役割を分担して動きます。
このように、役割分担を設けることで喫煙対策が効率化され、目標を達成しやすくなると考えられるわけです。
1-1. コラボヘルスが注目される背景
1-1. コラボヘルスが注目される背景
近年、コラボヘルスが注目されるようになった背景として、日本の労働者年齢の変化が挙げられます。日本は超高齢化社会を迎え、労働者の平均年齢が上昇するようになりました。そして、平均年齢の上昇に伴い生活習慣病などのリスクが高まっています。
そこで懸念されるのが、労働生産性の低下です。健康が損なわれると企業の生産性が低下し、日本の競争力にまで影響を与えてしまいます。そこで、企業は従業員の健康を「資産」と捉え直し、従来は関与していなかった従業員の健康管理に積極的に投資するようになったのです。
コラボヘルスの一環として、厚生労働省は企業には「健康経営」を、健康保険組合の保険者には「データヘルス」を推進しています。双方が積極的に連携し、「健康経営」と「データヘルス」を掛け合わせることで、相乗効果が期待できるからです。
では、「健康経営」と「データヘルス」はどのような内容なのでしょうか。下記に詳しく解説していきます。
1-2. 健康経営とは
1-2. 健康経営とは
「健康経営」とは、従業員の健康増進への投資が企業の生産性を将来的に高める、という考えのもと実施される経営手法です。健康経営はもともと、日本ほど優れた国民健康保険のないアメリカで実施されていました。
近年、日本では労働者の平均年齢の上昇や生産年齢人口の減少、医療費の増加を受け、健康経営が重要視されています。健康経営は、医療費のみに着目して改善するのではなく、人的資本に投資して企業全体の最適化を図る手法です。
今後、企業の持続可能性を実現するには、健康経営を実践して優秀な人材を確保することや、生産性を向上させることが重要だといえるでしょう。
※健康経営については、こちらのコラムでも詳しく解説しています。ご興味ございましたら、ぜひご覧ください。
1-3. データヘルスとは
1-3. データヘルスとは
次に「データヘルス」とは、健康保険組合の加入者の健康に関するデータを活用・分析し、パーソナライズした予防対策や保健指導を、効果的に実施するためのものです。厚生労働省は保険者に対して、データヘルスを取り入れるよう推奨しています。
具体的には、レセプトと呼ばれる診療報酬明細書をデータ化し、さらに健康診断のデータも用いて分析を実施していきます。その結果として、データ分析に基づいた保健事業に取り組みやすくなるというメリットがあります。
データヘルスを推進するうえで、健康保険組合と事業主の連携は欠かせません。加入者にデータヘルスの重要性を理解してもらうには、双方が協力して加入者に健康への意識を高めてもらう必要があるからです。
企業がコラボヘルスを推進する手順
ここでは、企業がコラボヘルスを推進するための5つの手順を解説します。
手順(1)企業・健康保険組合・従業員の課題を把握する
手順(1)企業・健康保険組合・従業員の課題を把握する
まずは、事業主である企業、健康保険組合、従業員それぞれの課題を把握することから始めます。コラボヘルスを推進するうえでそれぞれ役割があるように、課題も異なります。初めの段階で課題を特定しておくことで、解決策を講じやすくなるのです。
それぞれの課題としては、次のようなものが挙げられるでしょう。
企業 | 人材不足によって企業の競争力が低下するという課題。従業員の生産性を上げて、企業の競争力を高める必要性がある。 |
健康保険組合 | 財政が厳しく、保険者のニーズに応えるような機能を充実させることが難しいという課題。 |
従業員 | 健康診断や健康管理への意識が低いという課題。また、間違った医療情報に振り回されているという課題も。 |
手順(2)企業内で推進体制を構築する
手順(2)企業内で推進体制を構築する
次に、企業内でコラボヘルスの推進体制を構築します。人事部や総務部を中心に、健康推進部署と健康保険組合とも連携し、手順1の課題解決に向け機能させることが重要です。たとえば、週次または月次会議を開催して意見交換する場を定期的に設定するなど、運営を進めやすい体制を組む必要があるでしょう。
さらに、コラボヘルスには「健康経営」も含まれることから、社長や役員など経営者直轄の体制を構築することも重要です。くわえて、産業医など外部の専門業者からも助言をもらえるよう、関係構築を進めていきましょう。
手順(3)データを活用して従業員の健康状態を把握する
手順(3)データを活用して従業員の健康状態を把握する
コラボヘルスで欠かせないのが「データヘルス」の利用です。企業と健康保険組合が保有する、“従業員の健康に関するデータ”を使い、健康状態の全体像を分析します。数値で状況を把握することで、課題や解決策を見つけやすくなります。
それぞれの保有データ例は、次のとおりです。
企業の保有データ | 病欠日数、残業時間、有給取得率、ストレスチェック結果など |
健康保険組合の保有データ | 健康診断の結果、人間ドックの結果、医療費、服薬状況、傷病手当金など |
※参考:厚生労働省保健局 「データヘルス・健康経営を推進するためのコラボヘルスガイドライン」
手順(4)「健康白書」を作成して対策を立てる
手順(4)「健康白書」を作成して対策を立てる
各保有データの収集や分析が完了したら、「健康白書」を作成します。健康白書とは、従業員の健康に関するデータから抽出された特徴を示したものです。具体的には、次の項目が含まれます。
<健康白書の内容例>
- 健康状態……生活習慣病の有無やメタボリックシンドロームの割合
- 生活習慣……喫煙、運動、食事、飲酒、睡眠
- 労働状況……残業時間、食生活、有給の取得状況、病気休暇の日数
以上のような項目で、男女比やエリア別分析、職種間で数値比較をして、表やグラフで可視化します。もしメタボリックシンドロームの割合が高いことがわかったら、その対象群に向けて生活習慣病の改善やリスク回避のための施策を打ち出します。
また、従業員が自分自身で改善できるよう、生活習慣を自己管理できるツールを提供したり、パーソナライズした情報提供をしたりするのも効果的です。
このように、健康白書を作成することで「どのような健康事業を実施すればいいか」を把握できるでしょう。
※わたしたちパーソルビジネスプロセスデザインが提供する『Health Data Bank』は、健康経営の支援システムであり、企業ごとに健康診断の結果サマリーや疾患の発症リスクなどを簡単に集計することができます。もしご興味がありましたら、以下のサービスページをぜひご覧ください。
手順(5)PDCAサイクルを回す
手順(5)PDCAサイクルを回す
データに基づいた健康事業を計画して実行に移し、効果を評価し改善を繰り返します。つまり、“PDCAサイクル”を回しながらより良い健康支援事業へと改善することが重要です。コラボヘルスのPDCAサイクルでは、次の点に考慮して実行していきます。
P(計画) | 加入者の健康状況や課題を明確にして健康支援事業を計画 |
D(実行) | 費用対効果を検討しながら、保健事業を実施 (例) ・生活習慣病の予備軍へ情報提供や自己管理ツールの提供 ・糖尿病を患う従業員へ合併症の防止に向けた取り組みを実施 |
C(評価) | 客観的な指標を用いて成果を確認。効果が出た原因、出なかった原因を探る |
A(改善) | 目標数値や計画を改善 |
コラボヘルスを推進するときのポイント
最後に、コラボヘルスを推進するうえで注意すべきポイントについて2点解説します。
ポイント(1)企業と従業員では“目標に相違がある”と理解する
ポイント(1)企業と従業員では“目標に相違がある”と理解する
コラボヘルスを実施するうえで、企業と従業員はそれぞれ違う目標があるという点を忘れてはいけません。企業はコラボヘルスを通じて、生産性や競争力の向上を目標としています。一方、保険者は保健事業をスムーズに運営することや、医療費の負担を軽減することを目標としているでしょう。
前述したようにコラボヘルスで重要な点は、各ステークホルダーが異なる立場から役割を担っているということです。それぞれの立場で異なる課題があり、目標にするものも違います。
ですから、お互いの立場を尊重しながら協力することが重要だといえるでしょう。
ポイント(2)健診結果は“要配慮個人情報”であることに注意する
ポイント(2)健診結果は“要配慮個人情報”であることに注意する
従業員の健康診断結果は「要配慮個人情報」ですので、取り扱いには注意が必要です。従業員によっては、健康診断で発覚した病名を社内の他の人に知られたくないという場合もあるでしょう。適切に取り扱えなければ、プライバシー権の侵害が生じて民法上の責任が問われるリスクも起こり得るので、慎重に管理しましょう。
リスクを回避するために、情報を取得する前に法律に基づいた手続きを踏むことが大切です。健康診断の結果を第三者に提供する場合は、必ず本人の同意を得ましょう。ただし、あらかじめ個人データを「共同利用する」と覚書などで通知している場合、共同利用者は第三者に該当しません。
「共同利用」の覚書については、厚生労働省保健局の「データヘルス・健康経営を推進するためのコラボヘルスガイドライン」に見本が掲載されていますので、ぜひ参考にしてください。
※参考:厚生労働省保健局 「データヘルス・健康経営を推進するためのコラボヘルスガイドライン」
コラボヘルスを推進するならパーソルビジネスプロセスデザインへ
コラボヘルスを効果的に推進するには、事業主と健康保険組合との積極的な連携が重要です。それぞれの役割を果たしながら推進することで、効率的に目標が達成されていくでしょう。
しかし、「どうやって保健事業を推進すればいいかわからない」「プログラムがマンネリ化していて、専門的なアドバイスが欲しい」といった悩みを持つ担当者は多くいらっしゃいます。
パーソルビジネスプロセスデザインでは、そのような特定保健指導の問題を解決する「特定保健指導サービス」を提供しています。第4期特定保健指導「アウトカム評価」にこだわり、管理栄養士・健康運動指導士・心理師の専門的な指導が受けられます。心理学的アプローチで、体重を減量させる取り組みと減量した体重を維持するスキルの獲得を促すプログラムです。
きめ細かいフォローによって継続率は95.6%(2022年度実績)と高く、多くの健康保険組合様から高い評価をいただいています。
また、「健康診断の受診率を向上したい」「健康診断の煩雑な事務手続きの負担を軽減したい」というお客様には、「健康診断実施支援サービス」がおすすめです。医療機関との契約や日程調整、受診状況を可視化することで、受診率が改善します。
社内負担を軽減しながらコラボヘルスの推進を検討されている方は、ぜひお気軽にお問合せください。