健康診断の受診率にはどのような特徴があるのか
健康診断の実施は“会社に課せられた義務”ですが、すべての労働者が健康診断を受診できているわけではありません。平成24年度の厚生労働省の調査では、常用労働者のうち過去1年間に健康診断を受診した割合は81.5%でした。
※参考:厚生労働省「平成24年労働者健康状況調査 結果の概要」(PDF)
では、この“受診率”には具体的にどのような特徴があるのでしょうか。3つほど挙げて解説していきましょう。
受診率の特徴(1)パート・派遣従業員の受診率が低い
受診率の特徴(1)パート・派遣従業員の受診率が低い
まず、就業形態によって健康診断の受診率は異なります。正社員は94.9%、契約社員は92.7%と90%台ですが、パート従業員は58.9%、派遣社員は75.9%と低い数値であることが特徴的です。
パート従業員が健康診断を受けなかった理由として、「健康診断が実施されなかった」が41.2%を占めています。本来であれば、正社員以外の雇用形態においても、以下の条件に当てはまる場合には健康診断を行うことが義務付けられています。
- 無期契約または1年以上の契約期間で勤務している
- 正社員の1週間の所定労働時間数の4分の3以上勤務している
正社員以外の雇用形態の従業員に対しても健康診断をきちんと受けられるような仕組みを整備することで、受診率は向上させられるでしょう。
受診率の特徴(2)実施率100%でも受診は80%台にとどまる
受診率の特徴(2)実施率100%でも受診は80%台にとどまる
健康診断を会社が行っている割合を示す「実施率」は、事業所の規模によって異なります。従業員数が10~29人の小規模事業所では実施率が89.4%であるため、受診率も77.0%と低い割合です。「健康診断を定期的に行えていないために、受診していない従業員もいる」ということが分かります。
一方で、500人以上の事業所では実施率は100%であるにもかかわらず、受診率は80%台に留まっています。この数字からは「会社が健康診断実施の義務を果たしていても、受診をしない従業員が一定数存在する」ということが分かるでしょう。
受診率の特徴(3)有所見率は年々増加傾向にある
受診率の特徴(3)有所見率は年々増加傾向にある
受診率に関連し、健康診断を受けた結果として異常所見がみられた割合を示す「有所見率」は年々増加傾向にあります。平成18年度に48.0%だった有所見率は年々増加し、令和2年度には63.6%にまで上昇しています。
健康診断の受診率が100%でない状態が続いているのにもかかわらず、有所見率は増加し続けています。つまり、健康診断を受診していない従業員の中に健康上の異常が見つかる可能性は大いにあるといえるでしょう。健康診断を受診しない従業員を見過ごすことは、会社の利益を損ないかねないのです。
従業員が健康診断を受診しない7つの理由
厚生労働省の統計からは、健康診断を受診しない従業員が一定数いることが読み取れます。では、健康診断を受診しないのはどのような理由からなのでしょうか。続いては、「受診したがらない7つの理由」について紹介していきます。
従業員が健康診断を受診しない理由を理解して、適切な対処を取れるようにしましょう。
理由(1)忙しくて時間がない
理由(1)忙しくて時間がない
業務が忙しいなどの状況から「健康診断を受ける時間を取れない」ということが、理由の1つとして挙げられます。
一般健康診断は「労働時間内に行うことが望ましい」とされているものの、必ず時間内に実施しなければならないという義務はありません。そのため、労働時間外に健康診断を受けるよう指示があった場合には、受診する意欲が湧きにくいといえるでしょう。
また、健康診断を受ける医療機関は、会社から指定されることが多くあります。そのため、必ずしも従業員からすると通いやすい場所でないことも多々あるのです。
ですから、業務の調整や任意の医療機関での受診を許可することなど、受診しやすい仕組みづくりが必要になるでしょう。
理由(2)自主的に健康管理をしているから問題ないと思っている
理由(2)自主的に健康管理をしているから問題ないと思っている
「病院で定期的に診てもらっているから」という理由で、健康診断を受けたくないと言われることもあります。定期的な健康診断を重要視しておらず、「自分で健康管理できているから大丈夫だろう」と考えてしまうケースです。
一般健康診断は、労働衛生の観点からみて必要な項目を調べるものです。病院で行う診察や定期的な検査は、必要な項目を満たしていない可能性があります。健康診断を受診することで、自覚症状のない疾患が見つかることがあるかもしれません。
健康診断と病院の検査は異なる性質や目的があることを丁寧に説明して、理解を促すことが必要でしょう。
理由(3)受診するのが面倒くさい
理由(3)受診するのが面倒くさい
「受診するのが面倒くさい」「今は健康なので受ける必要がない」と考えているケースも多いでしょう。心身ともに特に何も問題が出ていない若年層に多いパターンだといえます。
一般的な傾向として、何らかの病気や心身の異変が生じた場合に、健康意識が高まって注意するようになります。健康な状態では受診意欲が湧かないのも仕方ないのかも知れません。ですから、「現在は健康でも、受診しないと将来の発症リスクを高める」ということを説明する必要があるのです。
理由(4)心配なときに病院を受診すれば良いと考えている
理由(4)心配なときに病院を受診すれば良いと考えている
「何らかの異常が生じたら、その時に病院へ行って受診すれば大丈夫だ」と考えて、健康診断を受けないケースもあるでしょう。
健康診断の目的は「病気の早期発見」です。生活習慣病の多くは、初期段階では自覚症状がないものが多く、症状が表れてからの治療では遅い場合があります。治療が遅れてしまうとはたらく上で支障となってしまうことを、あらかじめしっかり説明していくことが求められます。
理由(5)病気の発覚を恐れている
理由(5)病気の発覚を恐れている
健康診断を受診することで「病気が見つかる」のを恐れていることも、受診率低下の一因といえます。何か気になることはあるものの、「病気が見つかると、はたらけなくなってしまうのでは」と考えて、受診を控えてしまうのです。
これは実際に病気にかかってしまった時に、会社側がどのような対応をしてくれるのかを知らないことで生じるケースともいえます。病気が発覚しても会社としてきちんとフォローする、ということを詳しく伝えておくと良いでしょう。
理由(6)人事評価に響くことを危惧している
理由(6)人事評価に響くことを危惧している
5つ目の理由に似ていますが、健康診断結果が悪かった時に会社に知られて「人事評価に響くかもしれないから受診したくない」ということも、受診率低下の理由の1つとして挙げられます。
一般健康診断で行う法定項目については、健康診断結果を会社に提出する義務があります。労働衛生上の観点から、従業員が安全に業務を遂行できるかを会社が把握する必要があるからです。
しかし、提出義務があるからといって、健康診断結果は健康に関する個人情報です。そのため、「情報を把握することの目的」を明確にして、不当な扱いをしないことをあらかじめ説明しておく必要があるでしょう。
理由(7)健康診断結果が漏洩することを気にしている
理由(7)健康診断結果が漏洩することを気にしている
会社で健康診断を受診することで「健康診断結果が外部に漏洩してしまうのではないか」と心配して健康診断を受けない場合もあります。健康診断結果は、「要配慮個人情報」とされており、第三者へ提供される場合には、従業員本人の同意を得ることが原則となっています。
同意を得ずに第三者に伝えないことを明記しておく、というように「情報の取り扱い」について従業員に理解を促しておく必要もあるでしょう。
健康診断の受診率を上げる7つの対策
では、健康診断の受診率を上げるためには、どのような対策が必要なのでしょうか。続いては、有効な7つの対策を紹介していきます。
対策(1)受診したくない理由を丁寧に聞きとる
対策(1)受診したくない理由を丁寧に聞きとる
まずは、「受診したくない」と言う従業員がいた場合に、その理由をヒアリングすることが重要になります。
「義務だから受けてください」などと無理に勧めると、反発されてしまう可能性があります。受診を拒む背景にどのような懸念があって受診したくないと言っているのか、従業員の心情に沿って聞き出していくようにしましょう。
対策(2)健康診断の重要性やメリットを説明する
対策(2)健康診断の重要性やメリットを説明する
「受診が面倒だ」「今は健康だから大丈夫」と考えて受診しない従業員に対しては、健康診断の重要性やメリットを周知しましょう。受診の重要性やメリットとしては、主に以下のような点が挙げられます。
- 病気を早期に発見できる可能性がある
- 毎年受けることで、健康状態の変化が分かる
- 検査項目が11項目あるので、網羅的に調べられる
こういった点をしっかり伝えて、少し面倒であっても、今が健康だという自覚があったとしても「受診することが大事だ」ということを認識してもらうようにしましょう。
対策(3)プライバシーや評価に配慮することを伝える
対策(3)プライバシーや評価に配慮することを伝える
受診を拒否する理由として「情報漏洩」や「評価に響く」ということを懸念している従業員に対しては、健康診断結果の取り扱いについてきちんと説明しましょう。
具体的には、厚生労働省の手引きなどを参考に『健康診断結果の取り扱い規程』を定め、パンフレットや社内研修を通じて周知する方法が有効です。規程には、以下の内容を含めると良いでしょう。
- 健康診断結果を会社が把握する目的は何か……疾患の予防、業務上の事故防止など
- 誰が健康診断結果を取り扱うか……人事権を持つ者(社長や人事部門の管理職など)、産業保健スタッフ(産業医、保健師、衛生管理者など)、管理監督者(所属長)、人事担当者
- 健康診断結果を把握する際の本人同意はどのような方法で行うか……口頭、書面、メールなど
- 健康診断結果はどのような方法で管理するか……情報漏洩防止を担う社内体制、情報消去のタイミング
対策(4)健康診断受診に関する福利厚生を強化する
対策(4)健康診断受診に関する福利厚生を強化する
健康診断に関する福利厚生制度を設けることも、受診率を向上させるために有効な方法です。
一般健康診断は無料で受けられますが、オプション検査や人間ドックは自費で受けることになります。検査にかかる費用を会社が負担する制度を設けると、「健康診断だけでは物足りない」と考えている従業員も受診しやすくなるでしょう。
労働政策研究・研修機構のアンケート結果でも出ていますが、特に「人間ドック受診の補助制度」は、福利厚生制度のなかでも従業員から最も望まれている制度です。制度の導入を検討すると良いでしょう。
対策(5)受診にかかる時間や費用などの負担を減らす
対策(5)受診にかかる時間や費用などの負担を減らす
健康診断を受診しやすい環境を設定するのも、受診率を向上させるためには重要です。
受診しやすい環境というのは、例えば「業務負担を考慮して、健康診断日程を“繁忙期以外”に設定する」ということでも良いでしょう。また、健康診断を行う医療機関も従業員の通勤圏内に設定し、「交通費の負担がかからないようにする」ということでも受診しやすくなるはずです。
いずれにしても、従業員がネックに感じている時間や費用などの負担を軽減してあげることで、受診率はおのずと向上していくでしょう。
対策(6)健康診断受診に関する規則を整備する
対策(6)健康診断受診に関する規則を整備する
会社側が従業員に健康診断を受けさせることは法律で定められた義務であり、義務を果たさなければ50万円以下の罰金が課せられる場合があります。しかし、従業員に対する罰則規定はないので、法的な強制力がありません。
そのため、『就業規則』のなかで「健康診断を受けなかった場合の処遇」を明記しておくと良いでしょう。例えば、「会社が指定する医療機関で受診しなかった場合は、自費で受診する必要がある」「受診しない場合は処分が下される」など、細かなルール設定をしておくと効果的でしょう。
対策(7)外部サービスを利用する
対策(7)外部サービスを利用する
受診率を向上させるためには、未受診の従業員を速やかに抽出するための進捗管理が欠かせません。一斉受診が可能な場合は、進捗管理を行いやすいでしょう。しかし、指定した病院を個人で受診してもらう方法では、受診状況を管理しにくいことがあります。
また、健康診断に関する情報を社内に伝える取り組みだけでは限界があるかもしれません。福利厚生を見直そうとしても、コストを掛けることに社内の理解を得られない場合もあるでしょう。そのため、納得のいく有益な健康施策を打ち出すことが必要になります。
進捗管理や健康施策の打ち出し方に困った場合には、外部サービスを利用することも視野に入れると良いかもしれません。外部サービスを利用することにより、データを一元化して煩雑な健康診断の進捗管理を任せることができるはずです。
また、産業保健に精通した外部のコンサルタントに依頼することで、健康診断の受診率を上げる施策の提案も受けられるでしょう。
健康診断支援サービスならパーソルビジネスプロセスデザインへ
本記事では健康診断の受診率を上げる対策について解説してきましたが、健康診断実施に伴うさまざまな業務の代行であれば、わたしたちパーソルビジネスプロセスデザインへお任せください。
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