ナレッジ管理とは
『ナレッジ管理』とは、各社員が所有している技能やノウハウをマニュアル化し、組織内で共有していくことで業務効率化を目指すマネジメント手法です。このナレッジ管理は、1990年代に一橋大学名誉教授の野中郁次郎教授によって提唱されました。
野中郁次郎教授によって提唱されたナレッジ管理では、「各社員が持つ技能やノウハウをマニュアル化し、それを共有しあって新たな創造に繋げていくことが重要だ」と述べられており、下記のような4つのプロセスから成り立っているといいます。
【ナレッジ管理の4つのプロセス】
共同化(Socialization) | 共通体験をもとに暗黙知(技能やノウハウ)を共感し合う |
表出化(Externalization) | 暗黙知を言葉や図表などで形式知化(マニュアル化)する |
連結化(Combination) | 創造された形式知(マニュアル)と既存の形式知を結合する |
内面化(Internalization) | 連携した形式知から暗黙知を生み出す |
ナレッジ管理が広がってきた背景
昨今では、ナレッジ管理を推進する企業が増えてきています。その背景として、以下のようなものが挙げられます。
- 終身雇用の崩壊
- テレワークの普及
- ビジネスの競争激化
- IT技術の進歩
ここでは、これらの『ナレッジ管理が広がってきた背景』について詳しく解説していきます。
背景(1)終身雇用の崩壊
背景(1)終身雇用の崩壊
日本では、従業員を定年まで雇用する人事制度の「終身雇用制度」が崩壊しつつあります。終身雇用制度が崩壊しつつある原因は、日本の経済の低迷です。いわゆる“失われた20年”の中で、企業業績の悪化に伴う大規模なリストラが敢行され、「将来を不安視する人々が自らのキャリアを磨ける職場」を求めて転職する動きが活発になりました。
また、優秀な人材を獲得するために年功序列ではなく「成果主義」が台頭してきたことも、終身雇用制度の崩壊に拍車をかけたといえるでしょう。
しかし、突然にして社員が退職してしまうと、個人に帰属している技能やノウハウは組織から失われてしまうことになります。そのため、ナレッジ共有に取り組む企業が増えてきているのです。
背景(2)テレワークの普及
背景(2)テレワークの普及
2020年、新型コロナウイルスの感染拡大により、三密回避のために「テレワーク」が普及しました。
テレワークが普及する前までは、上司や先輩などから実際の業務を通じて仕事の指導をする「OJT」が一般的な教育方法でした。
しかし、テレワークが導入されると新入社員の様子や仕事の進捗が把握しにくくなり、適切なフォローができないなど従来の教育方法が通用しなくなりました。そのため、OJTに頼るのではなく、技能やノウハウをマニュアル化して共有していく仕組みの『ナレッジ共有』が必要になってきたといえます。
背景(3)ビジネスの競争激化
背景(3)ビジネスの競争激化
多くの市場において需要より供給が上回っている状況が散見され、ビジネスの競争激化が起きているのが現状です。
競合にビジネスを奪われないためにも、価格競争に巻き込まれないためにも、価格以外の独自性をアピールする必要があります。そのためにも、各社員が所有している技能やノウハウを共有したうえで組み合わせ、新たな価値を創出していく活動が求められてきているのです。
例えば、Aさんの持つ「営業ノウハウ」とBさんの持つ「マーケティングノウハウ」を融合させることで、新たな営業戦略が構築できるかもしれません。このように、競争が激化するビジネスのなかで勝ち残っていくためにも、ナレッジを共有する必要があるのです。
背景(4)IT技術の進歩
背景(4)IT技術の進歩
昨今のIT技術の進歩に伴って、社員が所有する技能やノウハウが共有しやすくなってきました。例えば、クラウド上に共有するためのナレッジを保存しておくことで、インターネット接続ができる環境であれば場所を問わずに閲覧できるようになります。
また、5Gなどの通信速度の発展により、テキストや画像の他、音声や動画などのリッチコンテンツも共有しやすくなりました。このように、IT技術の進歩によってナレッジ共有がしやすくなったことも、ナレッジ管理が広まってきた理由といえるでしょう。
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ナレッジ管理が広がってきた背景についてご紹介しましたが、推進することによる効果としては以下のようなものが挙げられます。
- 生産性の向上
- 人材育成コストの削減
- ナレッジの流出防止
それでは、これら『ナレッジ管理のメリット』について詳しく解説していきましょう。
メリット(1)生産性の向上
メリット(1)生産性の向上
ナレッジ管理に取り組むことで、生産性の向上が見込めるでしょう。
最善の方法ともいえる『ベストプラクティス』のナレッジを共有しておけば、各社員が効率的な業務を実践できるようになります。そうして各社員のレベルアップが図れれば、1人当たりの生産性も向上することになるでしょう。
また、特定の人に業務が集中してしまう問題を解決したり、各社員の業務にバラツキが生じるような問題を解決したりもできるはずです。このように、いわゆる『ムリ・ムダ・ムラ』の排除ができることも、ナレッジ管理に取り組むメリットといえるのです。
メリット(2)人材育成コストの削減
メリット(2)人材育成コストの削減
ナレッジの共有をしておけば、新入社員が仮に業務上で分からないことがあったとしてもナレッジを参照しながら自力で解決できるようになることもあるでしょう。
特に学習意欲が高い新入社員の場合には、ナレッジを参照しながら自己学習することができるため、人材育成に掛かる時間や労力を省略することが可能です。
近年では、動画による業務マニュアルも共有されるようになってきました。そういったマニュアル動画を見ながら誰でも業務が進められる状態にしておけば、人材育成にかかるコストを大幅に削減することも可能なのです。
メリット(3)ナレッジの流出防止
メリット(3)ナレッジの流出防止
ナレッジの共有に取り組んでおくことで、社員の退職によってナレッジが失われてしまうのを防ぐことができます。
社員は退職前に後任者へと業務を引き継ぐものですが、業務の引き継ぎというのはなかなか上手くいかないものです。その原因としては、前任者から後任者へ業務をバトンタッチする際に“口頭説明で引き継ぎが行われる”ことが多い、というのも挙げられます。
引き継ぎ資料が用意されていなかったり、資料があったとしても重要な情報が記載されていなかったりすると、後任者は業務において苦労してしまいます。
また、退職者が自社にナレッジを蓄積せず、転職先の他社でそのノウハウを活用してしまうと、いわゆる「ナレッジの流出」ということになります。このような問題を防止するためにも、日頃からナレッジを共有しておく必要があるのです。
ナレッジ管理の導入手順
それでは具体的に、ナレッジ管理はどのような手順で導入していけば良いでしょうか。ここではナレッジ管理に取り組む手順を解説していきます。まず、ナレッジ管理の導入手順としては以下の流れになります。
- 目的とルールを決める
- 推進担当者を決める
- デジタルツールを導入する
- ナレッジを収集・登録・分析する
それでは、ナレッジ管理の導入手順について順を追って解説していきましょう。
手順(1)目的とルールを決める
手順(1)目的とルールを決める
まずは、ナレッジ共有の目的とルールを決めていきます。ナレッジの共有は、社員から協力を得られなければ上手くいかないため、賛同してもらうためにも目的とルールを明確にしていくのです。
社員に賛同してもらうためには、「ナレッジ共有に取り組むと、どのような効果が得られるのか」を具体的に説明することが重要です。また、ナレッジ共有に積極的に取り組んだ社員が評価されるなど、参加者が得られるメリットをしっかりと訴求することもポイントになります。周囲から賛同されるような、「ナレッジ共有の目的とルール」を決めていくようにしましょう。
手順(2)推進担当者を決める
手順(2)推進担当者を決める
次に、ナレッジ共有の推進担当者を決めていきます。推進担当者は、自社の課題を把握したうえで、どの範囲のナレッジを蓄積していくかを決めて取り組んでいきます。
推進担当者の主な業務は、ナレッジ共有の推進です。最初にナレッジを作成して他のメンバーをリードしたり、すでに共有してある情報を見直したりもします。
共有されたナレッジに似たような情報があると、どちらが正しいのか迷ってしまいます。また、情報が古くなったナレッジは活用できないかもしれません。そのような問題も起こりうるので、定期的にナレッジをアップデートする必要があるのです。
手順(3)デジタルツールを導入する
手順(3)デジタルツールを導入する
次に、ナレッジ共有を効率化するために以下のようなデジタルツールを導入していきます。
- FAQシステム……FAQを蓄積して検索可能にし、ユーザーの自己解決を促すシステム
- ナレッジ管理ツール……会社に蓄積したノウハウを、会社全体で共有するためのツール
- e-ラーニングシステム……蓄積したノウハウで、社員が自己学習するためのシステム
ノウハウやナレッジは膨大な量になっていきますので、デジタルツールは「検索性が優れていて欲しい情報が瞬時に取り出せる」ものを選ぶようにしましょう。
手順(4)ナレッジを収集・登録・分析する
手順(4)ナレッジを収集・登録・分析する
次に、冒頭でもご紹介した『ナレッジ管理プロセス(SECIモデル)』に沿って、ナレッジを収集・登録・分析・創造していきます。
【ナレッジ管理の4つのプロセス】
- 共同化(Socialization)……業務を通して技能やノウハウを習得し、ナレッジを収集する
- 表出化(Externalization)……技能やノウハウを、テキストや図表でマニュアル化して登録する
- 連結化(Combination)……既存のマニュアルと新規のマニュアルを分析し、結合させる
- 内面化(Internalization)……新たなノウハウを創造していく
このような流れでナレッジを収集・登録・分析・創造していきますが、その過程において「古いナレッジ」や「重複して登録されているナレッジ」については削除するようにしましょう。
新しいナレッジ管理の方法論「KCS」
ここまでナレッジ管理について説明してきましたが、新しいナレッジ管理の方法論である『KCS』についてご紹介しましょう。
KCSとは「Knowledge Center Service」の略で、米国の非営利団体であるConsortium for Service Innovationにより1992年から研究され、策定・管理されているものです。日本では2015年にHDI-Japanを介してその内容や方法論などが日本に知られ、それから徐々に注目を集めるようになっていきました。
KCSでは顧客からの問い合わせに対してオペレーターが保有する知識で回答するのではなく、顧客の問い合わせ内容を必ずFAQで検索して「回答が登録されているかどうか」を確認します。そして、問い合わせ内容が登録されている場合には、回答内容を確認して回答します。
このように、オペレーターが毎回FAQを検索し確認する目的としては下記のようなものがあります。
- 顧客からの問い合わせ内容がFAQに登録されているかを確認する
- オペレーターが覚えている知識が正しいか確認する
- 回答する内容に情報の抜け漏れがないか確認する
- 回答内容の情報に、新たに追加されたり修正されたりした情報がないかを確認する
- 回答内容に修正や追加した方が良い情報がないかを確認する
FAQに登録されていない問い合わせ内容があれば、オペレーターがFAQにすぐに「下書き」としてコンテンツを登録し、回答を作成する担当者がすぐに回答を作成してFAQを公開します。このように、KCSでは文字通りナレッジを中心に置いてユーザーに対応していくのです。
KCSによるナレッジ管理ならパーソルビジネスプロセスデザインへ
もし御社でナレッジ管理を実施したいとお考えでしたら、ぜひパーソルビジネスプロセスデザインにご相談ください。
前述したナレッジマネジメント手法の『KCS』ですが、パーソルビジネスプロセスデザインではこのKCSをいち早く取り入れています。新人教育の時間を削減するなどの効果を出しているだけでなく、2018年10月には国内初の認定(KCSアワード)を取得するなど、国内におけるKCSの先進活用企業として業界をリードしています。
KCSについて改めて知りたいという方のために、『安定運用に効果的!KCSを徹底解説』というホワイトペーパーをご用意しています。このホワイトペーパーでは、「ナレッジ管理としてKCSを導入するための基本的なポイントを理解すること」を目的として、KCSの運用導線、実践のポイント、メリットをまとめています。
KCSに触れたことがない方でも、本書一冊でKCSの基本を押さえることが可能ですので、洗練されたナレッジ管理に興味がある方は、ぜひご一読くださいませ。