生成AIとは?
生成AIとは、テキスト、画像、音声などの新しいコンテンツを生成することができる人工知能技術を指します。すでにさまざまな生成AIが存在しますが、具体的な例として冒頭でも触れた『ChatGPT』が挙げられるでしょう。
ChatGPTは、OpenAI社が開発した言語モデルで、人間のような自然な会話を生成することができます。この技術は、NLPと呼ばれる自然言語処理を用いて膨大なデータから学習し、質問への回答や文章の作成など、多様なタスクを実行できるのです。
従来のAIは、事前に学習したデータからシナリオに基づいた定型的な対話や回答を行うことが主流でした。しかし、生成AIは事前に学習したデータに加えて『プロンプト(指示)』を入力することで、新たなコンテンツの作成が可能になっています。
JEITA(電子情報技術産業協会)が2023年12月に発表した『生成AI市場の世界需要額見通し』によれば、世界の生成AI市場の需要は2023年で106億ドルに達し、2030年には2,110億ドルに達するとしており、2030年の需要額は2023年の約20倍になると試算しています。
※参考:「生成AI市場の世界需要額見通し」(2023年12月JEITA)
生成AIとコールセンター、コンタクトセンター
コールセンターやコンタクトセンター業務において、生成AIの活用によって課題を解決できる場面は数多くあります。
たとえば、問い合わせ対応業務の効率化です。従来ではオペレーターが顧客からの問い合わせに対応し、通話内容を自身でまとめ、応対記録としてシステムに入力することが一般的な流れでした。
しかし、生成AIを導入することで、オペレーターの応対内容はリアルタイムで文字起こしされ、通話が終了した瞬間に通話内容の文字起こしも完了させられます。オペレーターは文字起こしされた文章をまとめるだけで応対記録が簡単に作成できますので、後処理業務を大幅に短縮することができるのです。
従来は時間が掛かっていたこうした業務を短縮化することで、オペレーターの通話時間の短縮や待ち呼の低減につながり、生産性向上や顧客満足度向上に貢献することになります。さらに具体的な活用例については、次項にて詳しく解説していきます。
コールセンターでの7つの生成AI活用例
では、具体的なコールセンターでの生成AI活用例として、7つを挙げて解説していきましょう。
活用例(1)通話内容の要約
活用例(1)通話内容の要約
オペレーターと顧客の通話内容の文字起こしはもちろんのこと、通話内容を要約させることも可能です。オペレーターは通話の完了後、生成AIが作成した要約内容を確認します。その内容が問題なければ、コピー&ペーストで貼り付けるだけで後処理は完了してしまいます。
オペレーターの後処理時間を短縮させることは生産性向上には不可欠のため、導入すれば大きな効果を得られるでしょう。さらに、通話内容の要約に生成AIを取り入れると、オペレーターの言語化スキルや要約スキルに依存することなく一定のレベルが担保されますので、管理者側の確認の手間も軽減されるはずです。
活用例(2)オペレーター向けのFAQ
活用例(2)オペレーター向けのFAQ
生成AIにこれまでの対応履歴の内容や応対マニュアル、製品情報などを学習させ、通話中に該当の内容を画面に表示させることが可能です。
生成AIが通話内容から適切な回答を表示させますので、オペレーターは通話中に製品についての検索をかけたり、上長に確認したりといった手間や時間が必要なくなります。応対時間が短縮できるうえに正確な内容も回答できますので、顧客満足度の向上にも寄与するでしょう。
さらに、表示させる適切な回答を“FAQ”としてまとめていくことで、自社の情報をナレッジ化でき、応対品質の向上にもつながっていきます。
活用例(3)顧客向けのFAQ自動作成
活用例(3)顧客向けのFAQ自動作成
生成AIによって顧客からの『よくある質問』を分析することができ、適切な回答の作成が可能になります。たとえば、よくある質問に対しては、生成AIによる自動音声で対応することもできます。そうすると、オペレーターはそもそも対応を行う必要がありません。
チャットによる対応を行っているコールセンターでは、生成AIを活用することで高精度な回答を行ってくれますので、オペレーターの応対回数や負担の軽減にもつながります。
活用例(4)トークスクリプトの生成と改善
活用例(4)トークスクリプトの生成と改善
オペレーターが応対する際に必須となっている『トークスクリプト』も、生成AIで作成することができます。
これまでの問い合わせ履歴はもちろんのこと、応対する製品やサービスについての情報、応対マニュアル、どのようなゴールを設定するか、などを生成AIに指示します。そうすることにより、生成AIが内容を学習してトークスクリプトを自動で作成してくれるのです。
一度作成したトークスクリプトでも、問い合わせ履歴の内容の変化や製品情報の変更などをさらに学習させることで、現在の状況にマッチした内容へ改善することも容易にできてしまいます。
トークスクリプトの内容をゼロから作成する必要がなくなり、内容をブラッシュアップすることもできますので、管理者業務の負担軽減にもつながるのです。
活用例(5)オペレーター教育
活用例(5)オペレーター教育
オペレーターの人材不足は、どの企業においても大きな課題となっています。コールセンターは離職率が高く人材の流動性が激しいため、新人教育を少しでも早い段階で実施して戦力とすることが求められています。
生成AIはこうしたオペレーター教育にも活用できます。たとえば応対品質が高いオペレーターの対応内容を学習させ、新人オペレーターのサポートとして活用できるでしょう。新人オペレーターの応対中に、生成AIによって表示された提案内容を参考にしながら応答させることで、応対品質を担保することにもなります。
応対品質が担保されることで、新人オペレーターも精神的に安心して回答ができるでしょう。さらに、顧客側も安定した応対を受けることになり、顧客満足度の向上にもつながるはずです。
活用例(6)VoC分析への活用
活用例(6)VoC分析への活用
顧客から寄せられた声のことを「Voice of Customer」と呼び、その頭文字を取った言葉として『VoC』というキーワードがよく使われます。生成AIを活用すれば、自社に寄せられた顧客の声を自動的に収集し、そのVoCの分析まで実施してくれます。
VoC分析では、アンケートや電話応対履歴、チャット対応、SNS上の意見、問い合わせフォームなどあらゆる媒体からの意見を集約して実施することが重要です。しかし、手作業でこれらの作業を行うとなると、膨大な時間と手間が掛かってしまいます。
そこで生成AIを活用すれば、収集や分析にかかる時間は大幅に短縮され、顧客の声を活かした施策を迅速に実施することができるのです。
活用例(7)外国語への対応
活用例(7)外国語への対応
提供している製品やサービスによっては、日本語以外での対応が必要なケースもあるでしょう。しかし、マルチリンガルに対応できるオペレーターを採用することは非常に難しいといえます。コールセンターで募集をしても、そう簡単に日本語以外も使いこなせるオペレーターからの応募は来ないものです。
こうしたケースでも、生成AIを活用すれば補完することができます。たとえば、英語を学習させた生成AIを活用すれば、英語への対応であっても生成AIが自動で適切な回答を作成できます。
生成AIを上手に使いこなすことで、マルチリンガルに対応できるオペレーターのリソースを圧倒的に補完することができ、対応したいさまざまな言語の問い合わせで実現できるでしょう。
コールセンター・ヘルプデスクでの生成AI活用、3つのメリット
次に、コールセンターにおける生成AI活用のメリットを3つ挙げて解説しましょう。
メリット(1)コールセンター・ヘルプデスク業務の効率化
メリット(1)コールセンター・ヘルプデスク業務の効率化
生成AIを導入する最大のメリットといっても過言ではないのが、コールセンター業務の効率化でしょう。
前述の“活用例”でもお伝えしている通り、生成AIを活用することで、応対時にオペレーターを支援する情報を画面に表示させることができます。また、文字起こしや自動要約も可能ですので、後処理の時間が大幅に削減できます。すると、一件の応対に掛かる時間が劇的に削減されますので、確実に生産性向上にもつながるでしょう。
さらに、人手不足に悩んでいるコールセンターであれば、簡単な問い合わせ内容を生成AIに対応してもらい、複雑な問い合わせのみをオペレーターが対応する運用に変更すれば効果的な運用が可能です。オペレーターの業務負担の軽減と、自社リソースの有効活用になるはずです。
メリット(2)オペレーターの応対品質の向上
メリット(2)オペレーターの応対品質の向上
生成AIを活用することで、新人オペレーターであってもリアルタイムに画面に表示されたサポートを受けられますので、ベテランのオペレーターと遜色ない対応が期待できます。
もちろん、言い回しや話すスピードなど訓練する点はいくつもありますが、「間違った情報を回答してしまってクレームになった」といったことは少なくなるでしょう。
間違った情報を発信しない環境が用意できることは、新人オペレーターの不安感を払しょくすることにもなります。そうした環境で実践を積み重ねることで、オペレーターの応対品質は向上していくはずです。
メリット(3)データ分析への有効活用
メリット(3)データ分析への有効活用
生成AIは膨大なデータを収集し、分析することに長けています。そのため、「自社の顧客になっている人はどのような傾向が多いのか」「問い合わせのパターンにはどのようなものが多いのか」などの分析を容易に実施することができます。
データ分析は時間や手間が掛かる作業のため、なかなか踏み込めない企業も少なくありません。また、日々のコールセンターの運営で手一杯になってしまい、データ分析まで手が回らないというケースもあるでしょう。
生成AIはこうした課題を解決してくれます。さらに生成AIは、分析結果から「どのようなアクションが望ましいか」というアイデアを出すこともできます。アイデア出しまでを任せてしまい、社員は「どのようなアクションを起こすか」を決定するだけで良いため、非常に
効率的です。
コールセンターでの生成AI活用における課題
生成AIの導入を検討する際には、導入後に想定と異なることが起きないよう“課題”にも目を向けておく必要があります。ここでは、主な課題として2点を挙げて解説しましょう。
課題(1)誤った回答を出してしまうリスクがある
課題(1)誤った回答を出してしまうリスクがある
生成AIの回答が100%すべて正しいと信じてしまうのは、危険です。生成AIの代表格である『ChatGPT』でも、質問に対する回答が不正確だという例は少なくありません。
生成AIは、学習してきたデータの内容とアルゴリズムに回答が依存しますので、誤った情報や誤ったデータを学習させてしまうと、不適切な回答につながってしまうのです。
生成AIを活用する際には、現段階では『人間の視点』を入れることが不可欠になるでしょう。生成AIで作成したFAQなどは間違った情報が回答として掲載されていないか、必ずチェックしましょう。
また、最新の情報へと対応していくためにも、高い頻度でのFAQの情報更新やブラッシュアップが求められることになります。
課題(2)応答時間が長くなってしまう
課題(2)応答時間が長くなってしまう
生成AIの種類にもよりますが、場合によっては応答時間が長くなってしまう恐れもあります。生成AIは正しい情報を発信するために大量のデータを検索する必要がありますので、スキルの高いオペレーターと比較すると、応答時間が長くなってしまうこともあるでしょう。
たとえば、繁忙期で問い合わせが殺到してしまうとか、珍しい質問が寄せられてしまい正しい情報の検索に時間が掛かってしまう場合などは、応答時間が長くなってしまう可能性が高くなります。
応答時間までの時間が長いと顧客を待たせることにつながり、結果として顧客満足度の低下につながってしまう恐れもあるでしょう。
生成AIのコールセンター活用事例
それでは、実際に生成AIをコールセンター・ヘルプデスクに活用している事例を3つご紹介しましょう。
事例(1)株式会社JALカード
事例(1)株式会社JALカード
株式会社JALカードでは、これまで顧客の対話を録音していましたが、テキストデータが必要なケースでは録音を聞きながら書き起こしを行っており、多くの手間と時間が掛かっていました。
そこでリアルタイムで音声認識を行い、全自動で文字起こしを行える生成AIシステムを導入。識字率が高いことに加え、該当の電話データの検索も容易になったことで、テキストデータの抽出時間が大幅に短縮したようです。
事例(2)日本電気株式会社(NEC)
事例(2)日本電気株式会社(NEC)
日本電気株式会社(NEC)では、コンタクトセンター業務に生成AIの活用をしています。
マニュアルや対応履歴、FAQなどを網羅的に学習させ、生成AIによって回答を自動で作成。結果として、一部のコンタクトセンターにおけるFAQ作成作業工数が75%削減したとしています。
さらに、生成AIにおける技術検証を日本マイクロソフトと共同で実施し、オペレーター業務を「生成AIの自動回答によるサポート」で行う場合、オペレーターの回答時間を35%削減できる見込みだと発表しています。
今後は、さらなる回答精度の向上や、オペレーターの報告サマリを会話内容から自動で作成するなど、取り組みを広げていく考えだといいます。
事例(3)株式会社レオパレス21
事例(3)株式会社レオパレス21
株式会社レオパレス21では、入居者向け問い合わせ対応システムに生成AIを活用したチャットボットを導入しています。
同社では、「繁忙期に問い合わせ対応をスピーディーに解決することが困難である」という課題を抱えていたため、24時間365日対応可能なチャットボットサービスを導入。基本的な問い合わせについてはチャットボットによる自動応答が可能となったため、オペレーターの業務負担は大幅に軽減されたといいます。
さらに、導入前の応答率が70%だったのに対し、導入後の応答率は90%と大幅に改善することにもなったようです。
AIを用いた応対支援ならパーソルビジネスプロセスデザインへ
本記事では、生成AIのコールセンター・コンタクトセンターでの活用事例を中心にご紹介させていただきました。
コールセンター・コンタクトセンターでのAIの活用はさらに広がっていくと予想されます。AIを効果的に活用することで、コールセンターの業務を効率化させるなど多くのメリットがあることがお分かりいただけたかと思います。
ぜひ、まずは自社の課題を明確にして「その課題を解決するためにはどのようなAIシステムが適切か」を考えて検討を進めていってください。
もし、“AIを用いたオペレーターの応対支援”をご希望でしたら、私たちパーソルビジネスプロセスデザインのオペレーター応対支援ソリューション『AI Dig』をご検討ください。
『AI Dig』は、お客さまとオペ―レーターの会話から、AIが回答候補を提示してくれます。応対データを毎日AIへ自動学習させることで、音声認識および検索精度を継続的に向上させることができます。
さらに、モニタリングや品質管理機能も有しており、オペレーターのみならず、コンタクトセンター全体の業務効率化にも貢献します。
AIを用いたコールセンターでの応対支援に関して、何かご不明点がありましたらお気軽にご相談ください。
※関連サービス:オペレーター応対支援ソリューション『AI Dig』