KCSが必要になってきた背景とは
時代とともに世の中にコールセンターが浸透していくなかで、サポート業界では次のような課題が見受けられるようになっていきました。
- ビジネスモデルの複雑化に伴い、発生する問題も複雑さを増している
- サービスに対する顧客ニーズが高まり、問題解決率を向上させなければいけない
- コールセンターやヘルプデスクに割り当てられる予算が減少している
- 求められる業務範囲が拡大していながらも、トレーニングに対して時間が取れない
こういった課題がどの企業でも散見されるようになり、「ナレッジマネジメントのレベルを高めなければいけない」という機運が高まっていったのです。
具体的には、ナレッジを「ただの記録」として見るのではなく、「有用なコンテンツ」に昇華させるような仕組みや考え方が必要になりました。それが、KCSが必要になってきた背景のひとつといえます。
KCSは10年の歳月を経て生み出された
前述した背景があるなか、米国の非営利団体である「サービスイノベーションコンソーシアム」が10年に及ぶ調査と実践を通じて発表したのが、「KCS(ナレッジセンターサービス)」でした。
「サービスイノベーションコンソーシアム」という団体には、Cisco・HP・Microsoft・Oracle・Sun・Symantecなど多くの先進的なIT企業が参画しており、「サポートセンターのナレッジをより有効に問題解決につなげるにはどうしたら良いか」について各企業で議論されてきた“結晶”が形になった、といえるかもしれません。
この“結晶”ともいえる手法が米国において多くの企業に採り入れられると、コールセンターやヘルプデスクのオペレーターからマネジメント層にいたるまで幅広く利用され、高い投資対効果が確認されていきました。
KCSの手法について概略をお伝えすると、「ナレッジを捉え、構造化し、再利用し、改善する」という一連の動きです。問題解決のために何かを追加するのではなく、“問題を解決する方法そのもの”ともいえるでしょう。
具体的な手法については記事の後半で解説していきます。
KCSを活用することで期待できる効果とは
KCSという手法に対する“期待効果”としては、次のようなものが挙げられます。
- 個人がコール処理を行う一連の流れがスムーズになる
- 一次対応でクローズすることが多くなり、FCR(First Call Resolution)の数値が向上
- エスカレーションする案件数が少なくなり、現場の業務効率が高まる
- 誰が対応しても同等のソリューションを提供でき、センターの一体感が強まる
このように多くの期待が集まるKCSですが、本来の狙いとゴールはシンプルで、「見つけやすく使いやすいコンテンツを作り出すこと」です。つまり、コンテンツこそが最も重要となるのです。
実際、KCSでは「コールログ」と呼ばれる対応記録を「ただの記録」として扱うのではなく、「コンテンツ」や「ソリューション」と呼んでいます。
KCSのコアになるものとは何か
KCSモデルの中心にあるのは、前述した通りナレッジでありコンテンツです。
KCSの手法の中でコンテンツを捉え、構造化し、再利用していくことが重要になります。そのため、KCSの手法としてのゴールは、「見つけやすく使いやすいナレッジ記述」を作成し、コンテンツとして発展させていくことなのです。
その一連の流れをKCSでは「ダブルループプロセス」と呼びますが、その「ダブルループプロセス」というのは、SOLVE(解決)ループとEVOLVE(発展)ループの2つのループのことを表しています。
※参考:Consortium for Service Innovation
2つのループについての説明は、下記の通りです。
- SOLVE(解決)ループ……「個人レベルでの問題解決」におけるワークフローです
- EVOLVE(発展)ループ……「組織レベルでの品質向上プロセス」を示しています
個人レベルと組織レベルの2つのプロセスを経て、ナレッジをコンテンツへと発展させていくのがダブルループプロセスというわけです。
KCSの「SOLVE」ループでは何をするか
ここでは、KCSの最初のループである「SOLVE」ループについて解説していきましょう。
「Capture」で問題を捉える
「SOLVE」ループの1つ目のプロセスは「Capture」で、日本語では「ナレッジを捉える」と訳されます。ここでは、電話対応の処理の中で「問題」を捉えていきます。
具体的には、お客さまが話してくる内容の中から、「お客さまの見方」で「お客さまの表現」で問題を捉えていきます。新規にゼロから作り出すのではなく、対応処理の中でコンテンツを捉えることがKCSの基本となるのです。
「Structure」でナレッジを組み立てる
続いて2つ目のプロセスは、「Structure」で、日本語では「構造化する」と訳されます。ここではナレッジを組み立てていきます。ナレッジのもととなる従来のインシデントというのは、いわゆる「コール記録」でした。 「顧客からUSB外付けHDDの接続時のトラブルについてコールあり。リブートしても外付けHDDを認識しないとのこと。バッファロー社のHDDを使用しているらしいが当社を通じて購入したものではない。内蔵HDDの動作には問題がないことを確認済み。これから会議なので明日の午前中に電話が欲しいとの要望。外付けHDDについて田中さんに確認済み。Win10で使用するには最新のドライバーをバッファロー社のサイトからダウンロードする必要があるとのこと」 |
これが、KCSでいう「ソリューション」になると、次のような記述をします。
問題 | バッファローUSB外付けHDDのセットアップで認識しない |
---|---|
環境 | バッファロー USB外付けHDD Drive Station HD-LC3 OS:Windows 10 home |
解決策 | バッファロー社公式サイトよりHDD最新ドライバーをダウンロード http://buffalo.jp/download/driver/xxxxxx |
ソリューションのポイントとしては、前後の状況や顧客視点を必ず入れることです。例えば「問題」では、お客さまが何を望まなかったのか書きます。「環境」では、製品・モデル・バージョンなどの事実を書きます。そして「回答」では、どうやって問題を解決するかを書くのです。
記録するソリューションは、文章である必要はありません。ただし、必要な言葉や単語を網羅していることが重要です。簡略化することで「状況」は「ソリューション」になり、ナレッジとしての検索性が高まり、使いやすくなるのです。
「Reuse」でソリューションを肉付けする
続いて3つ目のプロセスは「Reuse」で、日本語では「再利用する」と訳されます。ここでは、検索をしてナレッジを創り出していきます。
検索という行為は、ナレッジベースの初期のソリューションを作り出す仕組みになります。つまり、ソリューションが見つかっていない段階でも、問題だけを記録しておきます。そのナレッジベースを使いながら、解決策を見つけた人はそれを追記していきます。
この問題記録と解決記録のプロセスが繰り返されることが、問題解決の基礎として「ナレッジベースを使う習慣になっていく」と考えられています。そうしてナレッジを使いながら、新しい情報や足りなかった情報が次々に加筆され、ソリューションが肉付けされていくというわけです。
「Improve」で品質を高めていく
最後の4つ目のプロセスは「Improve」で、日本語では「改善する」と訳されます。ここでは、利用しながら品質を高めていきます。
先ほどの3つ目のプロセスでは、検索して情報を追記する、ということでしたが、この4つ目のプロセスでは、さらに「見つけやすくするために修正する」「不正確・不明確なソリューションを発見したらフラグを立てるか修正する」というように、“ブラッシュアップ”を図っていくプロセスです。
一般的にいわれることですが、ナレッジベースの80%は利用されません。しかも、利用される20%のうち、頻繁に再利用されるのはその20%に過ぎません。ナレッジベース全体を常に見直していくのは時間と費用のムダになりますので、先ほどの20%×20%に集中してブラッシュアップをしながら、要求に応じて都度見直していくことが効果的なKCSの運用といえます。
また、すでに解決策が分かっているものであっても、その解決策で直らないケースが出てきたり、バージョンが変わってしまったり、より簡単なソリューションの情報を得られたりすることがあります。こういった変化にも対応していくことが重要です。
「SOLVE」ループでのポイントは、「今までこうだったから、こうすべきだ」と固定観念を持たず、柔軟な発想でナレッジに向き合うことです。そして、自分ひとりでソリューションを探すだけではなく、メンバーに聞いたりディスカッションしたりする場を設けて「ナレッジの集約」を図っていくことです。
もし解決に至らない場合でも、「ダメでした」で終わることなく、何か代替案を提供できるよう知恵を絞ることを心掛けていきましょう。
KCSの「EVOLVE」ループでは何をするか
続いては、KCSの組織的なループである「EVOLVE」ループについて解説していきます。
「Content Health」でインフラを整える
組織的に動くのが「EVOLVE」ループですが、1つ目のプロセスは「Content Health」です。日本語では「コンテンツを健全に保つ」と訳され、SOLVE側のワークフローを組織的にも定着させるようコンテンツの状態を意識していきます。
コンテンツの状態を意識しながら組織的にも定着させていくためには、具体的に「ツール」が役立ちます。例えばログ入力をすることで、それがソリューションに簡単に変換できるようなツールなどを導入し、ソリューションを強化していくのです。
また、サポートサイトやナレッジ用のデータサーバーなど、システム的な観点からもKCSを進めていけるようなインフラをしっかり検討していきましょう。
「Process Integration」で徐々にコンテンツの利用を拡大する
続いて2つ目のプロセスは「Process Integration」で、日本語では「プロセスを統合する」と訳されます。ここでは、「コンテンツの利用拡大」を図っていきます。
利用拡大を図っていくためには、まずコンテンツスタンダードともいうべき「基準」を作らなければなりません。どういったコンテンツが必要なのか、そしてどういった品質の基準にすべきか、ということで「良いソリューションの例」を明示していきます。
また、どういった人を対象としていて、誰が利用するソリューションなのかもしっかり分類する必要がありますし、記述する表現の基準も細かく設定する必要があるでしょう。
基準や対象者をしっかりと設定したうえで、次にコンテンツの利用拡大を図っていきます。利用拡大のポイントとしては、小さく使いはじめてから徐々に大きなグループで使用していく、ということです。
例えば2次窓口だけで利用していたソリューションが一定の利用回数を超えたら1次窓口にも解放し、さらに利用されるようであれば一般向けに書き直してお客さま向けにWeb上で公開していくようにする、というような流れです。
さらに、定期的にソリューションのブラッシュアップも図る必要がありますが、既存のナレッジベースからランダムにソリューションを抽出し品質の採点をする、などの活動も効果的です。作成者に対して定期的にフィードバックすることで、活性化がさらに促されていくはずです。
「Performance Assessment」で実績を評価する
続いて3つ目のプロセスは「Performance Assessment」で、日本語では「パフォーマンスを評価する」と訳されます。ここでは、ソリューション作成やナレッジへの取り組みについて「実績」を評価していきます。
例えば、ここまでのプロセスに関してしっかりと理解し実践できているかどうかを『KCS習熟度モデル』として体系立て、「KCSⅠ」「KCSⅡ」「KCSコーチ」「ナレッジチャンピオン」といったようなポジションを付与します。これは実際の職制とは異なり、ナレッジ専用のポジションです。
多くの人に利用される「良いソリューション」を作った人には、価値を高めたことを称えて報奨を与えたり、ポジションを上げていったりすることで活動を認めていくのです。
こういったモデルは、KCSに限らず該当することですが、「なぜそれをやるのか」「やることでどうなるのか」を明確に浸透させることで、その仕事の目的が明確になりモチベーション要因になっていくはずです。
KCSのプロセスでも同様で、ソリューション作成数や更新数、利用される回数に応じて表彰をするなど、適切な人事評価をすることが重要です。
「Leadership&Communication」で個人とチームの成功を支援する
最後の4つ目のプロセスは「Leadership&Communication」で、日本語では「リーダーシップとコミュニケーションを推進する」と訳されます。ここでは、まさにリーダーシップを発揮しながらコミュニケーションを図っていきます。具体的には、チームとしてのモチベーション要因を考えて、ビジョンを創造したり、明確化させたりします。
ソリューションがチームにとって価値があることを理解し、環境を整え、個人とチームの成功を支援していくのです。
KCSを実装するには非常に強いリーダーシップが必要となります。そのためには、企業や組織のゴールにKCSがどう関連するかを明確に理解し、理解させなければなりません。そのうえでどう変わらなければならないかを明示して指導していくのです。
企業や組織の目的達成のため「何をすべきか」に集中することが重要だといえるでしょう。
KCSのことならパーソルビジネスプロセスデザインへ
もし貴社でもこの『KCS』を導入してみたいとお考えでしたら、ぜひ当社にご相談ください。
ここまで説明してきたナレッジマネジメント手法の『KCS』ですが、パーソルビジネスプロセスデザインではこのKCSをいち早く採り入れているだけでなく、2018年10月には国内初の認定(KCSアワード)を取得するなど、国内におけるKCSの先進活用企業として業界をリードしています。
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KCSに触れたことがない方でも、本書一冊でKCSの基本を押さえることが可能ですので、KCSについてご興味がある方は、ぜひご一読くださいませ。