放棄呼とは
「放棄呼」とは、「アバンダン・コール」ともいい、オペレーターに繋がる前に切断されてしまったコールのことを指します。
放棄呼が起こる原因はさまざまで、オペレーターに繋がる前に顧客が切断するケースや、問い合わせが集中したために機械的に切断されてしまうケースなど、人的・機械的な原因があります。
いずれにしても放棄呼は、コールセンターの『つながりやすさ』を示す指標のひとつといえるでしょう。そのため、多くのコールセンターでは放棄呼を防ぐ取り組みを行っています。
放棄呼になる前の入電
放棄呼になる前の入電として、以下の2つがあります。
- 「あふれ呼」……コールセンターからあふれて、応答されないままつながらない電話を指します。
- 「待ち呼」……オペレーターとつながらないまま待たされ続けている電話のことです。
この2つを放置すると放棄呼につながってしまうので、放棄呼を減らすには「あふれ呼」や「待ち呼」を減らす対策が必要なのです。
放棄呼が生み出すデメリット
それでは、放棄呼を放置していると、どのようなデメリットが生じるのでしょうか。いくつか挙げてみます。
【放棄呼が生み出すデメリット】
- 利益を得る機会の損失
- 顧客満足度の低下
- オペレーターの負担増
- 社会的信用の低下
それぞれの内容について、次の項目で解説していきましょう。
利益を得る機会の損失
顧客がコールセンターに連絡する場合、商品やサービスに何らかの疑問やトラブルが生じている可能性があります。また、通信販売のコールセンターでは、購入や利用目的での問い合わせも発生するでしょう。それぞれ内容は違いますが、商品やサービスで利益を得る「機会」にあたります。電話が繋がらなければ、その機会を逃がすことになってしまいます。
言い換えると、放棄呼は「対応できなかった顧客」と同じです。対応できなかった顧客が多ければ多いほど、商品やサービスに必要なフィードバックを得ることが難しくなります。具体的には、以下のような情報が収集しにくくなるでしょう。
- 商品やサービスに関する意見・要望
- 商品やサービスを購入する顧客の情報
これらの情報が得られなければ、商品やサービスを改善していくことができないため、企業全体の利益にも悪影響を及ぼしてしまうことになります。
顧客満足度の低下
放棄呼は企業の利益だけでなく、「顧客満足度」にも悪影響を及ぼしてしまいます。電話をしてくる顧客は、商品やサービスに対して何らかのアクションを起こしたいわけですから、電話が繋がらなければ当然ストレスを感じてしまいます。
「顧客側に要望や意見があるのだから、後でこちらから掛け直せばいいのでは?」と考える方もいるかもしれません。しかし、コールバックをすれば放棄呼により生み出された不満を完全に解消することができるわけでもないのです。
また、放棄呼が原因でクレームや競合他社への乗り換えが発生してしまう可能性もあるでしょう。放棄呼は、顧客満足度にも大きな影響を与えてしまう要因の1つなのです。
オペレーターの負担増
放棄呼があった場合に、「オペレーターはコールバックを行う」というルールを設けているコールセンターもあるでしょう。その場合、通常業務に加えてコールバックの作業も増えるため、オペレーターの負担は増加してしまいます。これも放棄呼が起こす悪影響のひとつといえます。
コールバック中は、当然ながら新規の問い合わせに対応することができません。その結果、放棄呼が連鎖的に起きてしまい、常にオペレーターが大量の問い合わせを処理し続けるという状態に陥ってしまいます。
また、オペレーターの負担が増えれば、ミスが増える、雑な対応をしてしまう、離職してしまう、などコールセンターの機能を低下させる事態が発生することも考えられます。
放棄呼を放置することは、コールセンターの機能そのものにも影響を与えてしまう大きな問題なのです。
社会的信用の低下
何度も放棄呼を発生させてしまうコールセンターは、企業そのものの社会的信用を低下させる要因となってしまいます。放棄呼が多いと顧客は「ここのコールセンターは繋がらない」という評価をしますが、この状態を放置していると、商品やサービスだけでなくそれを提供している企業のイメージとしても悪い影響が広がってしまいます。一度下がってしまった評価を元の状態に引き上げるのは、そう簡単にはいきません。放棄呼は、できるだけ被害が小さいうちに対処しなくてはならない、重要な問題なのです。
放棄呼率の計算方法
では、コールセンターで放棄呼がどれだけ発生しているのかを確認したいという場合には、どうするべきでしょうか。
コールセンター全体で放棄呼がどの程度の割合で発生しているかは、計算によって「放棄呼率」を求めるのが一般的です。
【放棄呼率の計算方法】
放棄呼率 = 放棄呼の数 ÷ コールセンターへの着信数
例えば、あるコールセンターに20,000件の着信と500件の放棄呼があったとします。この場合、上記の式に当てはめて計算すると答えは「0.025」です。つまり、このコールセンターの放棄呼率は、2.5%となります。
放棄呼率の目安
放棄呼率の目安は、コールセンターごとに違います。一般的な数値として、10~20%以内に収めるのが理想といわれています。
一方で、例えば『年会費が高いハイグレードのクレジットカード』のコールセンターでは、より低い放棄呼率を設定していたりします。これは、サービスの手厚さで他のクレジットカード会社と差をつけるため、といえるでしょう。このように、サービスの手厚さを売りにしている企業のコールセンターでは、他よりも厳しい基準を定めている場合もあります。
放棄呼が発生する原因
企業に悪影響をもたらしてしまう放棄呼は、複数の原因によって発生しているといえます。ここでは3つを挙げてみましょう。
【放棄呼が発生する原因】
- IVR(自動音声機能)に問題がある
- オペレーターの数や技術力に問題がある
- 問い合わせ手段が限定されている
それでは、これらの原因がなぜ放棄呼を起こしてしまうのか、1つずつ解説していきます。
IVR(自動音声機能)に問題がある
IVR(自動音声機能)は、顧客の問い合わせ内容に応じて適切な窓口へ誘導する音声案内です。本来は便利な機能のはずですが、IVRの内容がわかりにくかったり、必要以上に長かったりすると、顧客は自動音声中に通話を切ってしまいます。その結果、放棄呼になってしまうことにもなるわけです。
IVRを導入してから放棄呼が多くなった、という場合はもちろんのこと、IVRを利用しているコールセンターは「問題がないだろうか」と、一度確認してみるとよいでしょう。
オペレーターの数や技術力に問題がある
オペレーターの数や技術力に問題がある場合も、放棄呼は発生してしまいます。
例えば、コール数に対してオペレーターの数が足りない場合、自然に「あふれ呼」や「待ち呼」が出てしまいます。「あふれ呼」や「待ち呼」は放棄呼につながるため、オペレーター数が足りない状態を改善しない限りなくなりません。
また、オペレーターの顧客対応における技術力が足りない場合、問い合わせ時間が長くなったり、クレームが増えたりしてしまいます。これもまた、「あふれ呼」や「待ち呼」を増やす要因になりますので、放棄呼も当然ながら増えていきます。
放棄呼がなかなか減らない場合には、オペレーターの数や技術力に問題がないかを確認しましょう。
問い合わせ手段が限定されている
問い合わせ手段が「電話による問い合わせ」しかない場合も、放棄呼が増えやすくなってしまいます。顧客の問い合わせがコールセンターに集中する分、放棄呼も同様に増えてしまうからです。
これは、ほかの要因と複合的に発生してしまう場合もあります。問い合わせ手段が限定されてしまうと、問い合わせが集中してしまい、1人のオペレーターが対応する顧客数も大きく増えてしまいます。結果的に、前項で挙げた「オペレーターを増員しない限り放棄呼が減らない」という状況が作り出されてしまうのです。
このように、放棄呼の原因はひとつだけでなく複数の問題が絡み合って発生している可能性もありますので、注意が必要です。
放棄呼を減らす有効な対策
前述した通り、放棄呼は複数の原因により引き起こされてしまうことがあります。そのため、解決には「放棄呼に有効な対策」を適切に実行しなくてはなりません。では次に、放棄呼に有効な対策をいくつか挙げてみましょう。
【放棄呼を減らす有効な対策】
- オペレーターの増員・能力向上
- IVR(自動音声システム)の導入と改善
- チャットツールによる対応
- FAQサイトの設置
- WFM(ワークフォースマネジメント)の導入
それぞれの内容について、詳しく解説していきます。
オペレーターの増員・能力向上
オペレーターの数や技術力に問題がある場合は、それらを改善しましょう。数が足りない場合にはオペレーターの増員を、技術力に問題がある場合には能力を補う研修が有効です。
しかし、「電話を取る人を増員によって補えばよい」とか「問い合わせ時間を短くするために研修を実施すればよい」という単純な話ではありません。放棄呼を減らすことだけに集中してしまうと、顧客対応の中身である「品質」を低下させてしまう可能性もあります。
せっかく放棄呼を減らしても、対応品質が悪くて顧客満足度を下げてしまっては意味がありません。オペレーターの増員や研修によって放棄呼を改善しようとする際には、顧客対応の品質を維持または向上させることも忘れないようにしましょう。
IVR(自動音声システム)の導入・改善
IVRを導入していない、または導入しているが問題があるという場合には、IVRの導入・改善が有効です。
適切な音声案内で顧客を誘導できるようになれば、オペレーターへつなぐ時間を短縮することができるはず。その結果として、放棄呼の減少も期待できるでしょう。
最近では、スマホから問い合わせメニューを可視化する「ビジュアルIVR」など、新しい技術も開発されています。IVRを見直す際には、新しいシステムを積極的に取り入れるのも対策として重要な観点だといえるでしょう。
チャットツールによる対応
「あふれ呼」や「待ち呼」から放棄呼につながってしまっている場合、チャットツールの導入も効果的です。
チャットツールがあれば、電話での問い合わせが難しい場合にチャットでの問い合わせが可能です。電話とチャットツール、ふたつの窓口を用意することで、顧客の問い合わせを分散することにもなるでしょう。
また、チャットツールの中には問い合わせ対応用のAIを搭載したタイプがあります。簡単な質問や基礎的な内容であればAIでも対応できるため、オペレーターの負担を減らすことも可能です。チャットツールの活用は、オペレーターの負担が大きいときにも有効な対策といえるでしょう。
FAQサイトの設置
FAQサイトの設置も、放棄呼の対策には有効です。FAQとは「よくある質問」を指す言葉で、商品やサービスに関するよくある質問と答えをまとめたものです。
FAQが充実されていれば、顧客は問い合わせ窓口に連絡する前に、FAQを確認するようになります。その結果、コール数も減ることになり、それに比例して放棄呼も減少していきます。
「コール数が減る」と聞くと、よくないことのように思う方もいるかもしれませんが、そんなことはありません。
FAQのように顧客側で疑問や要望を解決できるコンテンツは、顧客満足度の向上につながります。また、コールセンター側も問い合わせが減る分だけ余裕ができますので、FAQでは解決できずに入電した複雑な問い合わせにも余裕を持った対応ができるようになります。そうすることで、顧客の満足度を向上させることにつながるというわけです。
FAQは、放棄呼の対策をしながら顧客満足度を向上させる、非常に有効な対策といえるでしょう。
WFM(ワークフォースマネジメント)の導入
WFMの導入も、放棄呼の対策には効果的です。
「WFM」とは「ワークフォースマネジメント」の略ですが、コールセンターにおけるWFMは、「コールの量と人員配置バランスを最適化する組織管理施策」を指します。具体的には、以下のような対象を分析し、その分析結果から『無駄のないシフト配置』を作成するのが主な作業といえるでしょう。
【WFMの具体的な分析対象】
- 曜日・時間帯・繁閑期の状況
- オペレーターのスキル
- オペレーターのシフト希望
WFMを実行すれば、時期ごとのコール数を予想し、それに合わせた人員配置が可能になります。そうしてコールセンター内の人員配置が常に適切な状態に保たれれば、「あふれ呼」や「待ち呼」などの放棄呼につながる状態を軽減できるのです。
この対策は、コールセンターの人員調節や育成など、ほかの対策と組み合わせて行うとより効果が高くなるといえるでしょう。
まとめ
放棄呼はコールセンターだけでなく、企業全体にも悪影響を及ぼす問題です。放置すればするほど影響が大きくなるため、早期の対応が必要でしょう。
しかし、放棄呼の要因は複数あり、それぞれの原因を分析したうえで適切な対処法を講じる必要があります。そして状況によっては、企業だけで対処することが難しい場合もあるでしょう。
「自社だけでは放棄呼の対処ができない」という場合は、ぜひ専門家の力を借りてください。
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