学校の働き方改革とは?推進される背景と取り組み事例を解説

学校の働き方改革とは?推進される背景と取り組み事例を解説

学校の働き方改革を行うことで、長時間労働の解消、教員不足の抑制、教育の質の向上などの効果が期待されます。ガイドラインの策定やGIGAスクール構想など政府による推進もあり、全国的に働き方改革が進んでいる状況です。

本記事では、学校の働き方改革が推進される背景とその課題、主な取り組み事例について解説します。

目次

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    学校の働き方改革とは?

    学校の働き方改革とは、教育現場における労働環境の改善を目指し、教職員の働き方を見直す取り組みを指します。日本の学校現場では、教員の長時間労働/過重労働が長年問題視されており、これが教育の質の低下や教員不足の一因となっています。

    働き方改革は、こうした課題を解決するための具体的な施策を実施し、教職員がより健康で持続可能な働き方を実現することを目指しています


    平成29年12月、文部科学省が「学校における働き方改革に関する緊急対策」を発表し、教職員の働き方改善に向けた具体的な施策を打ち出しました。この対策案では、ICT(情報通信技術)の活用や校務支援ツールの導入、外部人材の活用など教員の労働時間の適正化や業務の効率化を図るための方針が示されています。
     

    教員の働き方改革が進められる背景

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    政府が教員の働き方改革を推進している背景には、日本の教育現場における「教職員の長時間労働」や「慢性的な教員不足」、「教育の質の低下」があげられます。
    これらの問題は相互に関係しているため、一貫したアプローチが求められています。本項では、それぞれ詳しく解説します。


    2-1.教職員の長時間労働

    教職員の長時間労働は、学校現場において現在も深刻な問題となっています。

    文部科学省が教師の勤務実態を把握・分析することを目的に行った調査(令和4年度)によれば、前回調査(平成28年度)と比較して、1日当たりの在校等時間が減少しているものの、多くの教師が1日10時間以上勤務していることが示されています。

    また、週末や休日に業務を行うことも常態化しており、特に部活動の指導や授業準備、校務に追われる教員は、過労が原因で健康を害するリスクも高い状況と考えられます。このような背景から、教職員の健康を守り、働きやすい環境を整えるために、働き方改革が必要とされています。
     
    長時間労働の問題は教員のライフワークバランスを崩すだけでなく、教育の質にも悪影響を及ぼします。過労によって集中力が低下し、授業の進行に支障をきたすことで、生徒の学習効果にも影響が出る可能性があります。

    そのため働き方改革による労働時間の適正な管理、過重労働の抑制により、教職員の健康で持続可能な働き方を実現し、生徒に対して質の高い教育を提供できるようになることが期待できるでしょう。

    2-2.教員不足

    教員不足に関しても重大な問題です。

    少子化による児童生徒数の減少に対して、教員の採用が追いつかず、多くの学校で教員不足が問題となっています。特に、地方や特定の教科で教員の確保が困難であり、一人の教員にかかる負担が増大しています。このような状況下において教職員の働き方改革が急務となっています。


    また、教員不足は教職員の業務負担を増大させるだけでなく、教育の質にも大きな影響を及ぼします。教員一人ひとりが多くの生徒を担当することで、個別の指導が難しくなり、生徒の学習効果が低下する可能性があります。

    ですから、働き方改革による教職員の労働環境を改善することが、教員不足の問題を解消するための重要な取り組みにつながるでしょう。具体的には、ICTの活用や外部人材の導入によって、教職員の業務負担を軽減することなどが挙げられます。

    2-3.教育の質の低下

    長時間労働や教員不足が続くと、教員の疲労が蓄積し、授業の準備や指導に十分な時間を割くことが難しくなります。これにより、生徒一人ひとりに対するきめ細やかな指導が困難になり、教育の質が低下するリスクが高まります。そのため学校の働き方改革は、こうした状況を改善し教育の質を向上させるための重要な取り組みとなります。

    教育の質が低下すると、生徒の学習効果に深刻な影響を及ぼすだけでなく、将来的な社会全体の発展にも悪影響を与える可能性
    があります。

    そのため、教職員が健康で意欲的に働ける環境を整えることで、生徒に対する指導の質が向上し、学習効果が高まることが期待されます。また、働き方改革を通して、教職員が新しい教育方法や技術を取り入れる余裕が生まれ、教育の質のさらなる向上が期待できるでしょう。

    学校の働き方改革を進める上での課題

    文部科学省の教員勤務実態調査(令和4年度)によると、1日当たりの在校等時間は減少しているものの、依然として抜本的な改革が進んでいない現状です。本項では、学校の働き方改革を推進していく上での課題となっている点について解説します。

    3-1.教員に求められる作業が膨大

    1つ目の課題は、教員が担う作業が膨大である点です。

    授業の準備や生徒指導に加えて、学校行事の計画や運営、保護者対応、校内の各種報告書作成など、教職員の業務は多岐にわたります
    。また、多様化する社会課題に対応する人材育成が求められる昨今、「キャリア教育」「アントレプレナーシップ教育」「ジェンダー教育」「金融教育」など幅広い教育知識を取り入れなければなりません。

    これらの事務作業、新しい教育活動に伴う作業が膨大であるため、教職員が本来の教育活動に集中できない状況が続いています。


    3-2.慢性的な教員不足(人手不足)

    人手不足は日本社会における深刻な問題ですが、教育現場も例外ではなく“学校の働き方改革”を阻害する大きな課題となっています。

    文部科学省の「教師不足」に関する実態調査によると、全国の公立学校において教員不足が生じている学校数は、1,897校に上ります。顕著なのは、特別支援学校(13.1%)と中学校(7.0%)での不足率です。

    また、県市別に見ても小学校で794校、中学校で556校もの教師不足が発生していることからも全国的に深刻な問題となっており、早急な対策が求められる状況です。


    3-3.勤務時間管理が不適切

    学校の働き方改革を進める上で、不適切な勤怠管理も課題となっています。

    教員が担う業務量は多く、早朝・放課後・休日を活用した勤務が恒常化しているため、個別のガイドラインを作成している学校/自治体においても勤怠管理が行いづらい現状です。また、従来の慣習や文化的な側面もあり「教育のためには時間を惜しまない」という認識を強く持つ教職員も多く、自己犠牲を厭わない姿勢が根付いていることも勤怠管理が難しい要因と考えられるでしょう。

    平成31年に文部科学省が策定したガイドラインでは、校務システムの活用やタイムカードなどにより客観的に計測すること、校外の時間についても本人の報告などを踏まえてできる限り客観的な方法により計測することを留意事項として挙げています。


    学校の働き方改革の主な取り組み

    政府主導による学校の働き方改革は進んでおり、令和6年8月の中央教育審議会において、「『令和の日本型学校教育』を担う質の高い教師の確保のための環境整備に関する総合的な方策について」答申がなされ、学校の働き方改革の加速化、教員の処遇改善、学校の指導・運営体制の充実など、教師を取り巻く環境整備の一体的・総合的な推進に向けて具体的な提言がなされています。

    本項では、学校の働き方改革における主な取り組み内容を改めて整理します。

    4-1.教職員の勤務時間の適正管理

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    教員の勤務時間管理が適正に行われていない場合、過重労働を助長し、働き方改革の推進を妨げる要因となります。

    勤怠管理システムの導入や電子タイムカードなどを導入し、すべての教職員の勤務時間を「見える化」することが急務となります。また、記録表やエクセル上へ本人が入力することによるダブルチェック体制を設けるなども効果的です。

    文部科学省が実施した調査によると、ICカードなどによる客観的な方法で勤務実態を把握している割合は、
    都道府県91.5%(前年度66.0%)、政令市は85%(前年度75%)、市区町村は71.3%(前年度47.4%)となっており大きく改善しています。

    4-2.ICT・校務支援ツールの活用による業務効率化

    ICT・校務支援ツールの活用も学校の働き方改革を進めるうえで欠かせません。

    文部科学省が推進する「GIGAスクール構想」により、全国的にIT・ICTの活用やデジタル端末が導入され、令和4年度末時点でほぼすべての自治体への整備が完了しています。
    これにより、宿題や定期テストの作成・採点の自動化することが可能となるだけでなく、出欠管理、成績処理、保護者連絡などの事務作業の一元管理が実現できます。

    重要なのは単に導入することを目的とせず、定期的な研修やICT支援教員の配置など体制整備を実施ながら学校全体のICTリテラシーを高めていくことです。

    関連記事:GIGAスクール構想とは?その目的から現状の問題点と解決策までを徹底解説!


    4-3.地域や外部人材の活用

    教職員の業務は多岐にわたるため、外部人材を活用(外部委託・業務委託)することが重要な取り組みの一つです。

    例えば、教職員の負担が大きい部活動の指導を外部の専門家に委託する取り組みなどが挙げられます。外部へ委託する際には、スポーツ庁が策定したガイドラインにも明記されているように、
    学校全体の目標や方針、各部活動の目標、方針、計画、具体的な指導内容、有事の対応など調整を行うとともに、相互に情報共有することが必要となります。
     

    4-4.生成AIの活用

    学校の働き方改革の新しい取り組みとして「生成AI」の活用が注目されています。

    生成AIによる教材の作成、授業計画立案など、さまざまな用途で利用できるため教職員の負担軽減が期待できます。さらに
    AIを活用したデータ分析により、生徒一人ひとりの学習状況をリアルタイムで把握し、個別指導を強化することも可能となります。

    なお、文部科学省のガイドラインにて明記されている学校現場において押さえておくべきポイントに則った運用が必要です。

    各対象者の押さえておくべきポイント

    対象者 押さえておくべきポイント
    教職員 ・教職員自身が新たな技術に慣れ親しみ、利便性や懸念点を知っておくことは、児童生徒の学びをより高度化する観点からも重要

    ・生成AIの仕組みや特徴を理解した上で、生成された内容の適切性を判断できる範囲内で積極的に利活用することは有用
    児童生徒 ・発達の段階や情報活用能力の育成状況に留意しつつ、リスクや懸念に対策を講じた上で利活用を検討すべき。その際、学習指導要領に定める資質・能力の育成に寄与するか、教育活動の目的を達成する観点から効果的であるかを吟味することが必要

    ・「生成AI自体を学ぶ場面」、「使い方を学ぶ場面」、「各教科等の学びにおいて積極的に用いる場面」を組み合わせたり往還したりしながら、生成AIの仕組みへの理解や学びに生かす力を高める
    教育委員会等 ・教育委員会が主導して制度設計や方向性を示すことが重要

    ・各学校の実態を十分に踏まえた柔軟な対応を講じることが必要であり、一律に禁止・義務付けるなどの硬直的な運用は望ましくない

    ・先行事例や教材・ノウハウの周知・共有、研修の実施により、生成AIの適切な利活用を推進する環境を整備することが必要

    具体的な取り組み事例

    学校の働き方改革を進めるための主の取り組みについて解説してきました。学校や自治体ごとで推進状況は異なりますが、全国で働き方改革の成果が出ていることも事実です。

    ここからは、実際の取り組み事例をご紹介します。

    事例(1)ICT・クラウド活用による業務効率化「福岡県久留米市立篠山小学校」

    福岡県久留米市立篠山小学校では、ICT活用による教職員の働き方改革を進め、業務効率化を実現しています。

    校内や教員間の情報共有に課題があった同校では、Googleチャットによるコミュニケーションの最適化、Googleカレンダー・スプレッドシートなどのグループウェアを活用したリアルタイムな情報共有を推進しました。その結果、他の教職員の予定や共有事項を即時把握することができ、会議のダブルブッキングなどトラブルの抑制にもつながっています。

    教員一人ひとり配布されている電子端末だけでなく、職員室には従来のホワイトボードに代わる大型のモニターを設置するなど情報共有の効率化を徹底しています。

    事例(2)部活動改革による勤務時間削減「千葉県立睦沢町立睦沢中学校」

    千葉県立睦沢町立睦沢中学校では、教職員の超過勤務時間を削減する目的で、部活動ガイドラインの遵守や地域資源を活用した部活動の地域移行を進めています。

    町内の総合型スポーツクラブや総合運動公園の活用、地域や保護者の協力を得た部活動運営を実現しています。また、ガイドラインを遵守した部活動休止日の設置や、完全下校時刻の早期化を行いました。

    その結果、一日一人当たりの在校時間が平日で約1時間10分、休日では約1時間30分の削減につながりました。また、部活動休止日を増やしたことで、勤務時間内に職員研修などが可能となり教員の長時間労働への対策にも効果がみられています。

    事例(3)生成AIのパイロット的取り組み「文部科学省」

    文部科学省では、「生成AIに関する暫定的なガイドライン」を公表しており、令和5年度は全国37自治体・52校を、令和6年度は39自治体・66校をパイロット校に指定し、授業・校務における効率化を検証しています。

    「生徒が作成した英作文をAIで校正し訂正が必要な部分やより自然な英語表現の提案してもらう(宮城県岩沼市立岩沼北中学校)」や「学校行事の保護者案内文のたたき台やテスト問題、スイスの姉妹校に送るメッセージカードを生成AIで作成する」(大阪市立天王寺中学校)などのように用途は多岐に渡ります。
     

    利便性に富んだ一方で、
    発展途上である生成AIの利用には個人情報の流出、著作権侵害のリスク、偽情報、批判的思考力や創造性への影響など懸念もあるため、ガイドラインを遵守し利用可否を見極めることが求められるでしょう。

    学校業務の効率化を検討の際はパーソルビジネスプロセスデザインの「教育ソリューション」

    ここまで、学校の働き方改革を進める背景とその取り組みについて解説してきました。
    教職員の長時間労働、教員不足などは、教育の質の低下にもつながるため、学校現場での働き方改革の推進はさらに必要となります。

    ICT・校務支援ツールの導入や外部人材による支援、生成AIの活用などを駆使し、持続可能な働き方を実現することで教育の質の向上にも寄与し、効果的な指導が行われる
    ようになるでしょう。

    パーソルビジネスプロセスデザインの「教育ソリューション」では、学校業務、試験運営、社員研修など、教育に関わる幅広い業務を支援しています。
    「事務・校務の効率化や工数削減を実現したい」、「教育DXを促進したい」などのお悩みをお持ちの際はぜひご検討ください。

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