準委任契約の「成果完成型」とは
準委任契約とは法律に関与しない業務の遂行を外部に委託する契約のことです。( 民法第656条 )
「成果完成型」とは、準委任契約のひとつで、受任者が業務の履行により得られる成果に対して報酬が発生する契約のことです。( 民法第648条の2第1項 )
成果完成型の特徴と似ている契約方式として、請負契約や履行割合型準委任契約などがあるため、混同してしまう方も多いのではないでしょうか。
まずは、成果完成型と類似している「履行割合型」や「請負契約」との違いを紹介します。
関連記事: 準委任契約の定義と適している場面|導入フローや必要な項目を紹介
履行割合型の違い
準委任契約の中には「成果完成型」と「履行割合型」があります。
成果完成型 | 履行割合型 | |
---|---|---|
契約内容 | 受任者が業務の履行により得られる成果に対して報酬が発生する契約 | 受任者が業務にかけた工数や進捗率に対して報酬が発生する契約 |
報酬が発生するタイミング | 成果が完成したとき(例:納品物の納入時) | 業務にかけた工数や進捗率 |
履行割合型とは、委託された業務内容の進捗率や工数に比例して、報酬を支払う方式です。( 民法第648条の第2項,第3項 )
たとえば、準委任契約として受託した作業内容の進捗が30%進んだ場合、報酬として総額の30%が支払われます。
成果完成型は「成果物の納品」に対して支払われるため、完成するまでは報酬が一切発生しません。
請負契約との違い
成果完成型 | 請負契約 | |
---|---|---|
契約内容 | 受任者が業務の履行により得られる成果に対して報酬が発生する契約 | 完成した仕事(例:成果物)や、その結果に対して報酬を支払う契約 |
報酬が発生するタイミング | 成果が完成したとき(例:納品物の納入時) | 仕事の完成時(例:成果物の完成時) |
請負契約とは、受任者が発注者から依頼された仕事(例:成果物の作成)を完成させ、発注者はその完成した仕事や結果に対して報酬を支払う契約です( 民法第632条 )
成果物の完成によって報酬が発生するため、成果完成型と請負契約は同等の方法として扱われる場合があります。
二つの異なる点は、報酬が発生するタイミングです。請負契約の場合は、仕事の完成時に報酬が発生します。たとえば、建設業者に住宅工事を委託したときには新築の完成が報酬のタイミングです。
一方、成果報酬型準委任契約の場合は、成果が完成したときに報酬が発生します。事業戦略コンサルタントに調査書を依頼した際に、要件を満たした成果物が納品された時点で報酬が発生します。
【パターン別】各種契約が適している場面例
ここまで各種契約方式の概要を説明しましたが、それぞれが類似しており、どの方法が適しているのか判断できない方も多いと思います。
ここでは、各種契約方式が適している場面例を紹介します。
成果完成型 | 履行割合型 | 請負契約 | |
---|---|---|---|
契約内容 | 受任者が業務の履行により得られる成果に対して報酬が発生する契約 | 受任者が業務にかけた工数や進捗率に対して報酬が発生する契約 | 完成した仕事(例:成果物)や、その結果に対して報酬を支払う契約 |
報酬 | 成果が完成したときに発生(例:納品物の納入時) | 業務にかかった時間や工数に対して発生 | 仕事の完成時に発生(例:成果物の完成時) |
\たった3分で完了!/
BPO解説ブックを請求
【成果完成型】映像コンテンツの字幕翻訳
成果完成型の例として、映像コンテンツの音声を指定された言語にテキストで翻訳する業務が挙げられます。字幕翻訳の成果物は「指定の言語に翻訳されたテキスト」であり、納品物が明確に定義できます。
業務範囲 | 動画コンテンツ(30分以内)の日本語から英語字幕翻訳 |
---|---|
業務詳細 |
|
成果物の定義 | 翻訳済み字幕データを指定のファイルを納品 |
成果物の品質基準 |
|
報酬条件 |
|
業務の履行により得られる成果に対して報酬が発生する契約であるため、成果完成型に向いているといえます。
【履行割合型】Webマーケティングのコンサルティング
履行割合型の例として、企業がWebマーケティングの専門家にプロジェクトのコンサルティングを依頼するケースが挙げられます。
たとえば、新商品のターゲット層にリーチできる広告戦略を設計するために、専門家に委託したとしましょう。
段階 | 作業内容 | 進捗割合 |
---|---|---|
1回目 | 戦略設計 | 25% |
2回目 | 広告準備 | 35% |
3回目 | 運用期間 | 40% |
履行割合型なら、「戦略設計」を完了したタイミングで25%分の報酬を支払うため、仮に100%業務を遂行していなくても、満額支払う必要はありません。
【請負契約】ソフトウェア開発(在庫管理システム)
請負契約の例として、業務に使用するソフトウェア開発を外部に委託するケースが挙げられます。
たとえば、自社の在庫管理を効率化するために、システム開発会社にカスタマイズ可能な在庫管理システムの開発を請負契約したとしましょう。
基本機能 |
|
---|---|
カスタマイズ可能箇所 |
|
請負契約は、成果完成型とは異なる法的な契約を締結します。請負側からすると適当な成果物の納品は、契約の打ち切りなど企業単位で影響を及ぼす事案に発展するリスクがあります。
業務で使用できるレベルの品質を担保した成果物の納品が目的の場合、請負契約が向いているでしょう。
準委任契約の成果完成型を締結する契約書に必要な項目
ここでは、準委任契約の成果完成型を契約する際に、契約書に記載するべき項目や記入例を紹介します。
※本章で記載されている契約書の文章は、一般的な参考例として掲載しています。実際の契約書作成は、個々の状況や法的要件が異なるため、ご使用はお控えください。
※本記事の内容をそのまま流用された場合に生じるいかなる問題や損害に関しても、当サイトでは責任を負いかねるため、ご了承ください。
業務目的
まずは、業務の目的を明記しましょう。委任者の意図が受任者に伝わるため事前に共通認識を擦り合わせられます。
■第○条(業務目的)
1. 委任者は受任者に対し、●●●●の実現を目的として、第○条に定める業務を委任し、受任者はこれを受任する。
2. 受任者は、前項の目的を達成するため、善良なる管理者の注意をもって業務を遂行するものとする。
委託する業務内容
委託したい業務内容を記載すると、成果物の完成形や業務の遂行方法を擦り合わせできます。
■第○条(業務目的及び委託業務)
委任者は受任者に対し、●●●●の実現を目的として、●●●●業務(以下「本件業務」という。)を委任し、受任者はこれを受任する。
受任者は、善良なる管理者の注意をもって本件業務を遂行するものとする。
契約期間
契約期間の開始日と納期を記載します。契約期間が明確に記載していない場合、納期に関する認識に齟齬が生じてしまい、必要なタイミングで製品が納品されていないことにもつながります。
契約期間は、具体的に記載して双方の認識を揃えましょう。
■第○条(契約期間)
1. 本契約の有効期間は、令和●●年●●月●●日から令和●●年●●月●●日までとする。
2. 前項の期間満了の1ヶ月前までに、委任者又は受任者から相手方に対し書面による別段の意思表示がない場合、本契約は同一条件でさらに6ヶ月間延長されるものとし、以後も同様とする。
報酬金額や支払い方法
報酬金額や支払い方法も具体的に記載しましょう。報酬金額や支払い方法を曖昧にすると、いつどこに振り込まれるか認識できず、トラブルの原因になります。
■第○条(報酬及び支払方法)
1. 委任者は受任者に対し、本件業務の報酬を以下のとおり支払うものとする。(1)報酬額:月額金●●円(消費税別)(2)支払期限:毎月末日締め、翌月15日払い(3)支払方法:請求書発行による銀行振込
2. 委任者は、前項の報酬を以下の銀行口座に振り込むものとする。なお、振込手数料は委任者の負担とする。(以下、銀行口座情報)
知的財産権の帰属
納品された成果物に発生する知的財産権の帰属先を記載しましょう。もし成果物が完成しても、委託側に知的財産権がない場合は、成果物の使用に制限がかかります。
反対に製作者が知財財産権を失った場合は、類似したシステムを他社に流用できなくなるおそれがあります。
■第○条(知的財産権)
本件業務の遂行により作成された成果物に関する一切の知的財産権(著作権、特許権等を含む。)は、委任者に帰属するものとし、その対価は第○条の報酬に含まれるものとする。
秘密保持契約
秘密保持契約とは「業務に使用する自社に関する情報を社外に開示するのを禁止する契約」です。
秘密保持契約を締結せずに業務を委託すると、自社の情報が競合他社に漏洩したり、社員の個人情報が悪用されたりするなどの影響が考えられます。
外部漏洩を防ぐためにも、契約書にあらかじめ記載しておきましょう。
■第○条(秘密保持)
1. 委任者及び受任者は、本契約に関連して知り得た相手方の技術上、営業上その他一切の情報(以下「秘密情報」という。)を、相手方の事前の書面による承諾なく第三者に開示、漏洩してはならず、本契約の履行以外の目的に使用してはならない。
2. 秘密情報に関する義務は、本契約終了後も3年間継続するものとする。
契約解除の条件
契約後に予期せぬ事態による契約解除が発生するリスクに備えて、契約解除の条件も記載しておきましょう。
あらかじめ記載しておくと、仮にトラブルが発生しても、対応方法が明確になるためスムーズに対処できます。
■第○条(契約解除)
委任者及び受任者は、相手方が次の各号のいずれかに該当する場合、本契約を解除ができる。
1. 本契約に違反し、相当な期間を定めて催告したにもかかわらず、是正しないとき
2. 破産、民事再生手続開始の申立てを受けたとき
3. 本契約を継続しがたい重大な事由が発生したとき
前項により契約が解除された場合、帰責事由のある当事者は、相手方の損害を賠償するものとする。
損害賠償
契約時の締結内容に違反した行為や不正が発覚した場合、損害賠償発生する可能性があります。早急に対処するためにも、対応方法を事前に記載しておきましょう。
損害賠償の責任範囲や条件などを設定して、事前に請負側の同意を得られると、双方が納得して業務を遂行できます。
■第○条(損害賠償)
委任者及び受任者は、本契約に違反し、相手方に損害を与えた場合、その損害を賠償するものとする。
前項の損害賠償の額は相手方に発生した直接かつ現実の損害に限るものとし、間接損害、特別損害、逸失利益等は含まないものとする。
本条に基づく損害賠償の上限額は、第○条に定める月額報酬の3ヶ月分相当額とする。
準委任契約の成果完成型を締結する際の注意点
最後に、準委任契約の成果完成型を締結する際の注意点を3つ紹介します。
注意点を理解しない状態で準委任契約を進めてしまうと、後々トラブルになるおそれがあるため、事前に確認しましょう。
\たった3分で完了!/
BPOサービスの資料を請求
契約の内容よっては成果物が水準に達していなくても支払いが発生する
準委任契約の成果完成型は、成果物の納品によって報酬が発生する契約形式です。しかし、品質を必ず担保するわけではありません。
準委任契約は業務の遂行を目的としているため、納品された時点で支払いの義務が発生するためです。
もし、成果物に一定以上の条件を求める場合は、契約を結ぶ前に双方の話し合いをもとに品質の基準を決める必要があります。
契約時や要件定義の段階で、成果物に対する指示・条件をすり合わせておくことが大切でしょう。
偽装請負に注意する
偽装請負とは、書類上では業務委託で契約しているのにもかかわらず、実際は労働者派遣契約と同等の仕事を依頼していることです。
当然ながら、偽装請負は違法行為であるため、誤って実施しないよう注意が必要です。
とくに、業務に関する直接的な指導に注意を払わなければいけません。準委任契約を含む業務委託では、委託側に指揮命令権が発生しないからです。
準委任契約の成果完成型が適している場面で活用しよう
「成果完成型」とは準委任契約のひとつで、受任者が成果物を納品した時点で報酬が発生する契約のことです。
履行割合型と違い、成果物の納品時点で報酬が発生するため、成果物が明確な業務の委任に向いているでしょう。
準委任契約の成果完成型に興味をもった企業の方は、ぜひ検討してみてはいかがでしょうか。
準委任契約を含めたBPOの活用なら、パーソルプロセスデザインにご相談ください。豊富なノウハウから、お客様の課題点を解決します。サービス詳細については、下記ページをご覧ください。
BPOサービスのご紹介
独自に培った「ビジネスプロセスデザイン力」と「マネジメント力」を駆使し、幅広いスキルを持った人材と最先端のテクノロジーを組み合わせた高品質なBPOサービスを提供