準委任契約の定義とは
準委任契約とは、法律に関与しない業務の遂行を、外部に委託する契約です。(民法第656条)
事務作業の遂行を目的としているため、受任者(※1)は成果物の質や結果に関して、基本的に責任を負いません。
しかし、受任者には善管注意義務と呼ばれる「管理者として適切な注意を払いながら業務を遂行する義務」が民法第644条で定められているため、絶対に責任を問われないとは限りません。
業務中で、善管注意義務が果たされていない場合は、委任者(※2)から損害賠償責任を請求されるおそれがあります。
準委任契約には、以下の2種類の契約形態があります。
- 履行割合型
- 成果完成型
委託したい業務内容によって契約形態が変わるため、各特徴を理解しましょう。
(※1)業務を依頼されて遂行する側
(※2)準委任契約を依頼する側
履行割合型
履行割合型とは、委託された業務内容の進捗率や工数に比例して報酬を支払う方式です。(民法第648条第2項,第3項)
委託前に業務内容の進捗割合を設定しておくと、状況にあわせて段階的に支払いができます。
たとえば、事業戦略コンサルティングを外部に委託する際、以下の進捗割合を設定するとします。
段階 | 作業内容 | 進捗割合 |
---|---|---|
1段階目 | 市場調査と現状分析 | 30% |
2段階目 | 戦略立案 | 40% |
3段階目 | 実行支援 | 30% |
この場合、受任者が「市場調査と現状分析」を完了したタイミングで30%分の報酬を支払います。
進捗状況にあわせて支払額が確定するため、当事者同士の定期的な報告が必要です。
成果完成型
成果完成型は、受任者が成果物を納品した時点で報酬が発生する契約です。(民法第648条の2第1項)
履行割合型と異なり、作業が途中の場合は報酬が発生しません。
たとえば、事業戦略コンサルティングを契約する場合の成果物は、以下のとおりです。
成果物 | 事業戦略調査書 |
---|---|
記載内容 |
|
完成基準 | 調査書が契約時に合意した要件を満たすこと |
完成基準を満たした成果物が、納品後に報酬を支払われる契約方式です。
準委任契約の具体例
依頼したい業務内容で契約を締結するには、準委任契約の種類と特徴を理解しておく必要があります。
スムーズに契約を進めるためにも、各契約形態の具体例を見ていきましょう。
【履行割合型】ITシステムの運用保守
ITシステムの運用保守とは、現行で稼働しているシステムが安定した動作を維持するために日々管理する業務です。
委託される保守運用の業務として、以下のような項目が存在します。
- 定期的なシステムチェック
- 障害発生時のトラブルシューティング
- ソフトウェア更新
- ハードウェアの交換
保守運用はシステム動作の安定を目的としているため、明確な成果物が存在しません。そのため、工数に比例して報酬を支払う「履行割合型」が向いています。
履行割合型のため、システムを日々管理する中で稼働した工数分が報酬として支払われます。
【成果完成型】マーケティング担当者との契約
成果完成型の例として、SNS上のトレンドや競合他社の販売状況の調査・資料作成を、マーケティング担当者に業務委託したとしましょう。
今回の目的は、調査結果をまとめた成果物の提出になるため、納品の時点で報酬が発生する「成果完成型」が適しています。
受任者は、調査結果をもとにしたレポートの提出を成果物としているため、提出した時点で報酬が支払われます。
さらに成果完成型を検討されている方は、こちらの記事もあわせてご覧ください。
→ 準委任契約の「成果完成型」とは|準委任契約と請負契約の違いも紹介
準委任契約と類似している契約の違い
準委任契約と類似している3つの契約形態の特徴は、以下のとおりです。ここでは、各契約形態の特徴と準委任契約との違いを解説します。
契約形態 | 特徴 | ケース例 |
---|---|---|
準委任契約 | 法律行為以外の行為に関連する業務の遂行を目的とした契約 | ITエンジニアの客先常駐 |
委任契約 | 法律行為に関連する業務の遂行を目的とした契約 | 弁護士に訴訟を代理で委託するケース |
請負契約 | 成果物や結果に対して報酬を支払う契約 | 建築工事(住宅やビルの建設) |
派遣契約 | 派遣会社から派遣労働者を受け入れるために結ぶ契約 | 一般事務・オフィスワーク |
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委任契約との違い
委任契約 | 準委任契約 |
---|---|
法律行為に関与する業務の遂行を目的とした契約 | 法律行為以外の行為に関連する業務の遂行を目的とした契約 |
委任契約とは、法律行為に関与する業務の遂行を委託する契約で、 民法第643条 によって定められています。
準委任契約と委任契約は、委託する業務内容が「法律行為」か「法律行為以外の行為」の観点で内容が異なります。
法律行為に関与する場合は、委任契約として契約が必要です。たとえば、弁護士に訴訟を代理で委託するケースが挙げられます。
一方、委託する業務が法律行為以外の行為に関連する場合は、準委任契約としての契約が一般的です。
請負契約との違い
請負契約 | 準委任契約 |
---|---|
成果物や結果に対して報酬を支払う契約 | 法律行為以外の行為に関連する業務の遂行を目的とした契約 |
請負契約とは、成果物に対して報酬を支払う契約で、 民法第632条 にて定められています。
準委任契約と請負契約は、委託する目的が異なります。
委託目的が「成果物の完成」の場合は請負契約です。一方、目的が業務の遂行の場合は、準委任契約に該当します。
派遣契約との違い
派遣契約とは、派遣会社から派遣労働者を受け入れるために結ぶ契約です。
派遣契約と準委任契約の異なる点は、指揮命令権の有無です。指揮命令権とは、業務委託者に対して、業務上の指示を直接指導する権限を指します。
派遣契約の場合は指揮命令権が存在するため、発注者に直接業務上の指示出しをしても問題ありません。
しかし、準委任契約の場合は指揮命令権が存在しないため、直接的な指導をすると、偽装請負となり違法行為に該当してしまいます。
準委任契約のメリット
準委託契約は、委託目的や法律が関わるかどうかで契約形式が変わります。では、準委託契約を選択するメリットは具体的にどのような項目があるのでしょうか。
本章では、準委任契約のメリットを3つ紹介します。
- 契約の期間に制限がないため臨機応変に対応できる
- 専門業務を委託できる
- 工数や時間給で対価を支払える
契約の期間に制限がないため臨機応変に対応できる
準委任契約の場合は、委託の目的が業務遂行のため、契約終了とならない限り。契約期間の制約はありません。
たとえば派遣契約の場合、契約期間は以下の形で制限されています。
- 同一事務所で31日以下の労働は禁止
- 同一事務所で3年以上の労働は禁止
もし派遣労働者を雇ってから3年を超えると、新しい人材の確保が必要なため、長期的に時間や教育コストが発生します。
一方、準委任契約は年数に制限がないため、双方の同意がある場合は長期の継続が可能です。
専門業務を委託できる
準委任契約を活用すると、自社に専門家がいない場合でも、難易度の高い専門業務を外部へ委託ができます。
準委任契約が活用される専門業務の一部は、以下のとおりです。
- ITエンジニアの客先常駐
- コンサルタント
- バックオフィスの専門職
専門業務を実施できる社員を育成しようとすると、膨大な時間とコストがかかります。
専門分野に精通した作業者を準委任契約として委託すれば、必要なタイミングで業務に参画してもらえるため、コストを抑えつつ業務のパフォーマンス向上を目指せます。
工数や時間給で対価を支払える
準委任契約の中でも「履行割合型」の場合は、作業の進捗率や工数に比例して報酬の支払いを実施します
工数に沿った支払いができるため、成果の判断しにくい定例業務を定量的に委託しやすくなります。
たとえば、準委任契約の履行割合型に向いている業務は以下のとおりです。
- サポートデスク
- 広告運用代行
- ITシステムの運用保守
準委任契約の締結フロー
準委任契約を双方の同意のうえで締結させるためには、適切な手順を踏む必要があります。
準委任契約の締結フローは以下のとおりです。
- 委託する業務内容の確定
- 条件の調節
- 同意のうえ契約書の締結
まず、委託する業務内容を確定させます。委任者と受任者との間に齟齬が発生しないよう、業務範囲や作業手順などを詳細に定義しましょう。
次に、委任者と受任者の双方が納得のいく契約条件に調節します。業務内容だけでなく、報酬金額や納期まで考慮しましょう。
条件に対して双方の同意が取れた場合は、契約書の締結で完了となります。
手順を無視して契約に進んだ場合、双方の認識の違いが原因で、後々トラブルに発展する可能性があるため、締結前に確認しましょう。
準委任契約の締結に必要な項目
ここでは、準委任契約の締結にて必要な条件や項目を紹介します。
※本章では一般的な参考例として文章を記載しています。実際の契約書作成においては、個々の状況や法的要件が異なるため、慎重にご確認ください。本記事の内容をそのまま流用された場合に生じるいかなる問題や損害についても、当サイトでは責任を負いかねるため、ご了承ください。
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委託する業務の内容
準委任契約にて、外部に委託する業務内容を具体的に定めましょう。具体的に定義すると、双方の認識間違いを防止できます。
??第○条(準委任)
委任者は受任者に対して、以下の業務(以下「委任業務」という。)を委託し、受任者はこれを受託する。
(1) ○○に関する分析及び助言
(2) ○○に関する企画立案支援
(3) 前各号に付随する業務
契約する期間
契約期間はもちろん、意思表示がない場合は自動で更新となる旨を定めましょう。
??第○条(委託期間)
1. 本契約の期間は、○○年○○月○○日から○○年○○月○○日までとする。
2. 前項の期間満了の1ヶ月前までに、委任者または受任者のいずれからも書面による契約終了の意思表示がない場合、本契約は同一条件でさらに1年間自動的に更新されるものとし、以後も同様とする。
報酬金額や支払い方法
本契約で発生する報酬を具体的に記載します。報酬に関しては金額だけでなく支払方法や支払い期限まで明確に定義しましょう。
??第○条(委託料及び支払方法)
1. 委任者は、第○条に定める業務の対価として、受任者に対し、以下の委託料を支払うものとする。
月額金○○○,○○○円(消費税別)
2. 委任者は、受任者の請求に基づき、毎月末日締めにて、翌月末日までに前項に定める委託料を、受託者が指定した銀行口座に振込みにて支払うものとする。なお、振込手数料は委任者の負担とする。
知的財産権について
成果物が発生する場合は、知的財産権の帰属先を明記しましょう。
??第○条(知的財産権)
1. 本委託業務の遂行により生じた成果物に関する一切の知的財産権(著作権法第27条及び第28条に定める権利を含む。)は、委任者に帰属するものとする。
2. 受任者は、成果物に含まれる著作物について著作者人格権を行使せず、第三者の知的財産権を侵害しないものとする。
3. 本条の規定は本契約終了後も有効に存続するものとする。
企業で知り得た情報に対して秘密保持
本件の契約で共有した会社情報の漏洩を防止するために、契約書内に項目を追加します。
??第○条(秘密保持)
1. 委任者及び受任者は、本契約の履行に際して知り得た相手方の一切の情報を、相手方の事前の承諾なく第三者に開示してはならず、本契約の履行以外の目的に使用してはならない。
2. 本条の規定は本契約終了後も5年間有効に存続するものとする。
契約解除の条件
契約解除の条件と手続き方法の記載をします。
??第○条(契約解除)
1. 委任者及び受任者は、相手方が本契約に違反した場合、書面による通知により直ちに本契約を解除できる。
2. 委任者及び受任者は、30日前の書面通知により、本契約を解約できる。
損害賠償について
準委任契約中に違反行為や過失などで、損害賠償責任が発生する際の条件を明確にします。
??第○条(損害賠償)
1. 委任者または受任者は、本契約に違反し相手方に損害を与えた場合、直接損害に限り賠償責任を負う。
2. 損害賠償額は、直近6ヶ月間の委託料総額を上限とし、不可抗力による損害は免責とする。
契約書外の事象が発生した際の協議事項
契約書内で定められなかった事象が発生した際の協議事項も記載しましょう。
??第○条(協議事項)
1. 本契約に定めのない事項または本契約の解釈に疑義が生じた場合は、委任者及び受任者は、信義誠実の原則に従い、誠意を持って協議のうえ、解決するものとする。
2. 前項の協議が整わない場合は、○○地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
準委任契約を締結する際の注意点
最後に、準委任契約を締結する際の注意点を5つ紹介します。
- 成果物が未達でも支払いが発生する
- 突然契約が解除される可能性が双方にある
- 偽装請負に注意する
- 契約書の作成時に収入印紙の貼付が必要な場合がある
- 契約書の内容に不備がない状態にする
成果物が未達でも支払いが発生する
準委任契約の場合、報酬は業務の遂行ベースで発生するため、納品された成果物が想定通りでなくても、報酬を支払わなければなりません。
たとえば、事業戦略コンサルタントが事業に関するアドバイスを準委任契約で依頼されたとしましょう。
コンサルタントが戦略選定のために、多数の助言をしていたタイミングで、突然の経営方針の変更により提案がすべて不採用になるおそれがあります。
しかし、コンサルタントは事業戦略のアドバイスを遂行しているため、発注者は報酬を支払う必要があります。
準委任契約を締結する場合は、報酬を支払う前提で契約しておくと、想定外のコスト発生を未然に防止可能です。
突然契約が解除される可能性が双方にある
準委任契約は、双方とも契約を解除されてしまう可能性があります。
委任者が長期間の委託を望んでいても、更新のタイミングで受任側から契約解除を言い渡されるからです。
契約解除を未然に防ぎたい場合は、契約書に以下のような「契約解除に関する項目」を規定しておくといいでしょう。
- 契約解除はいつまでに伝えるか
- 解除になった際の通達方法・手順
- 突然の契約解除になるケース
契約前に項目を確認して、事前に双方ですり合わせましょう。
偽装請負に注意する
偽装請負とは、書類上では準委任契約であるにも関わらず、実際は労働者派遣契約と同等の仕事を依頼することです。
準委任契約では、直接業務に関する指導などの指揮命令権を行使してしまうと、法律違反となってしまい、偽装請負として判断される可能性があります。
準委任契約を含む業務委託では、委任者と受任者は対等な立場なため、どちらにも指揮管理権がありません。
偽装請負は法律違反となるため、以下の刑罰を受ける可能性があります。誤って指示を出さないよう覚えておきましょう。
違反となる法律 | 刑罰 | 該当法令 |
---|---|---|
職業安定法 | 1年以下の懲役又は100万円以下の罰金 | |
労働基準法 | 1年以下の懲役または50万円以下 | |
労働者派遣法 | 1年以下の懲役又は100万円以下の罰金 |
契約書の作成時に収入印紙の貼付が必要な場合がある
準委任契約では、原則印紙税がかからないため、契約書に収入印紙を貼り付ける必要はありません。
例外として契約書が「第1号文書」に分類される場合は、印紙を支払う必要があります。
契約書の内容に不備がない状態にする
契約書の不備・曖昧な項目を放置して進めると、認識の齟齬により稼働後、トラブルに発展するケースがあります。
たとえば、コンサルティング業務を準委任契約しようとした際、業務内容について詳細に設定しないと、以下の齟齬を生むおそれがあります。
委任者 | 提案資料だけではなく、実行支援や関係者との調整も行うべき |
---|---|
受任者 | コンサル契約は提案書の作成とアドバイスが範囲で、実行や運営サポートは対象外 |
トラブルを未然に防止するためにも、契約書には依頼内容を具体的に定義しましょう。
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準委任契約とは、法律以外の事務作業の遂行を目的とした契約形態です。履行割合型や成果完成型などの種類があり、業務内容にあわせて活用ができます。
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