請求書の相殺処理とは?
請求書の相殺処理とは?
請求書の相殺処理とは、自社と取引先との間でお互いの売掛金と買掛金を同じ分だけ消し合う処理のことです。
まずは、相殺処理の仕組みや特徴について解説していきましょう。
特徴(1)企業間の掛け取引で用いられる
特徴(1)企業間の掛け取引で用いられる
企業間の取引には、商品やサービスの購入代金を期間ごとにまとめて支払う「掛け取引」が多く用いられています。掛け取引を行うことで発生するのが「売掛金」と「買掛金」です。
売掛金・買掛金とはそれぞれ以下を指します。
- 売掛金:商品やサービスを提供した相手先から、将来的に代金を受け取る権利
- 買掛金:商品やサービスを仕入れた相手先に対して、将来的に代金を支払う義務
企業によっては、自社と取引先との間で相互に商品・サービスを提供し合うケースもよくあり、相互に売掛金・買掛金をもった状態となります。この場合、請求書上で相殺処理を行うことが可能です。
たとえば、自動車整備のA社と弁当販売のB社があり、A社はB社に従業員用の昼食配達を依頼している一方で、B社はA社に配達車の整備を依頼しているといったケースが該当します。ある月において、双方で以下の取引があったとします。
- A社がB社から20万円分の弁当を購入した
- B社がA社に配達車の整備を依頼し、料金が20万円だった
この場合、それぞれの売掛金と買掛金が同額であるため相殺処理を行い、金銭のやり取りを省くことができるのです。
また、整備料は変わらず20万円で、A社の弁当購入額が15万円だった場合は、15万円分を相殺し、A社がB社に支払う金額を残りの5万円とすることも可能です。
特徴(2)過入金の場合も相殺処理ができる
特徴(2)過入金の場合も相殺処理ができる
請求した金額よりも多く入金されてしまった「過入金」の場合も、差額を次月の売掛金と相殺することができます。
たとえば、前述の自動車整備A社と弁当販売B社の間で以下の取引があったとします。
- A社から10万円分の弁当購入があったため、B社はA社に対して10万円の請求書を発行した
- ところがA社からは12万円の入金があり、2万円の差額が発生した
- 翌月B社はA社に20万円で配達車の整備を依頼したため、相殺処理をすることとした
この場合、A社は2万円(過入金分)を売掛金20万円から差引き、18万円の請求とすることが可能です。
特徴(3)相殺処理は民法で認められている
特徴(3)相殺処理は民法で認められている
民法では、当事者のどちらか一方が相手方に意思表示をすることによって、相手方の同意を得ずに相殺を行うことができるとしています。
ただし、その際には以下3つの条件をすべて満たしている必要があります。
- 当事者間で同種の債権があること
- 両方の債権が返済期日を迎えていること
- 両方とも「相殺禁止」に該当しない債権であること
法律上は相手方の同意がなくても相殺処理を行うことができますが、実務上ではトラブルに発展しないよう事前に先方の了承を得ることが一般的です。
過入金などによる相殺処理のメリット
過入金などによる相殺処理のメリット
相殺処理を行うことで、どのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、2つを挙げて解説しましょう。
メリット(1)現金の移動を減らせる
メリット(1)現金の移動を減らせる
相殺処理を行うと、現金のやり取りを減らす、または動かす資金の金額を小さくすることが可能です。そうなると現金の支出が減るため、キャッシュフローの安定につながりやすくなります。
また、支払いに関する事務処理を行う必要がなくなりますので、処理にかかる手間や時間を削減することができます。送金の回数が減ることで、振込手数料などのコストカットにつながる点もメリットだといえるでしょう。
メリット(2)売掛金を回収しやすくなる
メリット(2)売掛金を回収しやすくなる
後払いである掛け取引には、先方からの支払いが遅延したり、最悪の場合には代金が回収できなくなったりするリスクがあります。
万が一期日を過ぎても先方から支払いが行われなかった場合は、自社も先方への支払いをストップして売掛金の相殺処理を行えば、自社の損失を防ぐことが可能になります。
相殺処理は双方の手間を減らすだけでなく、債権回収における重要な担保的機能を果たしているのです。
過入金などによる相殺処理のデメリット
過入金などによる相殺処理のデメリット
企業間取引において大きなメリットのある相殺処理ですが、一方でデメリットも存在します。同様に2つを挙げて解説しましょう。
デメリット(1)資金繰りが厳しくなる場合がある
デメリット(1)資金繰りが厳しくなる場合がある
支払い期日の異なる売掛金について相殺処理をする場合、どちらか一方は本来支払われるはずだったタイミングで「予定していた入金を受け取れない」もしくは「入金額が減ってしまう」という状況に陥ります。
そのため、一時的に資金繰りが厳しくなってしまうというケースもあるでしょう。もし相殺によって自社の資金繰りが厳しくなってしまうと判断した場合には、相殺取引を拒否することも可能ですので覚えておくと良いでしょう。
デメリット(2)かえって手間が増えることもある
デメリット(2)かえって手間が増えることもある
相殺処理を行う場合、実際に金銭のやり取りが発生しなくても、請求書を発行する必要があります。また、必要に応じて領収書の発行も行わなければなりません。そのため、結果的に事務作業の手間が増えてしまうケースもあるでしょう。
さらに、債権・債務の管理が複雑になることで経理担当者の負担が増えることも想定されます。社内で売掛金と買掛金の担当者が分かれている場合には、「連携を取るのが難しくなる」という点がデメリットになる場合もあるでしょう。
過入金などによる相殺処理の流れ
過入金などによる相殺処理の流れ
次に、相殺処理を行う際の流れについて解説しましょう。相殺処理は、大きく分けると以下の3ステップで対応を進めていきます。
ステップ(1)取引先に連絡して了承を得る
ステップ(1)取引先に連絡して了承を得る
まずは取引先に連絡して、了承を得るところから始めましょう。法律上では、一定の条件を満たす場合に相手先の同意を得ずに相殺処理を行うことが認められています。
しかし、実際のビジネスでは事前に取引先の了承を得たうえで処理を進めることが暗黙のルールとなっています。
デメリットでも挙げたように、場合によっては先方の資金繰りに影響を与えてしまうこともあるため、事前に連絡をせずに一方的に相殺処理を進めてしまうと大きなトラブルになりかねません。
自社の信用にかかわる取引ですので、相殺処理を検討する場合は必ず先方に連絡し、事前に了承を得てから進めるようにしましょう。
ステップ(2)相殺請求書を発行する
ステップ(2)相殺請求書を発行する
先方の了承を得て相殺処理を進めることが決まったら、“相殺請求書”を発行しましょう。
実際には金銭のやり取りが発生しない全額相殺の場合でも、取引内容を明確にするために「お振込は不要です」などと記載した相殺請求書を発行します。
相殺処理の記載方法としては、以下のいずれかが用いられます。
- 金額欄に相殺前の金額・相殺する金額・相殺後の金額(=実際に請求する金額)を記載する
- 備考欄に相殺前の金額や相殺後の金額を記載する
- 1枚に相殺前の金額、もう1枚に相殺後の金額を記載し、2枚セットで使用する
書き方に法律上の決まりはないため、双方で取引内容が分かりやすいように請求書を作成しましょう。先方から事前に書き方の指定があった場合はその形式で作成します。記載方法に指定があるかどうかを先方の担当者に確認しておくと、スムーズに進められるでしょう。
ステップ(3)必要であれば相殺領収書を発行する
ステップ(3)必要であれば相殺領収書を発行する
相殺処理が行われたら、必要に応じて領収書を発行しましょう。実際に金銭の受領が発生するわけではないため、相殺領収書と通常の領収書では意味合いがやや異なります。
代金を受け取ったことを証明するために発行される通常の領収書とは異なり、相殺処理が行われて「買掛金を支払う義務が消失した」ことを証明するのが相殺領収書です。
相殺領収書の発行は義務付けられているわけではありませんが、相殺処理が行われたことを明確にするために発行を求められる場合があります。一方が相殺領収書を発行した場合、もう一方も発行する必要があるため、必要に応じて相殺領収書を準備しましょう。
この場合、金銭を受領した領収書ではないため簡易的なものでも問題なく、収入印紙を貼る必要もありません。ただし、一部だけ相殺した場合などで実際に金銭の受領があった場合には、金額によって定められた額の収入印紙が必要になります。
相殺する際の請求書の書き方
では、請求書を発行する際はどのように記載すればよいのでしょうか。続いては請求書の具体的な書き方について解説します。
ポイント(1)相殺前と相殺後の金額を明記する
ポイント(1)相殺前と相殺後の金額を明記する
相殺請求書には、以下の3点を明記します。
- 相殺する前の取引金額
- 相殺する金額
- 相殺後の請求金額
どの欄に何を記載しなければならないといった決まりはありませんが、取引内容が分かりやすくなるように配慮すると良いでしょう。
相殺請求書には複数の取引金額が記載されるため、実際に支払う金額がいくらなのか分かりづらくなりがちです。最終的に支払う金額を強調するため請求金額の部分を太字にするとか、「※こちらが相殺後の金額です。こちらの金額をご入金ください」といった注釈を添えると親切でしょう。
ポイント(2)相殺金額は「−」や「▲」でマイナスの表記をする
ポイント(2)相殺金額は「−」や「▲」でマイナスの表記をする
相殺する金額には、先頭に「−」や「▲」などの“マイナス”を表す記号をつける書き方が一般的です。
相殺請求書の目的は「相殺処理が行われたこと」を明確に示すことです。明確な決まりはないものの、視覚的に分かりやすく伝えるために「−」「▲」「△」などの記号が用いるケースが多いです。
基本的にどの記号を使っても問題ありませんが、もしも先方から具体的な指示があった場合は、指定の書き方で記載するようにしましょう。
ポイント(3)相殺取引の内容を記録する
ポイント(3)相殺取引の内容を記録する
相殺請求書の発行後は、取引の記録を残しておくことが重要です。
請求書の備考欄に相殺処理を行った経緯を記録して保管したり、帳票に記載したりして、時間が経っても取引内容が明確に分かるようにしておきましょう。
相殺処理は双方の信用によって成立する取引です。もしもお互いの認識にズレがあると、後々大きなトラブルに発展してしまう恐れがあるものです。そういったトラブルを防ぐためにも、取引内容は明確に記録しましょう。
相殺処理をスムーズに進めるポイント
相殺処理をスムーズに進めるポイント
相殺処理を滞りなく進めるためには、「いつでも債権債務の状態が明確に把握できている」というように社内の経理体制を整えておくことも重要です。そのためのポイントについて3点を挙げて、解説しましょう。
ポイント(1)社内で情報を共有する
ポイント(1)社内で情報を共有する
取引内容が不透明になりがちな相殺処理は、取引先と認識を統一させ、トラブルを防ぐことが重要です。
また、取引先との間だけでなく、社内の関連部署や担当者間でも過入金の状況や相殺処理について、詳細に情報を共有しておく必要があるでしょう。
担当者が独断で進めてしまい社内に情報が共有できていない状態だと、時間が経って先方から問い合わせがあった場合などに状況が分からずトラブルに発展する恐れがあります。
過入金などのイレギュラーが発生したり相殺処理が必要になったりした場合は必ず社内で共有し、状況によっては上長の判断を仰ぐようにしましょう。
また、後々のトラブルを防ぐためには、「いつ、どの件に関する売掛金・買掛金が対象であるのか」「それぞれの取引金額や相殺した金額はいくらなのか」を、誰が見ても分かるように記録しておくことが必要です。
ポイント(2)債権・債務の管理を徹底する
ポイント(2)債権・債務の管理を徹底する
自社側から相殺処理を希望する場合および、取引先から相殺処理の申し出があった場合のどちらにおいても重要なのが、「債権・債務の状況がすぐに分かる状態」であることです。
そのためには、日常的に相手先ごとの取引内容を正確に記録し、債権・債務の状況を明確に管理しておく必要があります。取引先の信用状態や支払い履歴などの定期的なチェックを行うことも有効でしょう。
経理部門でこうした管理を徹底することにより、起こりうるリスクを未然に防げるだけでなく、いざという時に迅速かつ適切な対処ができるのです。
ポイント(3)外部の力を活用する
ポイント(3)外部の力を活用する
相殺処理やその他の経理業務をスムーズに進めるためには、日常的な経理体制を強化することが重要です。
とはいえ、人手不足が大きな課題となっている昨今では、限られた人員で日常業務をこなすことに精一杯で「体制の改革まで手が回らない」という企業も多いのが現状でしょう。
社内でリソースや専門知識が不足している場合は、アウトソーシングなど外部の力を活用することも有効です。ノンコア業務を外部に委託すれば、自社の人材をより重要な業務に集中させることができるのです。
こうした外部のアウトソーシング事業者は、専門知識や高度なスキル、豊富な業務経験を持ち合わせているため、経理業務を迅速かつミスなく遂行できるというメリットも期待できるはずです。
経理アウトソーシングサービスならパーソルビジネスプロセスデザインへ
経理アウトソーシングサービスならパーソルビジネスプロセスデザインへ
過入金があると、相手企業・担当部署とイレギュラーなやりとりが発生し、請求書の修正などに工数がかかってしまいます。そのうえ、処理を間違えてしまうと信用問題に発展してしまう危険もありますので、経理担当者にとって大きな負担となるでしょう。
先ほどの対策でもご紹介したアウトソーシングを活用することで、業務品質を維持しながら過入金の発生自体を抑制することが可能になるはずです。
私たちパーソルビジネスプロセスデザインでは、「経理業務アウトソーシング」サービスをご提供しています。請求書をはじめとした証憑のシステム入力、仕訳処理、消し込みなど幅広い業務をご依頼いただける点が特徴です。
経理業務で何かお困りのことがございましたら、ぜひお気軽にお問い合わせくださいませ。