月次決算とは
月次決算とは、その名のとおり「1ヶ月に1回の頻度で行う決算業務」のことを指します。
経理業務における「決算」といえば、年次決算をイメージされる方が多いと思いますが、その年次決算の重要な部分のみを切り出して行う簡便な決算作業が「月次決算」です。
まずは、この「月次決算」の詳しい説明に入る前に、月次決算と年次決算のどちらにも深く関わってくる『決算書』について、その概要を振り返ってみましょう。
1-1. 決算書とは
1-1. 決算書とは
決算書は、「貸借対照表」「損益計算書」「株主資本等変動計算書」および「個別注記表等」から構成されます。
※なお、これは会社法が適用される株式会社などの場合です。金融商品取引法が適用される上場企業は、有価証券報告書内の「経理の状況」において連結財務諸表等をはじめとした詳細な情報開示が求められています。
それぞれの項目について解説してみましょう。
●貸借対照表
貸借対照表には、企業の事業年度末日における財政状態が示されています。
その企業が現金・預金、有価証券や固定資産等の「資産」をどの程度有しているのか、また、その資産をどうやって賄っているのか(借入金等による「負債」なのか、剰余金等による「純資産」なのか)を分かりやすく理解することができます。
●損益計算書
損益計算書には、企業の事業年度内における経営成績が示されています。
1年間でどの程度の売上高があったのか、それに対する仕入高はどの程度だったか、間接的な費用として発生した販売費・一般管理費はどの程度だったかが記載されています。
他にも、営業外損益、特別損益、負担するべき税金等が、損益計算書には明示されており、企業の「成績通知表」ともいわれます。
●株主資本等変動計算書
株主資本等変動計算書は、貸借対照表の純資産の部分について、事業年度内に発生した変動を詳細に示したものです。
例えば企業は、新株を発行して資金を調達したり、配当金を支払ったり、事業から新たに儲け(剰余金)を獲得したりします。そうすると仕訳だけでは純資産の動きは少し分かりにくいのですが、その残高が表になることで分かりやすく理解できるようになるわけです。
●個別注記表等
個別注記表等には、資産の評価基準や固定資産の減価償却の方法など、企業の重要な会計方針が書かれています。
さらに、事業年度内の会計方針の変更や、過去の誤謬の修正など、前事業年度からの変更点も併せて記載されています。この箇所を読むことで、貸借対照表や損益計算書作成の前提を理解することができます。
1-2. 月次決算は、企業が自主的に行う
1-2. 月次決算は、企業が自主的に行う
ここまで説明してきたように、多くの情報を有する決算書は金融商品取引法や会社法等によって作成が義務付けられています。
この決算書の作成は、主として「年次決算」を通して行われ、1年間の経理業務の集大成ともいえる作業になっています。その作業期間は経理の担当者にとって最繁忙期であり、“締め切りに追われて最も神経をすり減らす時期”といえるでしょう。
一方で「月次決算」とは、年次決算のように法律で定められているものではなく、企業が自主的に行う作業です。年次決算で決算書を作成するだけでも多忙だというのに、加えて「月次決算」まで行うと、さらに忙しくなってしまうはずです。
では、なぜ「月次決算」を行うのかといえば、そこには月次決算ならではの目的やメリットが存在するからです。
月次決算をする目的やメリット
月次決算を行う目的や、そこから得られるメリットは、大きく2つあります。それぞれ説明していきましょう。
メリット(1)年次決算の事前準備になる
メリット(1)年次決算の事前準備になる
まず挙げられるのが「年次決算の事前準備」という、財務会計観点からの目的です。
月次決算では、1か月間の取引の「仕訳」と「証憑」を丁寧に確認するという作業を行います。そして、その作業の過程で、誤った仕訳や抜けている証憑を発見した場合は、それらを修正・補充していきます。
この仕訳や証憑の確認作業を、12か月分まとめて年度決算で行おうとすると、短い期間に相当な負荷が集中してしまうことは容易に想像できます。仮に誤りが見つかった場合には、時間がだいぶ経過してしまっている過去の取引を訴求して調べなければならないため、その原因を探るのも一苦労です。
さらに、単純なミスではなくじっくりと腰を据えて考えなければならない会計上の論点が発見されたとしましょう。例えば、「引当金の見積」だとか「減損損失を認識するべきかどうか」といった問題です。
こういった論点は、関係する事実関係を調べて、時には公認会計士などの専門家も交えて検討する必要があるため、月次決算の段階で顕在化させて早期に検討を開始するに越したことはないのです。
このように、月次決算は「年次決算を前倒しで行う」といった性格を持ち、結果として年次決算の短縮化や省力化にもつながるのです。
メリット(2)経営層にとっての重要な判断材料を提供する
メリット(2)経営層にとっての重要な判断材料を提供する
もう1つは、会社の経営層に向けて、企業の財政状態・経営成績に関するリアルタイムな情報を届けるという、管理会計の観点からの目的です。
決算書からは、企業が現在どういった状況にあるか、どのような運用実績をあげているか、といった多くの情報を得ることができます。これは、年次決算でも月次決算でも同じです。
例えば、月次決算を通して、簡便な貸借対照表・損益計算書等をつくることで、下記のような情報を月ごとに届けることができます。
・企業のリアルタイムの業績
・当初計画していた予算と実績との差異
・手元資金の残り具合
・今後の資金の推移
これによって、経営層は常に「新鮮な情報」に基づいて、年初に立てた事業計画がどのように進捗しているのかを把握することができます。そして、計画との差異が広がるなどの問題が見つかれば、事前にその対処を行うことができるのです。
月次決算における経理業務の流れ
月次決算における経理業務の流れ
それでは、具体的にどういった流れで月次決算業務が進んでいくのか、確認してみましょう。
(1)決算整理作業を行う
(1)決算整理作業を行う
まずは、通常の年次決算と同様に、決算整理作業を行います。ただし、月次決算の場合は下記のように重要な作業のみを抜き出して行います。
●現金・預金の残高確認
現金については、金庫にあるお金を直接数えて帳簿と差異がないか確認をします。預金については、銀行に記帳に行って帳簿との照合を行います。
●月次棚卸作業
月次の棚卸し作業で、棚卸資産や在庫の金額を確定させます。ただし、「実地棚卸」を省略することもできます。
●仮勘定の整理
仮受金や仮払金等が残高として残っていないかを確認します。残っていた場合には、本来振り返るべき勘定に振替を行います。
●経過勘定等の計上
「前払費用」「前受収益」「未払費用」「未収収益」などの経過勘定を計上します。なお、この作業の対象は、土地の賃貸料やシステム利用料などであり、毎月決まった取引となります。そのため、あらかじめ一覧表をつくって計上の抜け・漏れがないかをチェックすると安心でしょう。
●減価償却費の計上
固定資産を保有している場合は、月単位で減価償却費を計上します。固定資産は取得の度に計上しますが、この月次決算のタイミングで固定資産の取得・除却・売却などの漏れがないかを改めて確認し、漏れていた場合には月内に修正を行います。
●その他、引当金等の計上
別途引当金等を計上しなければならない場合には、その必要性を検討したうえで計上します。
以上のような月次決算の決算整理作業において、重要なのは試算表(合計残高試算表等)を作成し、それを丁寧に確認することです。不確かな残高が残っていないか、説明のつかない大きな数字の動きが発生していないか、といった視点で1つ1つの勘定を分析していきます。
その過程で誤った処理が見つかれば、適宜修正を行って再び修正後の試算表を作成します。そこで残高が正しく表示されていることを確認し、月次決算書の作成に移っていくのです。
(2)月次決算書を作成する
(2)月次決算書を作成する
決算整理が終われば、それを報告するための月次決算書を作成します。月次決算書に決まった形式はありませんが、概ね以下のような報告書を作成することが多いでしょう。
- 貸借対照表
- 損益計算書
- 資金繰り表
- 予算実績対比表
- 売掛金残高一覧表
- 買掛金残高一覧表
- 売上高一覧表
- 借入金一覧表
ここで重要な視点は「経営層がどのような書類を必要としているか」です。企業の事業内容や経営層の着眼点によって作成する資料は異なってきますので、経営層の要望に応じて柔軟に作成する資料を増減していっても良いでしょう。
(3)月次決算書の報告をする
(3)月次決算書の報告をする
月次決算書の作成が完了したら、経営陣に報告を行います。ここで重要なのは、「迅速性」です。経営陣が月次決算の報告を受けて、次の月に向けて対処をしていくためにも、遅くともその月の中旬までに報告を終えておく必要があるでしょう。
理想的には、第3~第5営業日までに経理伝票の入力を終え、第7営業日までに決算整理仕訳を完了させます。そして、第8~10営業日前後に月次決算書の報告を行う、といったタイムラインが望ましいといえます。
月次決算を行う上での注意点とは
月次決算を行う上での注意点とは
ここまで月次決算の流れを説明して来ましたが、次に月次決算を行う上での注意点を簡単に解説します。注意点としては、大きく次の2つがあります。
・「年次決算の準備」という観点から、正確な処理が求められる
・「経営の判断材料を提供する」という観点から、スピード感をもって実施する必要がある
しかし、実際に経理業務の現場では、これらの両立は簡単ではありません。
まず、月末にまとめてやってくる請求書等の証憑の確認作業や、それに基づく仕訳の計上といったルーティンワークが存在します。そして、それらのルーティンワークを滞りなく完了した後に、初めて月次決算の作業に入ることができるわけです。
具体的な作業でいえば、まず試算表をつくり、仕訳の誤りがないか確認・分析をする作業に入り、そのうえで決算整理や、月次決算書の作成を行うのです。
これらの一連の作業を、正確性を担保しながらスピード感をもって進めなければならない、というのが大きな注意点になります。
月次決算を速やかに進めるポイント
それでは、スピード感をもって月次決算を進めていくためのポイントについて、3点ほど挙げて解説していきましょう。
ポイント(1)各部門に締切日を周知徹底する
ポイント(1)各部門に締切日を周知徹底する
月末に集中してやってくる証憑類について、それらを提出してくる各部門に締切日を周知徹底させ、証憑収集の遅れをなくしていくことは重要です。
現金の入出金を伴う証憑類と、それ以外の証憑類といったように、「内容によって締切日を変えることで、作業が月末月初に集中しないようにする」といった工夫を考えてみても良いかもしれません。
ポイント(2)ルーティンワークはマニュアル化する
ポイント(2)ルーティンワークはマニュアル化する
機械的に行うことができるルーティンワークについては、あらかじめ作業をマニュアル化したうえで可能な限り前倒しで進めておくことがポイントです。
例えば、経過勘定の計上など、毎月行う仕訳で計上する金額が分かっているものについては、マニュアル化して先に仕訳をきっておいても良いかもしれません。
また、毎月同じフォーマットで作成する月次決算書についても、「試算表の分析を通じて、数字が動かないと確定した勘定から適宜記入していく」などをマニュアルに記載し、少しでも前倒しで作業を行っていくことが重要です。
ポイント(3)アウトソーシングを活用する
ポイント(3)アウトソーシングを活用する
周知徹底やマニュアル化をしても、月次決算の迅速性が損なわれることがあるかもしれません。
それは、人員不足や業務処理量の多さなどが原因になっていることが多いはずです。そういった場合には、「証憑の確認」「仕訳の計上」「月次決算書の作成」などの業務をアウトソーシングするということも検討すると良いでしょう。
企業内の人間でなくても時間を掛ければ対応できるような“ノンコア”業務については、専門のプロフェッショナルに任せる、という方法をとるわけです。
そうすることで、事業への理解や経理の専門性が問われる「試算表の分析」や「月次決算書の確認」「月次決算書の報告」などの“コア業務”について、自分たちで時間を費やし集中して取り組むことができるはずです。
経理のアウトソーシングならパーソルビジネスプロセスデザインへ
月次決算の処理業務はミスが許されないうえにスピードが求められるため、経理担当者にとって大きな負担となります。そこで、業務効率化を図るためにアウトソーシングを活用すると、業務品質を維持しながら経理担当者の作業時間を削減することができます。
私たちパーソルビジネスプロセスデザインでは、経理業務のアウトソーシングをご提供しています。請求書をはじめとした証憑のシステム入力、仕訳処理、消込など幅広い業務をご依頼いただける点が特徴です。
経理業務で何かお困りのことがございましたら、ぜひお気軽にお問い合わせくださいませ。