DXとは?
まずは、『DX』について説明していきましょう。総務省ではDXを以下のように定義しています。
“企業が外部エコシステム(顧客、市場)の劇的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネスモデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること”
簡単にまとめると、「従来のビジネスの在り方を見直してデジタルテクノロジーを導入することで、より生産性の高い業務プロセスや、より質の高い顧客体験を提供すること」だといえるでしょう。
保険の業務においてDXが必要になった背景
現在の保険業界は、多様な商品やサービスを提供し、広範囲にわたる手続きが必要になっています。しかしながら、これらの手続きは従来の“手作業に頼ったプロセス”で行われるため、膨大な時間とコストがかかり、効率も悪く、不正や人的ミスのリスクも高い状況にあります。
こうした背景から、保険業界での業務においてDXが必要になっています。保険業界がDX化を推進することによって、顧客情報を活用して業務プロセスの自動化や効率化を進め、顧客とのコミュニケーションの強化も可能となるのです。
一方で、DX化を推進しない場合は、競合他社との差別化が困難となり、ビジネスの継続にも影響を及ぼす可能性があります。また、新しいテクノロジーに対応しないことで、保険業務の遅れや品質低下、コストの増加など、業務上での問題が発生してしまう恐れもあります。
そのため、保険業界においてDX化を進めることは、業界全体の競争力を維持するためにも必要不可欠となるでしょう。
保険業界においてDXを推進する際の3つのポイント
保険業界においてDXを推進するにあたり、成功の鍵となるポイントとして以下の3つが挙げられます。
・顧客思考のサービスを提供する
・データを活用し、顧客ニーズを把握する
・システムの整理
それぞれのポイントについて詳しく見ていきましょう。
ポイント(1)顧客思考のサービスを提供する
ポイント(1)顧客思考のサービスを提供する
「顧客思考のサービスを提供する」とは、つまり顧客目線に立つことです。
保険業界は、契約継続率が高く「一度契約した顧客が継続して保険を利用することが多い」という特徴があります。そのため、顧客にとって使いやすく、分かりやすいサービスを提供することが重要になります。
例えば、保険金請求の際に顧客の証明書や書類の提出をスマートフォンで行えるアプリを提供することで、「手続きの簡素化」と「スピードアップ」を実現することができるでしょう。
その結果として、顧客にとってストレスの少ないサービスを提供することができ、顧客満足度の向上や競争力の強化につながります。
ポイント(2)データを活用し、顧客ニーズを把握する
ポイント(2)データを活用し、顧客ニーズを把握する
顧客にとって使いやすく、分かりやすいサービスを提供するためには、データを活用し、顧客ニーズを把握することが重要です。
保険業界は、保険商品の種類が豊富であり、契約者の属性や健康状態など多様なデータを保有しています。これらのデータを活用することで、保険商品の提供や保険金の支払いなどの業務プロセスを効率化することができます。
また、ビッグデータや人工知能を活用することで、顧客の行動や嗜好に関する深層分析も行うことができます。これにより、顧客の将来のニーズを予測し、それに応じた保険商品の提供やマーケティング活動を行うこともできるようになるのです。
ポイント(3)システムの整理
ポイント(3)システムの整理
保険業務において使用される「システム」を整理して最適化することで、顧客ニーズを把握するために必要なデータを効率的に取得できるようになります。
保険業務には、契約管理や保険金請求など多数の業務が存在し、それぞれに専用のシステムが必要です。しかし、各システムが個別に運用され、データの重複や不整合が生じている場合があります。そのため、システムの整理が必要となるのです。
システムを整理することによって、必要なデータを過不足なく収集・分析できるようになり、業務プロセスの効率化や顧客サービスの向上を図ることができるでしょう。
保険においてDXを推進するための3つの課題
保険においてDXを推進するための3つの課題
ここまで説明してきたように、保険業界においてDXを推進することは非常に効果的ですが、そのためには重要な課題が3つ存在します。
- レガシーシステムの問題
- セキュリティ対策
- データの活用
これら3つの課題について、詳しく見ていきましょう。
課題(1)レガシーシステムの問題
課題(1)レガシーシステムの問題
「レガシーシステム」という言葉は、古い技術やシステムのことを指します。このレガシーシステムは、多方面で問題視されていますが、その理由は新しいデジタル技術に対応していないためです。
ほとんどの保険業界のシステムはレガシーシステムであり、保険商品の販売から契約管理、保険金請求まで多岐にわたる業務において使用されています。
このレガシーシステムを使用し続ける場合、メインシステムの保守期限切れに伴うセキュリティリスクが生じる可能性があることや、新しい技術を取り入れられないことによる顧客サービスの低下といったリスクがあるでしょう。
そのため、既存システムを改修して新しいデジタル技術を取り入れる、などの対応が必要となってきます。
課題(2)セキュリティ対策
課題(2)セキュリティ対策
保険業務には、顧客の個人情報や医療情報などの機密性の高い情報が多く含まれているため、「データ漏洩や不正アクセスのリスクをいかに減らすか」が課題となります。
一般的にDXを推進する際には、クラウドサービスなどを利用することが多いでしょう。しかし、クラウドサービスを利用する際には、どうしてもセキュリティのリスクが存在するものです。
そのため、個人情報などを扱う業務に関しては、クラウドサービスではなく自社内に設置する「オンプレミス」のシステムを導入するか、重要なデータのみ自社内に置く「ハイブリッドクラウド」の環境を検討することが求められます。
また、セキュリティに対する取り組みとして、クラウドサービス側が提供しているセキュリティ機能を適切に利用することや、社員への教育による“意識向上”も重要になってくるでしょう。
課題(3)データの活用
課題(3)データの活用
データが十分に活用されていないことも課題として挙げられます。その原因として、データが散在しているために統合された状態で活用するのが難しいことが挙げられます。
また、そもそもデータの質が低い場合もあり、そうなると正確な分析ができません。そのため、商品開発やサービス改善などに必要なデータを収集することができず、市場競争力が低下してしまうリスクもあるでしょう。
このような問題を解消するためには、データの統合やデータ品質の向上を行うことが必要です。そして、データの活用においては倫理的な問題もあるため、適切なルールやガバナンスの確立も必要となるでしょう。
保険業務をDX化するメリット
保険業務をDX化することには、様々なメリットがあります。ここでは3つを挙げて解説していきましょう。
メリット(1)顧客体験の向上
メリット(1)顧客体験の向上
保険業務をDX化することで、顧客が保険商品を利用する際によりスムーズな手続きやサービスを提供できるようになります。そうすると顧客満足度は向上し、リピート率が上がったり、口コミによって新規顧客の獲得率が向上したりというメリットもあるでしょう。
また、保険商品の購入からアフターサービスまで一貫した流れを提供することで、顧客にとってストレスのないサービスを提供できるようになります。そのため、顧客のストレスや不満が減少し、顧客と良好な関係を築くことができるようになります。
メリット(2)コスト削減
メリット(2)コスト削減
保険会社が保有する大量の書類を電子化することで、書類の保管や管理に掛かるコストを削減できます。また、オンライン化により営業員や事務員の手続きにかかる時間や手間も削減でき、業務の効率化が期待できるでしょう。他にも、保険金の支払いや請求処理もオンラインで行うことで、業務の効率化とコスト削減が可能になります。
そのため、保険会社はコスト削減を実現し、より低価格で顧客にサービスを提供したり、より良いサービスを開発するための予算を確保したりすることができます。
メリット(3)人手不足の解消
メリット(3)人手不足の解消
保険業界において、新契約や保険金請求処理などの業務は「人手不足」が深刻な問題となっています。しかし、保険業務のDX化によって、これらの業務は自動化することができるようになります。
例えば、契約や請求処理はオンライン上で顧客自身が行うことができるため、保険会社の従業員が行う必要はありません。また、保険金の支払いにおける査定工程も自動化することで、人的ミスによる誤払いも防止できるでしょう。
このように、自動化によって保険会社の従業員の業務負荷は減少し、より高度な業務に集中することができますし、人手不足を解消することもできるでしょう。
保険業務をDX化するデメリット
一方で、保険業務をDX化することには、いくつかのデメリットもあります。同様に3つを挙げて解説しましょう。
デメリット(1)技術的な問題
デメリット(1)技術的な問題
保険会社が保有する膨大なデータを活用するためには、AIやビッグデータ分析などの高度な技術が必要となります。これらの技術を保有していない保険会社にとっては、技術的な面が課題となります。
システムベンダーに外注したとしても表面上はDX化できますが、ベンダー依存になってしまうと新たにDX化を行う際に「社内にノウハウが残らない」ことや「コストが増大してしまう」といった可能性もあるでしょう。
これらの問題に対しては、DX化の案件に自社の社員をアサインしてノウハウを蓄積することや、技術力のある人を採用するなどの対策が有効です。
デメリット(2)デジタル格差の深化
デメリット(2)デジタル格差の深化
高齢者層に向けた保険商品やサービスも提供しているため、一部の顧客がDX化についていけない可能性があります。特に、コンピュータやスマートフォンなどのIT機器に慣れていない高齢者層にとっては、オンラインでの契約や請求処理はハードルが高いかもしれません。
また、都市部と地方部でのデジタル格差も考慮する必要があります。都市部では光回線などのインフラが整備されているために高速インターネット環境が整っていますが、地方部では回線速度が遅いことがあるため、オンラインでの保険手続きがスムーズに進まないことがあります。
そのため、従来からの「紙で郵送する手段」なども残しながら、柔軟に対応することが求められるでしょう。
デメリット(3)機械的な対応による顧客からの不満
デメリット(3)機械的な対応による顧客からの不満
DX化による機械的な対応によって顧客から不満が生じる可能性があるでしょう。
例えば、保険会社のウェブサイト上での問い合わせに対して、自動応答システムが返答する場合、顧客の問い合わせ内容に対して、適切な回答が得られない可能性があるため、顧客が不満を抱くことがあります。
また、保険金支払いに関する自動査定システムが導入されている場合、顧客が正当な保険金請求をしているにもかかわらず、機械的な判断によって支払いが認められないことがあるかもしれません。
これらの問題を解決するためには、自動応答システムや自動査定システムの精度を向上させるための技術開発が必須となります。また、顧客に対して丁寧な説明を行うことや、コミュニケーションも重視することで、顧客の不安や不満を解消することも重要です。
保険に関するDX推進事例
保険に関するDX推進事例
ここからは、保険業界におけるDX推進事例を紹介していきましょう。
事例(1)明治安田生命:コールバック予約で待機時間を短縮
明治安田生命では、ウェブサイト上で訪問や店舗来店の予約ができるだけでなく、コールバック予約にも対応していることが特徴的です。
直接コールセンターに電話をかけると待機時間が発生する可能性があるため、顧客の負担やストレスを軽減するためにコールバックに対応しています。
また、チャットでの相談にも対応しており、チャットボットや有人チャットでの返信が可能です。チャットなら保険に関する悩みや質問が手軽に解決できるため、相談の予約へとつなげることができます。
これらのチャネルを組み合わせることで、顧客のニーズに応えながら満足度を向上させることができる、複合的なDX事例といえます。
※参考:明治安田生命「相談予約」
事例(2)保険クリニック:保険証券の撮影により最短30秒で加入保険を確認可能
保険クリニックは、スマートフォンで保険証券を撮影するだけで、最短30秒で「加入している保険の保障内容」が一目で確認できる『お手軽web保険診断』を提供しています。
現在の保険のカバー範囲が一目でわかることにより、自分がどのようなリスクに対してどの程度の保障があるかを知ることができます。
このサービスを利用することで、顧客は誰でも簡単に自分の保険内容を確認することができるため、顧客満足度が向上することが期待できるでしょう。
事例(3)楽天生命保険:かんたん予約で顧客の手間を軽減
楽天生命保険は、独自の「かんたん予約」サービスを提供しています。このサービスでは、フォーマットに従って情報を入力し送信するだけで、厳選した代理店を紹介してもらえます。そのため、顧客は近くの代理店を探す手間を省くことができ、予約のハードルが下がります。
また、顧客が代理店を検索する場合は、都道府県から検索することができます。居住する都道府県の代理店情報が細かく表示され、口コミやスタッフのプロフィールを確認してから予約を検討することが可能です。
保険の予約に関する顧客のニーズは多岐にわたりますが、楽天生命保険は、顧客ができる限り手間を省き、納得のいく代理店に相談できるようにしています。そうして、顧客ニーズに合わせた工夫を取り入れDXを進めている事例といえるでしょう。
※参考:楽天生命保険「かんたん予約」
保険代理店業務のアウトソーシングならパーソルビジネスプロセスデザインへ
商品やサービスが多様化し、手続きが煩雑化しているなかで、保険の業務ではDX化が重要になってきています。ただ、技術的な問題やリソースの観点からDX化に踏み切れない企業も多いことでしょう。
私たちパーソルビジネスプロセスデザインでは、保険代理店業務のアウトソーシングサービスを展開しています。これまで保険会社の代理店営業担当者様が行っていた、代理店の支援や問い合わせ対応、事務対応を代行させていただきます。
具体的には、「新契約」「保全」「保険金」「代理店明細」「役所照会」など、保険会社のバックオフィス業務をお引き受けするだけでなく、パーソルグループならではの豊富な人材供給力で、“代理店営業経験者”などの人材がサービスをご提供しています。
サービスの種類としても、「リモートソリシターサービス」「代理店点検サービス」「代理店資材発送サービス」「ヘルプデスクサービス」など、お客様のニーズに合わせた多様なサービスをご用意しています。
保険代理店業務についてお困りのことがありましたら、ぜひお気軽にご相談くださいませ。