ICT教育とは?
ICT教育とは?
デジタル化された情報をインターネットなどの通信を介して伝達する技術の総称を「ICT(Information and Communication Technology)」と呼びます。そして、このICTを活用して行われる教育を「ICT教育」といいます。
具体的には、スマートフォン/タブレット端末、PC、教育ソフト、オンラインプラットフォームなどのデジタル技術を用いて、教育活動を行うことを意味します。
ICT教育が推進される背景には、情報化社会におけるデジタル技術の必要性が高まっていること、教育格差を解消することなどが挙げられます。例えば、コロナ禍において学校閉鎖で教育の機会が制限された際にはオンライン教育が普及し、ICT教育の必要性を一層強調する結果となりました。
また、労働市場の変化も大きく関係します。AI、ビッグデータ、IoTなど新たな技術の登場により、デジタルスキルを持つ人材を求める企業は増加傾向です。加えて、情報リテラシーや問題解決能力、協調性・創造性など『21世紀型スキル』と呼ばれる能力も求められており、これらを育成することができるICT教育がより重要視されています。
ICT教育のメリット
ICT教育のメリット
ICT教育に取り組むメリットは、主に以下の4つです。
- 教育の質の向上
- 学習機会の提供(教育の公平性を担保)
- 教職員の負担軽減
- 21世紀型スキルの育成
一つずつ解説します。
ICT教育のメリット(1)教育の質の向上
ICT教育のメリット(1)教育の質の向上
1つ目は、教育の質の向上です。
デジタル教材を用いることで従来、表現できなかった視覚的・体験的な学びを実現できるようになります。例えば「教員が電子黒板上で板書した文字が生徒の端末に表示される」、「理科の実験でシミュレーション動画を用いて結果を考察する」など双方向のやり取りが容易にでき、理解度や学習意欲を向上させることができます。
また、学習管理システム(LMS)により生徒一人ひとりの進捗状況や理解度を把握し、個別のフィードバックを行うことで、自身のペースに合う効果的な学習を進めることができます。加えて、ICTはテストだけでなくプロジェクトベースの評価やポートフォリオ評価など、多様な方法で学習成果を評価できることからも教育の質の向上が期待できます。
ICT教育のメリット(2)学習機会の拡大
ICT教育のメリット(2)学習機会の拡大
2つ目のメリットは学習機会の拡大です。
オンライン授業やデジタル教材を活用することで、地理的な制約を超えて遠隔地に住む学習者も質の高い教育を受けることが可能になります。これにより、都市部と地方の教育格差解消が期待されるだけでなく、オンラインプラットフォームなどを通じて世界中の教育資源にアクセスでき、グローバルな視点や知識・情報を学ぶことができます。
このようにICT教育は、時間・場所に制約されることなく、自身の都合に合わせて学習計画を立てることができるため学習の機会が広がるでしょう。
ICT教育のメリット(3)教職員の負担軽減
ICT教育のメリット(3)教職員の負担軽減
ICT教育には教職員の業務負担を軽減する効果もあります。
教員の業務は多岐に渡るため、朝、放課後、休日を活用することも少なくありません。そのためICT・校務ツールを使用し教材を作成することで、作成時間の短縮だけでなく、教員間での共同利用が可能となります。
また、学習管理システム(LMS)を利用することで、テスト結果の自動採点、授業の進捗状況の可視化など授業運営にかかる時間を削減し、より効果的な指導に集中できます。
ICT教育のメリット(4)21世紀型スキルの育成
ICT教育のメリット(4)21世紀型スキルの育成
21世紀型スキルとは、「情報創造力」「批判的思考力」「問題解決力」「コミュニケーション力」「プロジェクト力」「ICT活用力」などを指し、現代の情報化社会において必要性が高まっています。
※参考:文部科学省「学校教育の情報化に関する懇談会(第7回) 資料1」
ICT教育では、基本的なITスキル・知識の学習だけでなく、インターネット上から情報を収集し、評価・選択し、活用する能力を養うことが可能です。また、取捨選択した情報をお互いが連携しながら課題解決を追求することで「協働する力」の育成にもつながります。
ICTツールを使用することで、動画制作やプログラミング教育など自分のアイデアを形にする機会が増え、創造力・問題解決能力の育成にもつながるでしょう。
ICT教育のデメリット
ICT教育のデメリット
多くのメリットが享受できるICT教育にも以下のようなデメリットがあります。
- デジタルデバイドの問題
- 過度な依存の危険性
- 導入・運用コストがかかる
- プライバシー・セキュリティへの懸念
一つずつ解説します。
ICT教育のデメリット(1)デジタルデバイドの問題
ICT教育のデメリット(1)デジタルデバイドの問題
1つ目は、デジタルデバイドの問題です。デジタルデバイドとは、デジタル教材の利用可否や、ネットワーク環境、デジタルスキルなどで生じる格差を指します。
文部科学省が推進する「GIGAスクール構想」の取り組みで、全国の自治体へ学習者用端末の整備が進められほぼ全ての自治体への整備が完了しています。また、学校の内の通信環境の整備状況も令和4年9月1日時点でほぼ100%まで進んでいます。
そのため、校内におけるデジタルデバイドは解消されつつありますが、経済的な要因でインターネット環境が整っていない家庭も少なくない現状です。総務省のデータによると令和4年時点で、年収400万円以上では、約9割の世帯でインターネットを利用している一方で、年収400万円未満の世帯では、8割を切っている状況です。徐々に利用率は高まっているものの個人間のデジタルデバイドは、ICT教育に取り組む上で課題となるでしょう。
※参考:総務省「令和5年 情報通信に関する現状報告の概要 第2部」
※参考:文部科学省「令和4年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果(概要)」
ICT教育のデメリット(2)過度な依存の危険性
ICT教育のデメリット(2)過度な依存の危険性
ICT教育により多角的な学習が可能となる一方で、過度な依存の危険性もあります。
まず、デジタル教材、電子端末の利用時間増加による健康被害が懸念されます。特に成長期の生徒にとって、視力低下や姿勢の悪化、睡眠障害などを引き起こすリスクがあるということを理解しておくことが重要です。文部科学省のガイドブックに記載の留意事項を改めて確認しておきましょう。
※参考:文部科学省「児童生徒の健康に留意してICTを活用するためのガイドブック」
また、オンライン授業の増加による、直接的なコミュニケーションやグループワークの機会が減少し、人間関係の希薄化、社会性の発達への影響も懸念されます。さらに、情報過多による混乱も考えられます。インターネット上には誤った情報や不確かな情報も多く存在するため、子どもたちが適切に情報を選択・判断する能力を養うことが重要です。
ICT教育のデメリット(3)導入・運用コストがかかる
ICT教育のデメリット(3)導入・運用コストがかかる
ICT教育の導入にかかる初期費用や維持費もデメリットに挙げられます。
パソコンやタブレット、インターネット環境、教育用ソフトウェアなどのハードウェアとソフトウェアを購入・整備するだけでなく、維持・管理にもコストが発生します。デジタル教材の故障などで、授業の進行を妨げることがないよう定期的なメンテナンスが必要となるでしょう。
また、ICT教育の効果を最大化するためには、教員のICTリテラシー向上が不可欠となります。そのため、教員への定期的な研修やサポート体制の整備など運用コストがかかる点もデメリットとなります。
ICT教育のデメリット(4)プライバシー・セキュリティへの懸念
ICT教育のデメリット(4)プライバシー・セキュリティへの懸念
ICT教育が普及することで、不正アクセスによる情報漏洩などのリスクが高まります。そのため、プライバシーとセキュリティへの対策が求められます。
サイバー攻撃や情報データの漏洩問題が増加する現代において、オンライン授業やデジタル教材を利用する際に収集される個人情報や学習データを適切に管理し、必要に応じたセキュリティソフトの導入が必要となるでしょう。
ICT教育を効果的に導入するポイント
ICT教育を効果的に導入するポイント
ICT教育を効果的に導入し、メリットを最大限に引き出すために重要となる3つの項目について解説します。
ポイント(1)適切なインフラ整備
ポイント(1)適切なインフラ整備
ICT教育を導入するにあたり、インフラ整備は必須です。具体的には、高速で安定したインターネット回線、充実したデジタル教材および教育ソフトウェアやオンラインプラットフォームの導入が該当します。
特に重要なのは、「情報漏洩」と「集中アクセス」への対応です。インターネット接続が可能なデジタル教材が増えるほど、不正アクセスによるセキュリティの脅威やアクセスの集中によるサーバーダウンのリスクも大きくなります。インフラ整備を強化することで、このようなリスクを排除し効果的なICT教育に取り組むことができます。
ポイント(2)教職員の育成とサポート体制
ポイント(2)教職員の育成とサポート体制
ICT教育の効果を高めるためには、教職員のICTスキル向上とサポート体制が不可欠となります。指導教員のITリテラシーが低く、デジタル教材をうまく活用できないと授業の質の低下し教育格差が生じかねません。
令和4年、パーソルビジネスプロセスデザインが全国の公立小学校とのその保護者を対象に実施したアンケート調査において、9割以上の教員が教育現場への技術的な支援を必要としていることが明らかになりました。
このことからもICT教育を効果的に導入するためには、定期的な研修・講座の受講、教員同士の情報共有や協力体制の構築によりノウハウをストックしていくこと、ICT教育に精通したICT支援員の導入など具体的な支援が必要でしょう。
※参考:パーソルビジネスプロセスデザイン「小学校のICT教育に関する実態・意識調査」
ポイント(3)保護者や地域社会との協力
ポイント(3)保護者や地域社会との協力
学校の授業だけでなく、保護者や地域社会からの協力を得ることが、ICT教育を導入する上で必要です。
パーソルビジネスプロセスデザインが実施したアンケートでは、各家庭におけるICT教育の必要性について、約9割の保護者が「必要である」と回答していますが、積極的にサポートできている保護者は1割にも満たない結果でした。
各家庭内でのサポートができるよう「保護者向けの説明会やワークショップを開催し、ICT教育の目的や方法を説明する」、「家庭学習においてもICTツールを活用するため、教材の貸与や使用方法のレクチャーを行う」などできる限りの支援が必要となるでしょう。
さらに、地域のNPO団体と協力し、教育リソースの共有や共同プロジェクトを実施することで、地域全体でICT教育を支える体制を築くことも重要です。例えば、地域の図書館やコミュニティセンターでICT教育に関するイベントを開催するなどの取り組みが考えられます。
※参考:パーソルビジネスプロセスデザイン「小学校のICT教育に関する実態・意識調査」
ICT教育の具体的な導入事例
ICT教育の具体的な導入事例
ICT教育の導入にあたり前項で解説したポイントを押さえることで、その効果を最大化させることができます。ICT教育に取り組んでいる事例を小学校・中学校・高等学校に分けそれぞれ紹介します。
ICT教育の事例(1)東京都葛飾区立本田小学校
ICT教育の事例(1)東京都葛飾区立本田小学校
葛飾区立本田小学校では、総合的な学習の時間の一環にICT教育を導入しています。地域の防災マップを作成するという課題に対して、タブレット端末を校外に持ち出し、目標物の撮影・記録に活用しました。写真として保存できるだけでなく、同時にメモによる記録ができます。
また、グループごとに収集したデータを協働学習アプリで共有、地域のマップを立体的に確認することで協同作業を効率化できました。協働学習アプリを使用しているため、他の生徒の進捗具合を意識して作業を行う協働する力を育成することができます。
ICT教育の事例(2)鹿児島県垂水市立垂水中央中学校
ICT教育の事例(2)鹿児島県垂水市立垂水中央中学校
垂水中央中学校は垂水市唯一の中学校として、「学習者主体の授業づくり」を目指しICT教育に取り組んでいます。
特別活動の時間では、デジタル教材にてアンケートを収集し、その場で結果を基にした議論を交わすなど、ICT教育をアナログとデジタルのベストミックスの視点で実践しています。
また、職員会議・研修、各種委員会で使用する資料のクラウド保存、チャット機能や共同編集機能を活用した意見交換・資料修正など校務改善にも取り組んでいます。加えて、校内だけでなく保護者を対象としたアンケート、生活の記録、生徒手帳、教科課程など、従来紙で印刷していたものをデジタル化することで、授業や校務の改善をさらに進めています。
※参考:文部科学省『StuDX Style 「ICTを活用した指導法の工夫」から、「学習者主体の授業づくり」へ』
ICT教育の事例(3)佐賀県立致遠館高等学校
ICT教育の事例(3)佐賀県立致遠館高等学校
致遠館高等学校では、多くの授業でホワイトボードソフトを活用した意見共有やブレーンストーミングによるアイデア創出、思考の整理を行っています。学生たちは課題に対する考えをホワイトボード上に自由に出し合うことで、手書きで行っていた活動時と比較して、効率化、コミュニケーションの活性化を実現しています。
また、理科の授業においては、授業動画を活用した反転学習を実施しています。事前に教員が収録したデータをクラウドで共有・配信、生徒は各自でその動画を視聴してから授業に臨みます。動画の内容について他者と協議を繰り返し、演習に取り組むことで思考活動や発展的な学習に重点を置いた授業を行っています。
※参考:文部科学省「StuDX Style 学校全体での取組と端末活用の日常化」
まとめ
まとめ
ここまで、ICT教育のメリット・デメリットについて解説しました。
現代の情報化社会においてICT教育への取り組みは必要性を増しているものの、デジタルデバイドやセキュリティへの懸念といったデメリットが少なからず存在します。そのため、適切な管理体制のもと、保護者や地域社会からの協力を得ながら取り組んでいくことが重要となるでしょう。
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