GIGAスクール構想とは?その目的から現状の問題点と解決策までを徹底解説!

GIGAスクール構想とは?その目的から現状の問題点と解決策までを徹底解説!

近年、「GIGAスクール構想」という言葉が、教育現場以外でも広く知れ渡るようになってきました。IT化の進化が著しい現代においては、学校という場でも大きな変革が求められています。

一方で、「GIGAスクール構想に基づいて教育現場のデジタル化は進んでいるものの、デジタルコンテンツの拡充や通信環境整備、教員のICT活用などの課題が山積み」という悩みを抱えている学校も少なくありません。

GIGAスクール構想を正しく推進していくには、実施の目的や全国の現状・課題を理解し、実現に向けて何をすべきかを知ることが重要です。

本記事では、GIGAスクール構想の目的や課題、現状について解説したあと、その実現に向けた取り組みについてご紹介します。文末には具体的な取り組み事例もご紹介していますので、ぜひ最後までお読みください。

目次

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    GIGAスクール構想とは?

    GIGAスクール構想とは、一言でいうと「学校のICT環境を整備・活用することによって、教育の質を高めようとする構想」のことです。GIGAとは「Global and Innovation Gateway for All」を略したものであり、「すべての児童や生徒にグローバルかつ革新的な扉を」との意味が込められています。

    GIGAスクール構想は、多様な子供たちを、誰1人取り残すことなく、資質・能力を確実に育成できる教育ICT環境の実現を目指すものです。2019年に文部科学省より提唱され、現在まで整備が進められてきています。

    1-1. GIGAスクール構想推進の背景

    GIGAスクール構想が推進される背景には、教育環境や教育内容の変化、また、それに伴う地域差があります。GIGAスクール構想では、Society5.0時代を生きる子どもたちに対し、個別最適化された創造性を育む学びの実現を目指しています。

    内閣府のホームページによると、Society5.0とは、「我が国が目指すべき未来社会の姿であり、狩猟社会(Society1.0)、農耕社会(Society2.0)、工業社会(Society3.0)、情報社会(Society4.0)に続く、「新たな社会」であり、「サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会」です。

    そのような社会を生きていくには、これまでの教育実践や基礎的学力に加え、最先端のICTによる情報活用能力や、技術革新・価値創造のベースとなる飛躍知の発見力・創造力も必要と考えられています。また、そうした力を児童生徒すべてが身につけられるよう、ICT活用のための教育環境整備も欠かせません。

    しかし、GIGAスクール構想が提唱された2019年3月当時は、教育用コンピュータ1台あたりに対する児童生徒数は平均5.4人と、「1人1台端末」には程遠い数字でした。また地域差も大きく、1台あたり1.9人という地域もあれば、1台あたり7.5人という地域もありました。こうした端末の不足は、小学校におけるプログラミング授業必修化を阻む大きな課題となっていたのです。

    加えて、日本の教育現場におけるICT活用は、世界から大幅に後れをとっています。新しい情報や技術が溢れ、目まぐるしく進化していく現代においては、従来の「知識詰め込み型教育」から、創造性・論理的思考を育む教育へと、求められる教育も変わってきました。

    このような複数の要素を背景に、GIGAスクール構想が推進されています。

    1-2. 当初5年計画で進められる予定だったが前倒しに

    内閣府のロードマップでは、当初、GIGAスクール構想は令和元年度から令和5年度まで5年をかけて進めていく予定でした。しかし、2020年の新型コロナウイルス拡大による全国的な臨時休校を受け、オンライン学習への需要は急速に高まります。

    2020年5月11日、文部科学省は、全国の教育委員会等を対象として「情報環境整備に関する説明会」をライブ配信にて開催、早急に学習用端末1人1台とネット環境の整備を図るよう強く要請しました。

    それを受けて端末・通信環境の整備が一気に進み、令和3年度に前倒しで本格的スタートを切ることとなったのです。

    対面での学習だけがすべてではないとの認知が高まっている今、「1人1台端末・高速通信環境の整備」が学びの変容をもたらすと期待されています。

    GIGAスクール構想の目的

    GIGAスクール構想は、主に以下5つの目的で実施されています。

    • 個別最適化学習の実現
    • 双方型授業の実現
    • 教職員の負担軽減
    • 生徒の主体的・対話的学習のサポート
    • プログラミング・IT知識の習得

    それぞれの詳細を見ていきましょう。

    目的(1)個別最適化学習の実現

    GIGAスクール構想の最たる目的は、目まぐるしく進化する現代において学習環境を整備し、生徒一人ひとりに最適化された教育を提供することです。

    これまで日本では長らく、クラスの全員に対して同一内容の授業がおこなわれてきました。

    その点、ICT教育の導入によって、生徒一人ひとりの学習の進捗状況や苦手な分野・内容を把握でき、各生徒の教育ニーズに応じた個別最適化学習が実現できます。

    なぜならICT教育では、デジタル教材や学習管理システムを活用することで生徒ごとの学習データを収集・分析できるためです。生徒の理解度に合わせた教材や課題を提供できるため、効果的な学習が可能となる点が大きな利点でしょう。

    目的(2)双方型授業の実現

    一斉学習において、これまでは教師が大型の掲示装置などを用いて説明することが一般的でした。しかし、そのやり方では、授業についていけていない子、興味を示さない子などを取りこぼしてしまうという問題がありました。

    その点、GIGAスクール構想では1人1台端末を用いて授業をおこなうため、教師は授業中であっても生徒一人ひとりの反応をつぶさに把握することが可能となります。また、その反応を踏まえた上で授業を進行できるため、双方型の授業ができるようになるのです。

    目的(3)教職員の負担軽減

    GIGAスクール構想は、個別最適化学習の実現や教育格差の是正だけでなく、教職員の負担軽減の面でも大きな役割を果たします。昨今進められている教員の働き方改革や業務効率化においても、GIGAスクール構想によるIT・ICTの利活用やデジタルデバイスの導入は、大きな変革をもたらしているのです。

    たとえば、これまで紙でおこなっていた連絡やアンケートをペーパーレス化・デジタル化することによって、コピー、配布や収集、アンケート集計、管理に至るまで、手間と時間を省き効率化を進められます。また、遠隔での授業も実現可能なため、移動などにかかる負担も軽減できるでしょう。

    ICTの活用は、宿題や定期テストにおいても、効率面で大いに役立ちます。最適なICTツールを活用すれば、宿題を自動作成したり、テストの採点を自動化することも叶うでしょう。宿題の提出状況を把握することも容易になります。

    さらには、授業をほかの教員と共有できることで、授業の質の底上げにもつながります。優れた教材や指導方法を共有し、互いに学び合うことで、教員全体のスキルアップが図れるのです。

    働き方改革と教育の質の向上を両立させるという点でも、GIGAスクール構想の意義は大きいといえるでしょう。

    目的(4)生徒の主体的・対話的学習のサポート

    GIGAスクール構想によるICT教育が進むことで、生徒の「主体的・対話的学習」にも期待できるでしょう。これまでは、授業内で意見を発表する生徒は限られており、能動的に学習に取り組めない子も少なからず見られました。

    その点、1人1台端末と高速ネットワーク環境が整っていれば、生徒が知識欲・好奇心を抱いたタイミングで、能動的かつスムーズに情報を取集し、学習へと入っていけます。また、生徒一人ひとりの考えをお互いリアルタイムに共有できることで、子供同士、双方向での意見交換も可能となるでしょう。

    それにより、今までは授業に消極的だった生徒も主体的・対話的に学習に参加できるようになることが期待されます。

    目的(5)プログラミング・IT知識の習得

    プログラミング・IT知識の習得も、GIGAスクール構想の重要な目的の1つです。

    デジタルシフトする社会に合わせ、小学校では2020年度から、中学校では2021年度からプログラミング教育が必修化されました。

    少子高齢化が進み、人材不足が叫ばれる日本社会では、プログラム・ITによって生産性を高める動きが今後ますます活発になることが予想されます。それに伴い、教育現場では、生徒たちのプログラミング・IT知識の習得が強く求められるようになっているのです。

    GIGAスクール構想では、1人1台端末を整備することによって、生徒たちが日常的にICT機器に触れる環境を整えます。これにより、プログラミングやIT知識の習得の促進に期待できるでしょう。

    子どもたちが早い段階から先端技術に触れる機会をつくることも、GIGAスクール構想の目的の1つです。

    文部科学省の掲げるGIGAスクール構想のロードマップ

    文部科学省は、GIGAスクール構想のロードマップを掲げています。ここでは、以下の3つについてご紹介します。

    • 教育DX化のミッションから見る教育データ蓄積・流通の未来イメージ
    • フェーズごとの取り組みと目指す姿
    • NEXTGIGAの取り組み

    教育DX化のミッションから見る教育データ蓄積・流通の未来イメージ フェーズごとの取り組みと目指す姿 NEXTGIGAの取り組み

    3-1. 教育DX化のミッションから見る教育データ蓄積・流通の未来イメージ

    デジタル庁、総務省、文部科学省、経済産業省では、教育DX化のミッションとして、「誰もが、いつでもどこからでも、誰とでも、自分らしく学べる社会」と掲げています。

    教育データ蓄積・流通の未来イメージは、「学習者、保護者、教員の立場」の3つの観点から提唱されています。

    学習者の立場からのイメージの一例として挙げられるのは、特性に合わせて自分らしい学び方を選べるようになることです。膨大な教育データから自身の関心に合うトピックを選定できることで、興味関心を伸ばしながら次々に学べる環境やワクワクを見つけられるようになります。

    また、一人ひとりに焦点を当て各自のペースで学習を進めていくため、いつでも先に行ける・前に戻れるようになり、辛い状況を理解して個(生徒)に応じた支援をすることも可能です。

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    保護者の立場からの教育データ利活用の将来イメージとしては、保護者は子供の学びや特性に応じた関わり方を学べるようになることが挙げられます。たとえば、子供の身体的・心理的発達段階がわかることで、保護者が子供の特性に合った教育・しつけをおこなえるようになるでしょう。

    また、保護者同士の教育データが蓄積され、生涯学習へと進むことで、保護者自身の教育力・理解力を高めることもできます。

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    教員の立場からの将来イメージの1つ目として挙げられるのは、学級状態が把握できることで、「ノーマーク」の児童生徒を早期発見し、担任以外も含めたチームでの支援が可能となることです。

    また、指導計画・授業準備においても、蓄積されたデータから教材を見つけることができ、施策の改善点を把握できるようになるため、教育の質を高めつつも教員の負担軽減に期待できるでしょう。

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    このように、教育データの利活用により、保護者と教員それぞれの立場から、子供たち一人ひとりに最適な教育環境の実現が期待されているのです。

    GIGAスクール構想では、こうしたデジタル化のミッション・ビジョンを達成するため、「データの、〈1〉スコープ(範囲)、〈2〉品質、〈3〉組み合わせを充実・拡大させる」という3つの軸を設定し、教育の質を向上させることを目指しています。

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    教育データ蓄積・流通の未来イメージとしては、「個別最適な学びと協働的な学び、創造性を育む教育、誰一人取り残されない」というGIGAスクール構想の戦略・政策のもと、自治体や学校、家庭、民間事業者・社会教育施設が、「児童生徒1人1台端末」「教職員端末・電子黒板等」「学校のネットワーク環境」「学校外のネットワーク環境」「家庭のネットワーク環境」といったインフラを整え、教育データを活用していくこととしています。

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    加えて、デジタル社会を見据えた教育では、先述したミッション・ビジョンのもと教育DX化を進め、2020年代を通じて実現すべき「令和の日本型学校教育」の姿を現実のものとし、人格の完成や心身ともに健康な国民の育成といった「教育の目指すべき姿」も実現しようとしています。

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    3-2. フェーズごとの取り組みと目指す姿

    文部科学省が掲げるGIGAスクール構想の実現に向けたロードマップでは、短期、中期、長期の3つのフェーズに分けて、それぞれの目指す姿を明確にしています。

    短期的には、デジタルを活用した学習環境の円滑な導入に向けて、事例蓄積や知見共有などを進めていきます。

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    しかし、阻害要因も少なくありません。たとえば、インフラ面での阻害要因としては、ネットワーク環境の整備や、ICT機器の不足などが挙げられます。これらの課題を解決し、すべての児童生徒がデジタル化の恩恵を受けられる環境を整えることが短期的な目標です。

    中期的には、デジタル教科書の本格的な導入や、教師の指導スキルの向上、個別最適化された学びの実現などを目指しています。先述のとおり、デジタル教科書の活用により、一人ひとりの理解度に合わせた学習が可能です。また、教師のICT活用指導力の向上により、効果的な指導法の確立が期待できるでしょう。

    長期的には、教育ビッグデータの利活用基盤を構築し、エビデンスに基づく教育政策の立案や、新しい評価方法の確立をすることも目標です。学習ログデータなどの教育ビッグデータを分析することで、個々の児童生徒の学習状況を可視化し、最適な学習方法を提示することが可能となります。

    また、従来の知識偏重型の評価から、資質・能力を多面的に評価する方法の確立にも期待できます。

    今後、育成を目指す資質や能力の明確化、指標化とあわせ、実証事業におけるユースケースを創出しながらこうした各種施策を進めていく予定です。

    その際に基準となる工程は、「教育データ利活用ロードマップ(P50~P52)」の工程表で解説されています。たとえば、調査等のオンライン化については、2021年度中に実証事業の実施をおこない、2022年度に現場の声を踏まえて機能改善をし、2025年度までに教育委員会による集約作業なしでデータの集約・分析ができる環境を整備していく予定です。

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    このように、教育データ利活用ロードマップに示された工程表では、調査等のオンライン化や教育データの標準化、学習eポータルの整備など、GIGAスクール構想の実現に向けたさまざまな施策が具体的なスケジュールと共に明示されています。

    文部科学省では、この工程表に沿って着実に取り組みを進め、デジタル化の力を教育の質の向上につなげていくことを目指しているようです。

    3-3. NEXT GIGAの取り組み

    文部科学省が掲げるGIGAスクール構想は、現在、第二段階である「NEXT GIGA」の取り組みを進めています。

    この「NEXT GIGA」は、”GIGA2.0””アフターGIGA”とも呼ばれ、GIGAスクール構想の第一段階で築かれた基盤を活かしつつ、教育現場におけるICT活用をさらに深化させる取り組みです。

    GIGAスクール構想の第一段階であるFIRST GIGAでは、児童生徒1人1台の端末支給や、通信ネットワーク環境の整備が進められてきました。しかし、文部科学省の「令和5年度 全国学力・学習状況調査の結果(P28)」によると、教員と児童生徒とのやり取りの中で、ほぼ毎日端末を利活用している小学生、中学生は依然として多くないことが明らかになりました。また、FIRST GIGAで支給された端末の更新時期が迫っているという課題も明らかになっています。

    NEXT GIGAでは、これらの課題に取り組むべく、端末の更新やネットワーク環境のさらなる整備を進めています。これにより、ICT教育の推進、校務のDX化、端末の日常的な活用を、より促進していくことを目指しているのです。

    GIGAスクール構想の現状

    GIGAスクール構想の現状を、以下5つの観点からご紹介します。

    • 学習者用端末の整備の現状
    • ICT支援員配置の現状
    • 校内通信ネットワーク供用の現状
    • SSO対応ソフトウェア導入の現状
    • 学習者用端末更新の補助金の現状

    それぞれ詳しく見ていきましょう。

    4-1. 学習者用端末の整備の現状

    文部科学省の資料によると、1人1台端末の整備状況は、令和4年度末時点でほぼ完了しています

    具体的には、全自治体等のうち1,810自治体等(99.9%)が令和4年度内に整備を完了し、残りの2自治体(0.1%)が未完了です。資料では、この2自治体(神奈川県の特別支援学校、長野県軽井沢町)も令和5年度内に整備完了予定とされています。

    また、別の資料によると、令和5年3月時点での教育用コンピュータ1台あたりの児童生徒数は0.9人であり、平均値は1.2台/人でした。このことは、児童生徒数に対して十分な数の教育用コンピュータが整備されていることを示しています。さらに、児童生徒数11,183,592人に対して教育用コンピュータ台数12,896,249台と、教育用コンピュータ台数が上回っていることも読み取れる状況です。

    このように、学習者用端末の整備状況については、ほぼ整っているといえます。

    4-2. ICT支援員配置の現状

    文部科学省の「令和2年度小・中・高等学校を通じた情報教育強化事業(情報教育指導充実事業)『ICT支援員の配置促進に関する調査研究』」によると、ICT支援員の配置状況は以下のとおりです。

    • 配置済都道府県割合:43%
    • 配置済市区町村等割合:43%

    ICT支援員の配置状況は、都道府県および市区町村等のいずれも43%に留まり、全体の半分も満たしていません。

    一方で、配置による効果を実感する自治体の割合については、「授業支援において教員の負担軽減効果を感じる」と答えた自治体が85%にのぼりました。このことは、ICT支援員の配置が教員の負担軽減に大いに役立っていることを示しています。

    したがって、ICT支援員の配置に関しては、今後も拡充の必要性があるといえるでしょう。

    4-3. 校内通信ネットワーク供用の現状

    文部科学省公表の、「校内通信ネットワーク環境整備等に関する調査結果(令和5年2月)」を参照すると、校内ネットワーク供用を開始した学校の割合は、令和3年5月末時点での6月末見込みでは98.0%だったのが、令和4年9月1日時点で99.9%とほぼ100%にまで増加しています。

    インターネット接続方式としては、自治体等数ベースおよび学校数ベース共に直接接続(固定回線)が最も多く、6割を超えました。次いで、集約回線やモバイル回線となっています。

    直接接続(固定回線)における通信最大速度(理論値)は、令和4年9月1日時点で1Gbps以上が過半数を占めており、中には10Gbps以上の速度を持つ学校もあります。前回調査(令和3年5月末時点)では1Gbps以上の割合が41.6%だったことから、年々増加しているようです。

    また、通信最大速度が「100Mbps以上」の割合は8割以上となっており、校内通信ネットワークの整備が進んでいることもうかがえるでしょう。

    このように、校内通信ネットワーク供用については、整備が整ってきていることがわかります。

    4-4. SSO対応ソフトウェア導入の現状

    SSOとは、ID・パスワードを一度入力するだけで、複数のサービスにログイン・利用できる仕組みです。

    SSOが導入されていることで、個別に複数回の認証を受ける必要がなくなり、まとめてログインできるようになります。これにより、アカウント管理の運用負担を減らせる上、セキュリティ維持もできるというメリットがあります。

    文部科学省の「校内通信ネットワーク環境整備等に関する調査結果」によると、SSO対応可能なソフトウェアやコンテンツを導入している自治体の割合は以下のとおりです(令和4年9月1日時点)。

    導入自治体割合

    ソフトウェア・コンテンツ 導入自治体割合
    学習支援ソフトウェア 73.4%
    AIドリル等反復・習得学習教材 54.2%
    学習資料・学習コンテンツ 40.7%
    情報教育関連ソフト 21.1%
    画像・映像編集ソフト 18.1%

    以上の結果から、学習支援ソフトウェアとAIドリル等反復・習得学習教材は導入している自治体が比較的多いものの、情報教育関連ソフトや画像・映像編集ソフトに関しては導入率がまだまだ低いことがうかがえます。

    4-5. 学習者用端末更新の補助金の現状

    1人1台端末の利活用が進むに伴い、故障端末の増加やバッテリー耐用年数の問題は避けて通れません。この問題に対応するため、文部科学省では、各都道府県に基金を造成し(5年間)、2643億円の予算額(案)はを設け、令和7年度までの更新分(約7割)に必要な経費を当面計上するとしました。

    現在、公立学校に対しては、「文部科学省から都道府県(基金)に基金造成経費を交付→都道府県(基金)から市町村に補助金交付」というスキームとなっています。

    公立学校向け補助金の具体的な内容は、以下のとおりです。

    補助基準額と補助率

    項目 内容
    補助基準額 5.5万円/台
    予備機 15%以内
    補助率 3分の2
    入出力支援装置 補助率:10分の10

    視覚や聴覚、身体等に障害のある児童生徒に対応した入出力支援装置の整備も支援されており、補助率は10分の10です。

    国立・私立・日本人学校の端末整備に関しては、補助事業によって支援し、早期更新分に必要な経費を計上しています。具体的な内容は、以下のとおりです。

    補助基準額と補助率

    項目 内容
    補助基準額 5.5万円/台
    予備機 15%以内
    補助率 国立:10分の10
    私立:3分の2
    日本人学校等:3分の2

    入出力支援装置についても補助対象となっており、今後も各学校の計画に沿った支援が実施予定です。

    GIGAスクール構想の今後の問題点

    GIGAスクール構想はすべてが順調に進んでいるわけではなく、以下のような問題点も懸念されています。

    1. 教育・リテラシー面の問題点
    2. 運用面の問題点
    3. セキュリティ面の問題点

    それぞれ、具体的にどのような点が問題となっているのか見ていきましょう。

    5-1. 教育・リテラシー面の問題

    まず、GIGAスクール構想の問題点としては、教育・リテラシー面が挙げられます。文部科学省が公表しているアンケート(令和3年5月時点)においても、「GIGAスクール構想に関連する課題について」では「教員のICT活用指導力」が上位に挙がる結果となりました。

    指導する側である教員がタブレットやクラウドの使い方を理解し、上手に活用できていなければ、ICT教育の実現は叶いません。とくにベテランの教員の中には、パソコンやタブレット、スマホを使いこなすことを難しいと感じる者も少なくありません。一方で若手教員は幼い頃からパソコンやスマートフォンに慣れ親しんできている人が多いため、若手教員とベテラン教員との間で理解度やスムーズに活用できる力量に差が出てしまうことがあります。

    このように、教育者間でのITリテラシーの差も大きな問題となっており、こうした問題を解決するためには教員全体のICTリテラシー向上が必要です。定期的な研修やサポート体制の整備を通じて、教員が自信を持ってICTを活用できるようにしなければなりません。

    5-2. 運用面の問題

    GIGAスクール構想の運用面における問題としては、トラブル発生時の対応や端末の持ち帰り対応などが挙げられるでしょう。端末の故障や破損、不良などのトラブルが発生した際、適切に対応するための策が取られていなければ、運用は滞ってしまいます。

    また、タブレット端末を持ち帰る際のルール化についても、未だ課題が多いです。たとえば、学習コンテンツ以外のYouTubeやSNSにアクセスするのはよいのか、持ち帰った端末が自宅で故障・破損した場合は責任の所在がどこに生じるのかなど、端末の持ち帰りに関するルールには課題が山積みです。

    不要なWebアクセスや情報漏洩の観点から、自宅への持ち帰りを禁止している自治体・学校もあります。しかし、それでは自宅での能動的な学習を妨げることにもつながり、GIGAスクール構想が達成できているとはいえないでしょう。

    加えて、事故などのトラブル対応やルール面だけでなく、保護者からの理解を得にくい面も課題です。文部科学省の「令和5年度秋の年次公開検証」にて公表されたデータでも、一定数「保護者の理解が十分に進んでいない」と答える学校がありました。

    制度の整備を進めるだけでなく、保護者に対してGIGAスクール構想の周知をし、保護者からの理解・教育を得る必要があります。

    5-3. セキュリティ面の問題

    デジタル端末を用いての学習では、インターネット接続が前提です。そのため、セキュリティ面での問題も多々あります。セキュリティ面で大きな問題となるのは、主に「情報漏洩」と「集中アクセス」の2つです。

    近年、マルウェアや不正アクセス、標的型攻撃など、サイバー攻撃もますます巧妙化および増加してきています。実際、東京商工リサーチの「上場企業の個人情報漏えい・紛失事故調査(2023年)」 によると、2023年に上場企業とその子会社が公表した個人情報漏洩・紛失事故は175件で、そのうちウイルス感染・不正アクセス事故は93件と過半数にものぼりました。

    一般的にインターネット接続のできるデバイスが増えるほどセキュリティの脅威にもさらされやすくなるため、1人1台端末の学校においても同様のリスクが懸念されます。ITリテラシーの高くない子どもや保護者が使用することで、思いがけず情報が流出してしまうことも考えられるでしょう。

    さらには、多くの児童生徒が一斉に接続することでデータセンターに負荷がかかり、通信遅延・障害が起こってしまう可能性や、アクセスの集中によってサーバーダウンしてしまうリスクもあります。

    GIGAスクール構想における問題の解決策

    先述したGIGAスクール構想における問題を解決していくには、以下のような対策が有効です。

    • 研修やICT人材の拡充・業務支援ソフト・ツールの導入
    • ルールやサポート体制の整備・保護者への安全性の説明
    • セキュリティ対策強化・LBOの実現

    各施策の概要と、期待できる効果を解説します。

    6-1. 研修やICT人材の拡充・業務支援ソフト・ツールの導入

    上記で挙げたような教育・リテラシー面の問題を解決するには、研修やICT人材の拡充が有効です。専門家による研修やサポートを受けることで、効果的にICT教育を進めていくことができるでしょう。

    しかし、「ICT支援員配置の現状」でも解説したとおり、文部科学省ではICT教育水準を上げるため外部人材の「ICT支援員」の配置を進めているものの、令和2年時点で配置済の自治体・学校は約4割となかなか苦戦しているのが現状です。

    そこで、ICT専門家による講習会やワークショップ、またGIGAスクール構想やICT教育に関する教員の意見交換会などを拡充していくことが求められています。

    たとえば、群馬県では、大学生8名が小学校5校を週に1回程度訪問し、授業支援をおこなっています。また岡山県では、委託を受けたシステム会社から5名程度が月1回ずつの頻度で県下の全県立学校を訪問し、校務支援をおこなっているようです。

    文部科学省でも学校のICT化を支える人材支援はおこなっているものの、各自治体におけるこうした取り組みも非常に重要なファクターとなります。

    教員をサポートするソフト・ツールの導入も効果的でしょう。どんな教員でも使いこなせるシンプルな操作性の業務支援ソフト・ツールを導入し校務負担を軽減させることも、有効な対策となります。

    6-2. ルールやサポート体制の整備・保護者への安全性の説明

    トラブル発生時の対応に関しては、早急にサポート体制を整えることが求められます。

    端末は精密機器であるため、故障や不良などのトラブルは少なからず発生します。その際に備えて、文部科学省では端末更新費用の一部を補助すると公言しており、トラブル時には助成金を活用して修理をおこなうことが可能です。

    端末購入時には、端末トラブルに柔軟に対応してくれる業者を選ぶことも重要といえるでしょう。そのほか、設定におけるトラブルが発生した際にも迅速に対応できるよう、専門的な知識・人材が必要であり、その面でもICT支援員の拡充が求められます。

    また、端末の持ち帰りに関しても、早急なルール整備が必要です。アプリのダウンロードやWebサイト閲覧に関する制限を設けることなどが欠かせません。インターネット環境を整えられない家庭のために、1人1台モバイルルーターの貸し出しをおこなうなどの対応も求められるでしょう。

    端末の持ち帰り・使用に関して保護者が安心感を持てるよう、保護者向けの説明会などの実施も検討してみてください。

    このようにルールやサポート体制の整備・保護者への安全性の説明をおこなっていくことで、各種トラブルに対してスムーズに対応できると共に、保護者からの理解・協力を得やすくなるはずです。

    6-3. セキュリティ対策強化・LBOの実現

    GIGAスクール構想のセキュリティリスクに関しては、情報漏洩・改ざんを防ぎ、安心安全な学習環境を叶えるため、文部科学省では「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」を公表しています。

    「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」では、学習者用端末のセキュリティ対策やアクセス制御、ソーシャルメディアサービスの利用など、多岐にわたる項目について事細かに解説されています。同資料を参照しながら、教員・児童生徒共にセキュリティについてのリテラシーを高めていくことが大切です。

    授業の一環として、セキュリティに関する講義を設けるのもよいでしょう。自治体や教育委員会でも、文部科学省のガイドラインに準拠してハードウェア・ソフトウェアを整え、セキュリティポリシーを策定することが必要です。

    集中アクセスへの対策としては、政府が、費用面で「LBO(ローカルブレイクアウト)*」の実現を支援しています。

    *LBO(ローカルブレイクアウト)とは・・・各拠点よりインターネット・クラウドサービスへ接続する際、データセンターを通さずに直接接続する仕組みのことです。LBOを導入することで、学校からインターネットへと直接接続できるようになります。

    ただしLBOには、拠点地が分散するためにセキュリティホールが増えてしまうというデメリットもあるため、セキュリティ担当者を配置するなどの工夫も同時に求められます。

    GIGAスクール構想の事例

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    最後に、GIGAスクール構想の活用事例を2つご紹介しましょう。

    1. 社会科での明治維新の多面的・多角的考察
    2. 特別支援学校とのオンライン交流

    それぞれどのような取り組みで、どういった効果が得られたのかを解説します。

    事例(1)社会科での明治維新の多面的・多角的考察

    岡山県岡山操山中学校では、2年生の社会科の授業において、明治政府による富国強兵政策(徴兵令・地租改正・殖産興業・学制)に関する問いを、ICTを用いて生徒同士で共有・解決していくことで、多面的・多角的な学習を進めました。

    同学習では、まず、グループで追究していきたい問いを出します。その問いをもとに、明治政府がおこなった政策の背景と意図を追究し、明治維新ではどのような国づくりを目指したのかをレポートにまとめました。

    【問いの例】

    • 徴兵令:270円を納めると、なぜ兵役が免除されたのか
    • 殖産興業:生糸は、なぜ重要な輸出品だったのか   など

    その後、グループで各政策の担当を決め各政策の担当同士で協力し合い、インターネット等を使用して情報を収集し、問いに対する解答を作成します。政策ごとの問い・解答に関しては、Googleスプレッドシートにて全体共有しました。

    グループに戻って追究した解答を互いに紹介し合い、各政策が富国強兵に向けてどのような役割を担っていたかをメンバー全員で考えました。

    テーマや課題に関して役割分担をして調べ、各自が調べた内容を教え合う「ジグソー活動」を用いて、多面的・多角的な考察を促進した点も、特筆すべき点です。

    ジグソー活動を用いた「整理・分析」をする活動を通じて、情報収集能力を高め、質の高いレポート作成につながったようです。

    事例(2)特別支援学校とのオンライン交流

    愛知県春日井市の中学校では、新型コロナウイルス感染症の影響を受け、従来対面でおこなっていた特別支援学校との交流会をオンラインにて実施しました。この取り組みは、コロナ禍においても交流を継続するための有効な方法として注目に値します。

    オンライン交流会では、各学校の生徒がカメラに向かって順番に好きなことを話したり、クイズを出し合ったりするなど、さまざまな工夫を凝らして交流を深めました。オンラインならではの利点を活かし、クイズの問題を大きく写すなどの工夫により、対面での交流よりも見やすく、スムーズに進行することができたようです。

    交流する相手校とは、普段活用しているWeb会議のソフトの種類が違うという問題はあったものの、ソフトの種類が違っても無理なく交流会を実現することができ、参加した生徒からは楽しい時間を過ごすことができたという声が聞かれました。

    まとめ

    GIGAスクール構想では、児童生徒1人1台の端末と高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備し、個別最適化された創造性を育む教育の実現を目指しています。

    目的は、個別最適化学習や双方型授業、教職員の負担軽減などです。実現には、端末整備やネットワーク環境整備、教職員のICT活用指導力向上、クラウド活用などの取り組みが必要であり、それぞれの取り組みを通じてICTは徐々に浸透しつつあるようです。

    ただし、教育・リテラシー面、運用面、セキュリティ面での問題点も一定数存在します。研修やICT人材の拡充、ルールやサポート体制の整備、セキュリティ対策の強化などで解決を図っていくことが重要です。

    多面的な取り組みを通じてGIGAスクール構想が実現できれば、すべての子どもたちに質の高い教育を提供できるようになり、教職員の負担も大きく減らせるでしょう。

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