善管注意義務とは?各分野の範囲例や違反と判断される4つのポイントを解説

善管注意義務とは?各分野の範囲例や違反と判断される4つのポイントを解説

善管注意義務とは、一般的な考え方から求められる要件に注意を払って遂行する義務のことです。

善管注意義務という言葉は聞いたことあるものの、具体的な内容や適用範囲に関してまだ詳しく知らない方も多いのではないでしょうか。

善管注意義務は、コンプライアンスリスクを押さえつつ、業務を円滑に進めるためには大切な項目です。

本記事では、善管注意義務の定義や各分野の遵守範囲を解説します。

善管注意義務に違反してしまうと、損害賠償の発生や契約解除になるリスクも考えられます。現在の業務で注意を払うためにも、本記事をぜひ最後までご覧ください。

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目次

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    善管注意義務の定義

    善管注意義務の定義

    善管注意義務とは、一般的な考え方から求められる要件に注意を払って遂行する義務のことです。与えられた立場によって求められる行動が異なるため、明確な定義はありません。

    民法第644条 により準委任契約などのアウトソーシングでも、受託者はこの善管注意義務を負います。

    たとえば、準委任契約でIT開発を受託した受託者の場合、IT技術者として期待される水準や対応の迅速さを持って業務を遂行しなければなりません。

    その他にも、以下のような方に善管注意義務が発生します。

    • 医者
    • 経営者
    • 賃貸の契約者

    どの立場でも善管注意義務により、求められている要件に沿った行動が求められます。


    善管注意義務の考え方

    善管注意義務の考え方

    ここでは、善管注意義務の考え方を3つ紹介します。

    • 民法
    • 会社法
    • 契約書

    法律や契約書での善管注意義務を知ることで適用範囲を理解できるため、トラブルを未然に防げるでしょう。

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    民法

    民法第644条では、以下のように善管注意義務が明確に規定されています。

    (受任者の注意義務)

    第六百四十四条 受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。

    引用: 民法 | e-Gov 法令検索


    委任者から仕事を任された受任者は、専門家としての知識や経験を活かして、利益を最大限に守る行動をしなければなりません。

    準委任契約を締結する場合、受託者は善管注意義務にもとづいて遂行する法的責任を負います。受託者として専門家に求められる事項を怠ると、善管注意義務違反となる可能性があります。


    会社法

    会社法第330条により、会社の取締役には民法第644条の規定が適用され、善管注意義務が課されます。

    (株式会社と役員等との関係)

    第三百三十条 株式会社と役員及び会計監査人との関係は、委任に関する規定に従う。

    引用: 会社法 | e-Gov 法令検索


    取締役は会社および株主から会社経営を委任されている立場として、利益を守るために行動しなければなりません。

    経営に関する判断ミスや管理責任による不履行を発生させてしまうと会社に影響が出てしまうため、善管注意義務を怠ったと判断されてしまいます。


    契約書

    委任契約や準委任契約などでは、善管注意義務を契約書に記載することで、より具体的な義務として設定できます。

    義務の内容を契約書の中で具体化すると「善良な管理者」の基準が明確になり、後々のトラブルを未然に防げるでしょう。

    【契約書に掲載する項目の例】
    項目 具体的な記載例
    報告義務 遅延リスクがある場合は即座に通知する
    品質基準 エラー率を〇%以下とする
    安全対策 プライバシーマーク基準を遵守する
    専門性維持 担当者は〇〇の資格を保持し、年間〇〇時間以上の研修を受講している者とする

    義務違反があった場合の対応もあわせて契約書に記載することで、トラブルが発生した際でも円滑に対応が可能です。


    善管注意義務違反と判断される場面例

    善管注意義務違反と判断される場面例

    続いて、善管注意義務違反と判断される場面を解説します。

    • 法律違反
    • 経営においての判断ミス
    • 管理責任の不履行
    • 不注意による第三者への損害

    どの場面で違反と判断される可能性があるか理解しましょう。


    法律違反

    法律に違反すると当然、善管注意義務違反にも該当します。法律に違反する行為は、社会常識として当然払うべき注意を怠ったと判断されるためです。

    もし受託者が「知らなかった」と主張しても、業務を請け負う専門家として当然知っておくべき法律と考えられるため、責任を負わなければなりません。

    善管注意義務は自らの判断で最善を尽くす必要があり、法令の範囲内で業務を実施することは最低限の義務です。


    経営においての判断ミス

    取締役の場合、経営の判断ミスが善管注意義務違反につながることがあります。

    経営判断で問題となるのは、十分な情報収集や検討をせずに、判断してしまうケースです。

    たとえば、市場調査を怠ったまま会社の方針を判断してしまうなどが挙げられます。会社に大きな損失をもたらした場合、善管注意義務違反と判断される可能性があるでしょう。

    ただ、経営者があらゆる情報を調べて最善だと判断した場合は、この限りではありません。

    前提のプロセスに誤りがない場合、「経営判断の原則」にもとづき違反とされない考え方が適用されるためです。


    管理責任の不履行

    管理責任の不履行は、善管注意義務違反に該当します。民法第644条にも記載があるように、受託者は委託された業務を適切に管理する責任を負うためです。

    受託者が情報の管理不足によりデータ漏洩を発生させた場合、管理責任の不履行による善管注意義務違反と判断されるおそれがあります。

    準委任契約などで業務に管理責任がある場合は、専門家として常に適切な状態にしておかなければなりません。


    不注意による第三者への損害

    不注意で第三者への損害を引き起こすことも、重大な善管注意義務違反となる場合があります。

    会社法第429条第1項では、役員が職務に対して過失を起こし、第三者に損害を与えた場合、責任を負わなければならないと規定されています。

    第四百二十九条

    役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。

    引用: 会社法 | e-Gov 法令検索


    第三者とは、株主や債権者、取引先など社外の関係者のことです。違反となる例として、決算書類の数字を改ざんして株主や債権者に損害を与えた場合などが挙げられます。


    善管注意義務を違反した際に起きるリスク

    善管注意義務を違反した際に起きるリスク

    ここでは、善管注意義務に違反した際に起きるリスクを紹介します。

    • 損害賠償請求
    • 契約の解除要求

    これらのリスクは準委任契約において委託側も受託側も重要な知識となるため、理解しておきましょう。

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    損害賠償請求

    善管注意義務違反があった場合、受託者は委託者から損害賠償の支払いを請求される可能性があります。

    準委任契約の場合は、民法第415条第1項により、契約上の債務不履行として損害賠償責任が発生するためです。

    第四百十五条

    債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

    引用: 民法 | e-Gov 法令検索


    たとえば、受託者側のセキュリティ管理の不備によって顧客情報が流出した場合、その対応や賠償にかかった費用を、委託側から請求される可能性があります。


    契約の解除要求

    善管注意義務違反は損害賠償だけでなく、契約を解除されることも考えられます。準委任契約などでは民法第651条第1項により、いつでも契約解除が認められています。

    第六百五十一条

    委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。

    引用: 民法 | e-Gov 法令検索


    準委任契約の業務中に損害賠償が発生する問題を起こしてしまった場合は、信用を失うおそれがあるため、委託側の判断で解除要求が出てもおかしくありません。

    契約解除だけでなく違反の内容によっては、受託会社の評判にもかかわるため今後の取引に影響が出ることも考えられます。


    善管注意義務違反が発生した実際の事例

    事例 銀行の取締役が、特定の企業から相談を受け200億円に近い巨額の融資をした
    争点(問題点) 融資を受けた企業が返済の資金を確保できていなかった
    裁判結果 会社の経営を適切に運営するための「善管注意義務」を怠ったとして違反と判断された

    善管注意義務により、実際に裁判になった事例を紹介します。

    今回紹介する事例は、銀行の取締役が、特定の企業から相談を受け200億円に近い巨額の融資をしたケースです。

    争点として、融資を受けた企業が返済の資金を確保できなかったことが挙げられています。

    もともと融資を受けた会社は、新株を発行し、その引受代金をもとに返済を実施する計画でした。しかし、新株の価値は市場の評価次第であり、確実な返済が見込める状況ではなかったようです。

    以上のことから、裁判所は銀行の取締役について以下2つの問題点を指摘しました。

    • B社の財務状況を十分に分析せずに融資を決定した
    • 返済計画が不透明で、銀行にとってリスクの高い融資だった

    この裁判では、銀行の取締役に対し、会社の経営を適切に運営するための「善管注意義務」を怠ったとして違反と判断されました。


    善管注意義務に違反しないための対策

    善管注意義務に違反しないための対策

    善管注意義務に違反しないためには、主に3つの重要な対策があります。

    • 違法行為を発生させない
    • 契約内容を事前に細かく決めておく
    • 一人ひとりが業務責任を認識する仕組みを作る

    トラブルを未然に防ぐためには、常に対策しなければなりません。対策方法を理解すると、準委任契約で円滑に業務を進められるでしょう。

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    違法行為を発生させない

    善管注意義務違反を防ぐためには、まず違法行為を発生させないことが大切です。

    法律に違反すると、「一般的な考え方から求められる要件に注意を払って遂行する」要件から外れてしまうためです。

    準委任契約では、委託された業務の専門家として受託業務を遂行します。もしシステム開発をする場合、受託者はプライバシーマークやISO認証などのセキュリティ基準をもとに管理が必要になるでしょう。

    一般的に求められる注意レベルが業界や職種によって異なるため、各分野の常識を把握することが重要です。


    契約内容を事前に細かく決めておく

    善管注意義務のトラブルを発生させないために、契約内容を事前に細かく決めておきましょう。

    事前に契約内容として基準を設けていない場合、お互いが認識している水準に誤差が出てきてしまうためです。認識の誤差ができてしまうと、契約後に「サービスレベルが認識と合わない」「これは業務範囲外だと認識していた」など認識の食い違いが発生するかもしれません。

    具体的に業務に求めている基準を明言して、お互いに同意のもと契約書に記載するのがおすすめです。


    一人ひとりが業務責任を認識する仕組みを作る

    一人ひとりが業務責任を認識する仕組みづくりが大切です。

    善管注意義務は立場や状況によって求められる注意の程度が変わります。そのため、義務を課せられた人が業務に対して求められる程度を理解し、責任を持って行動することで違反を回避できます。

    たとえば、受託会社は以下のように環境を整えるように従業員への教育をすべきでしょう。

    • 業務の対応マニュアルを作成する
    • 定期的なケーススタディを実施する
    • 問題発生時の報告や相談のフローを確立する

    受託者として責任のある行動を取るために、環境を整えるのがおすすめです。


    それぞれの立場における善管注意義務を正しく理解して遵守しましょう

    それぞれの立場における善管注意義務を正しく理解して遵守しましょう

    善管注意義務は、立場や職種によって求められる基準を満たすように注意を払う義務のことです。求められる基準は状況によって異なるため、立場に合った判断が必要です。

    準委任契約で善管注意義務のトラブルを防ぎたい方は、以下のような対策を講じましょう。

    • 違法行為を発生させない
    • 契約内容を事前に細かく決めておく
    • 一人ひとりが業務責任を認識する仕組みを作る

    パーソルビジネスプロセスデザインでは、豊富な実績とノウハウをもとに、お客様の要望にあわせて準委任契約のBPOサービスを提供しております。BPOやアウトソーシングサービスについて、導入されたことのないお客さまからはさまざまなお問い合わせをいただいております。なかでも代表的な「BPO・アウトソーシング利用時の注意点(危なくないのか)」については、以下の記事で補足説明しておりますので、ぜひ併せてご覧ください。


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