連結決算とは?
そもそも連結決算とは、親会社と国内・海外にある子会社・関連会社からなるグループ全体において、各社の個別財務諸表をまとめて連結財務諸表を作成することです。
その際、ただ合算するだけではグループ間の取引が重複して計上されてしまいますので、必要に応じて修正仕訳をおこない、グループ全体としての正確な数値を導き出します。
各子会社・関連会社にて単体決算をおこなった後、親会社が個別財務諸表を集めて修正仕訳をおこない、連結財務諸表を作成するという流れです。
会社法444条第3項によると、連結決算をおこなう義務があるのは以下の会社だとされています。
- 有価証券報告書を提出している会社
- 資本金が5億円以上、または負債総額が200億円以上の大企業
また、義務付けられているわけではない中小企業なども、任意で連結決算をおこなうことができます。
連結決算をおこなうメリット
連結決算をおこなうメリット
連結決算をおこなうと、どのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、2つを挙げて解説します。
メリット(1)グループ全体としての業績を正確に把握できる
メリット(1)グループ全体としての業績を正確に把握できる
各子会社・関連会社ごとの単体決算だけでは、グループ全体の状況が見極めづらくなります。そこで、グループ会社間での取引を除外して実態を明確にする連結決算をおこなうと、グループ全体としての経営状態を正確に把握できるようになります。
これにより、経営者にとってもグループ全体の方針を決定しやすくなるでしょう。また、グループ会社間での取引を明確に開示することで、グループ間での不正取引防止につながるというメリットもあります。
メリット(2)第三者が状況を把握しやすくなる
メリット(2)第三者が状況を把握しやすくなる
連結財務諸表を開示することで、第三者から見てもグループ全体の経営状況を把握しやすくなります。
そのため、投資家や銀行がグループの動向を判断しやすくなり、投資や融資の促進も期待できるでしょう。
連結決算のデメリット
メリットがある一方で、次のようなデメリットが生じる場合もあります。
デメリット(1)工数がかかり負担が大きい
デメリット(1)工数がかかり負担が大きい
各子会社・関連会社の作成した個別財務諸表を合算し、連結修正仕訳をしていく作業はかなりの工数がかかり、担当者にとっては負担の大きいものです。
グループ会社の数が増えるほど取引も増え、各担当者が一つひとつの取引内容を確認していく必要があるため、実務上においてかなり煩雑で手間のかかる作業となってしまうでしょう。
デメリット(2)高度なスキルや知識が求められる
デメリット(2)高度なスキルや知識が求められる
連結決算は非常に煩雑な業務であるため、滞りなく遂行するためには専門的な知識や豊富な経験が求められます。
そのため、どうしても連結決算の経験がある一部の従業員に頼りがちになる場合も多いでしょう。そうして属人化しやすい業務でもあるため、担当者が退職してしまうと“連結決算業務をおこなえる従業員がいない”という事態に陥ってしまうリスクがあります。
連結決算の対象となる子会社の基準
連結決算の対象となる子会社の基準
では次に、連結決算の対象となる子会社の基準について見ていきましょう。以下3つのいずれかに該当する場合、連結決算の対象となる子会社となります。
- 議決権の過半数をもっている
- 議決権の40〜50%をもったうえで、一定の要件を満たしている
- その他、一定の要件を満たしている
一定の要件とは
一定の要件とは
上記の2つ目と3つ目にある「一定の要件を満たす」とは、以下5つのいずれかに当てはまることを指します。
- 親会社・関連会社が残りの議決権の過半数をもっている
- 役員の過半数が親会社・関連会社の構成員である
- 親会社に決定権を委ねる契約が存在する
- 資金調達額の大半を親会社からの融資が占めている
- その他親会社が決定権をもっていると推測できる事実がある
ただし、所有議決権が0〜40%の場合は(1)と(2)〜(5)のいずれか1つを同時に満たしている必要があります。
例外的に連結決算の対象外となるケース
例外的に連結決算の対象外となるケース
子会社であったとしても、連結決算の対象外となるケースがあります。以下に該当する場合、連結決算の対象から除外されます。
- 親会社による支配が一時的である
- 連結決算によって投資家の意思決定を妨げるリスクがある
- 規模が小さく財務状況に与える影響が少ない
以上のように、一時的に親会社の傘下に入っているなど限定的な支配である場合や、小規模経営で重要性の低い場合などは決算に与える影響が少ないため、連結決算の対象から外すことができます。
大きなグループ会社になるほど多くの子会社・関連会社があり、連結決算に伴う実務の負担が大きくなるため、こうした例外が会計基準で認められているのです。
連結決算の基準を満たした子会社が踏むべきステップ
連結決算の基準を満たした子会社が踏むべきステップ
連結決算の対象となる子会社が、決算時におこなう業務のステップは次のとおりです。
- 自社の単独決算をおこない個別計算書類を作成する
- グループ会社間での取引を報告する
- 連結修正決算に必要な未実現利益を報告する
では、それぞれのステップについて詳しく解説しましょう。
ステップ(1)自社の単独決算をおこない個別計算書類を作成する
ステップ(1)自社の単独決算をおこない個別計算書類を作成する
まずは子会社が単独決算をおこない、損益計算書・貸借対照表・株主資本等変動計算書などを作成します。
このとき、それぞれの子会社・関連会社間で正しく比較できるよう、親会社の定める基準や方針に従うことが重要です。グループ全体で会計処理の基準や資産の評価方針を統一しておき、親会社の決算日と3ヵ月以上のズレがある場合は調整をおこないましょう。
また、海外子会社の場合は、外貨を円に換算する作業が発生します。為替の換算については、次項で詳しく解説します。
ステップ(2)グループ会社間での取引を報告する
ステップ(2)グループ会社間での取引を報告する
個別計算書類を作成したら、合わせてグループ間での取引を報告します。
グループ間の取引を決算に含めてしまうと正確な数値を算出できなくなってしまいますので、グループ間での取引は別にするのです。
その後、それぞれの子会社・関連会社から集めた情報をもとに、親会社が修正決算を進めていきます。
ステップ(3)連結修正決算に必要な未実現利益を報告する
ステップ(3)連結修正決算に必要な未実現利益を報告する
次に、連結修正決算に必要な未実現利益を報告します。未実現利益とは、グループ内の取引で生じた利益のうち、連結修正決算時にまだ実現していないものを指します。
グループとしての利益が実現するのは外部との取引が成立したときですので、決算時にグループ外での取引が発生していない場合は未実現利益となるのです。具体例としては、グループ間で売買した商品が、決算時点でまだ残っている場合などが挙げられます。
この未実現利益を相殺しなければ実際の正しい利益が把握できなくなってしまいますので、必ず正しく報告するようにしましょう。
海外子会社との連結決算のポイント
親会社の支配下にあるすべての子会社・関連会社が連結決算の対象であり、その中には当然海外子会社も含まれます。
ここでは、海外子会社と連結決算をおこなう際の会計処理のポイントについて解説していきます。
ポイント(1)会計処理を統一する
ポイント(1)会計処理を統一する
連結決算をおこなう際には、海外子会社であっても原則として親会社と同一の会計基準で財務諸表を作成する必要があります。
ただし当面の間は、国際財務報告基準(IFRS)もしくは米国会計基準(US GAAP)に則った財務諸表であれば問題ないとされています。
しかし、海外子会社の財務諸表がこれらの基準に従って作成されていたとしても、以下の場合には親会社と同一の会計基準で修正しなければなりません。
- のれんを償却していない場合
- 退職給付会計における数理計算上の差異がある場合
- 研究開発費を資産に計上している場合
- 投資不動産の時価評価、または固定資産の再評価をしている場合
- 資本性金融商品の公正価値の事後的な変動をその他の包括利益に表示している場合
ポイント(2)為替の換算をおこなう
ポイント(2)為替の換算をおこなう
海外子会社の財務諸表は外国通貨で作成されますが、日本の親会社で連結決算をおこなう際には日本円に換算する必要があります。
海外子会社との連結決算における為替の換算方法について、解説していきましょう。
●貸借対照表の換算方法
日本円に換算するための為替レートは常に変動し続けているため、すべての取引をその瞬間の為替レートに変換して処理をすることは現実的ではありません。そのため、海外子会社との連結決算時には簡略化された為替換算が認められています。
貸借対照表における資産・負債の項目については基本的に決算日時点の為替レートで換算し、換算により発生した差額は当期の損益として計上します。
ただし、純資産においては事実が発生した時点の為替レートで換算します。株式取得時と取引発生時で換算基準の為替レートが異なるため、使い分けに注意が必要です。
●損益計算書の換算方法
損益計算書は、原則として期中の平均レートで換算します。
例外として決算日のレートで換算される場合もあります。また、親会社との取引においては、親会社の採用している為替レートに合わせて換算する点に注意しましょう。
●差額は「為替換算調整勘定」で処理
為替換算により生じた貸借対照表上の差額は「為替換算調整勘定」として処理します。
為替換算調整勘定とは、連結決算で発生する換算差額を調整するための勘定科目のことです。為替換算調整勘定は、現時点で実現していなくても将来的に実現が予想される“潜在的な損益”に位置付けられます。
なぜ海外子会社との連結決算は難しいのか
なぜ海外子会社との連結決算は難しいのか
海外子会社との連結決算についてポイントをお伝えしましたが、トラブルが発生しやすくスムーズに進められない場合も多くあります。
海外子会社との連結決算が難しい理由としては、大きく2つ挙げられます。
理由(1)日本の親会社と現地従業員の連携が難しい
理由(1)日本の親会社と現地従業員の連携が難しい
海外子会社の従業員には現地の外国人スタッフが多く、日本語が通じないケースがよくあります。日本語を理解できる従業員がいたとしても、「なるべく早く」といった日本語ならではの曖昧なニュアンスが伝わりにくく、思ったように意思疎通ができない場合も多いのです。
また、日本と時差のある国に子会社がある場合、生活時間帯のズレから連絡が取りづらいことも問題となります。
指示が正確に伝わらなかったり、定期的な打ち合わせができなかったりといった環境が原因となり、連結決算をスムーズに進めることが難しくなってしまうのです。
理由(2)海外子会社の決算書に不備が多い
理由(2)海外子会社の決算書に不備が多い
1つ目の理由のように連携が取りづらく管理が行き届かない環境では、決算書に関する不備も発生しやすくなります。時には意図的な不正が隠れているリスクも否めないため、厳重なチェックが必要です。
また海外子会社では、コンプライアンス意識や責任感などの感覚も日本とは大きく異なります。海外子会社側の従業員が日本のコンプライアンスや親会社の決まりなどを深く理解していなければ、決算書にもさまざまな問題が出てきてしまうことでしょう。
逆に日本より基準の厳しい国では、海外子会社の方が監査で苦労するということもあり得ます。やはり国による基準や管理体制の違いが、海外子会社との連結決算における大きな課題だといえるでしょう。
連結決算をおこなう際の注意点とは
連結決算をおこなう際の注意点とは
親会社と子会社の連携が重要な連結決算ですが、円滑に進めるためにはどうすれば良いのでしょうか。続いては、連結決算をおこなう際に意識したい3つのポイントを紹介します。
ポイント(1)スケジュール管理を徹底する
ポイント(1)スケジュール管理を徹底する
連結決算は、上場企業に課せられている“義務”であり、通常の決算と同じように情報を開示する必要があります。
子会社を多く抱える企業ほど個別財務諸表を集めて修正する作業に時間がかかりますので、余裕をもたせたスケジュールを組むことが重要です。
子会社から個別財務諸表の提出が遅れたり、多方面の関係者を巻き込む修正が発生したりすることもありますので、トラブルを見越したスケジュールを立て、各社が計画どおりに動けるように管理・サポートを徹底しましょう。
ポイント(2)管理体制を強化する
ポイント(2)管理体制を強化する
特に海外子会社の場合は、距離や言葉の壁、コンプイアンス意識の違いによる問題を解決するためにも、管理体制の強化が必要になります。
具体的には以下のような施策が挙げられます。
- 定期的に月次決算の報告をしてもらう
- 可能であれば現地に赴き、従業員と直接コミュニケーションを取ることで信頼関係を築く
- コンプライアンス研修を実施する
- グループ間で会計ソフトを統一する
- グループ間で監査法人を統一する
親子間で異なる会計基準による決算が当面の間は認められてはいるものの、いずれは会計基準を統一する必要があります。会計基準の相違による認識の食い違いなども防ぐことができるため、現段階から会計ソフトや監査法人の統一を検討しておいても良いでしょう。
ポイント(3)アウトソーシングを活用する
ポイント(3)アウトソーシングを活用する
ただでさえ工数が多く手間のかかる連結決算ですが、こうしたスケジュール調整や子会社へのサポートが加わると、さらにリソースを圧迫してしまいます。
担当者に負荷がかかるだけでなく、最悪の場合、決算に間に合わないという事態にもなりかねません。
自社のリソースに限界がある場合には、アウトソーシングを活用することも有効です。ノンコア業務を外部に委託すれば、自社の限られた人材や時間をより重要な業務に集中させ、事業成長に向けて戦略的に動くことができるでしょう。
経理アウトソーシングサービスならパーソルビジネスプロセスデザインへ
経理アウトソーシングサービスならパーソルビジネスプロセスデザインへ
連結決算は、ただでさえ工数が多く手間のかかる業務です。処理を間違えてしまうと決算に間に合わないなど重要な問題に発展してしまう危険もありますので、経理担当者にとって大きな負担となるでしょう。
前述したとおり、経理担当者の負担を軽減させる方法としてアウトソーシングを活用することが挙げられます。負担を軽減して業務品質を維持しながらも、事業成長に向け戦略的に動くことが可能になります。
私たちパーソルビジネスプロセスデザインでは、「経理業務アウトソーシング」サービスをご提供しています。請求書をはじめとした証憑のシステム入力、仕訳処理、消し込みなど幅広い業務をご依頼いただける点が特徴です。
経理業務で何かお困りのことがございましたら、ぜひお気軽にお問い合わせくださいませ。