IFRS(国際会計基準/国際財務報告基準)とは
IFRSとは「International Financial Reporting Standards」の略称で、「国際会計基準/国際財務報告基準」を意味します。この基準を策定したのは、ロンドンに拠点があるIASB(International Accounting Standards Board/国際会計基準審議会)という非営利組織です。
2018年の調査によれば、IFRSはEU加盟国やオーストラリア、香港などおよそ140カ国の上場企業や金融機関で採用されています。そのため、グローバルで展開する企業にとっては、会計基準が世界的に統一されることで「海外からの資金調達」や「海外の子会社の管理」が容易になる点がメリットといえるでしょう。
IFRSが求められている背景として、やはり「経済活動のグローバル化」が挙げられます。速やかな意思決定が重要視される現代では、国ごとに会計基準が異なっていると判断に時間が掛かってしまいます。そこで、「同一の会計基準」を使用して迅速に経営状況を共有するためにIFRSが策定され、広く普及しているというわけです。
IFRSの特徴として、大きく「原則主義」と「貸借対照表重視」が挙げられます。続いては、この2つの原則に基づいて『IFRSと日本の会計基準との違い』を解説していきましょう。
1-1. 日本の会計基準との違い
1-1. 日本の会計基準との違い
日本の会計基準は数値などの細かなルールを規定する「規則主義」が採用されています。一方でIFRSでは、考え方の原理原則のみが定められた「原則主義」が採用されています。
また、日本は収益から費用を差し引く「純利益」が重視されている一方、IFRSでは資産から負債を差し引いた「純資産」が重視されている点も、違いのひとつといえるでしょう。
日本の会計基準 | IFRS |
---|---|
規則主義 | 原則主義 |
損益計算書重視 (収益費用アプローチ) | 貸借対照表重視 (資産負債アプローチ) |
さらに、IFRSが「貸借対照表重視」である理由は「「損益計算書重視」では経営者が期間内の収益や費用配分を操作する恐れがある」といった点を懸念しているからです。
このように、会計に対する“考え方”の違いはあります。ただ、日本の会計基準とIFRSの根本的な仕組みについては大きな相違点はありません。また、アメリカが会計基準をIFRSに近づけつつあることもあり、日本もアメリカに合わせて会計基準の変更が進められているのが現状です。
1-2. 日本の現状
1-2. 日本の現状
2023年3月の時点では、日本でIFRSの適用は義務化されていません。
しかし、一部の企業ではIFRSを任意適用しています。日本取引所グループのデータによると、「IFRS(国際財務報告基準)への対応」は次の通りです。
日本の会計基準 | IFRS |
---|---|
規則主義 | 原則主義 |
損益計算書重視 (収益費用アプローチ) | 貸借対照表重視 (資産負債アプローチ) |
※出典:日本取引所グループ「IFRS(国際財務報告基準)への対応」
日本の上場会社数は約3,900社ですので、IFRSの適用企業は1割に満たないことが分かります。
日本政府は2011年に「当面はIFRSの強制適用はない」と発表していましたが、金融庁の2014年以降の方針として「IFRS任意適用企業の拡大促進」を掲げています。ですから、国内でも適用を検討する企業はこれから増加していくでしょう。
IFRS導入のメリット
IFRS導入のメリット
グローバルに展開している企業にとって、IFRSの導入には多くのメリットがあります。ここでは、4つのメリットを挙げて解説していきます。
メリット(1)企業のイメージ向上につながる
メリット(1)企業のイメージ向上につながる
IFRSを適用することで、企業のイメージ向上につながるでしょう。その理由としては、金融機関や投資家、取引先から、「高品質の経理業務を行っている」「体制が整い、内部統制がある」と評価されやすいからです。
その結果として信用力が上がり、企業のイメージ向上も期待できるでしょう。
メリット(2)海外の投資家から資金調達しやすくなる
メリット(2)海外の投資家から資金調達しやすくなる
日本基準の財務諸表をIFRS基準へと変更することで、海外投資家から資金調達しやすくなります。
日本の会計基準のままだと、IFRSとの差異を提示しても海外投資家にとっては不安が残ってしまいます。IFRSに変えることで、経営状況を共有しやすくなるため資金調達プロセスがスピーディーになるでしょう。ですから、グローバルで展開する国内企業にとって、IFRSの適用は必須といえるのです。
メリット(3)海外の子会社を管理しやすくなる
メリット(3)海外の子会社を管理しやすくなる
海外に子会社や支店を保有する企業の場合、国内の本社と同じ会計基準を採用することで管理しやすくなる、という点もメリットといえます。
具体的には、IFRSを国内外の拠点で採用すると“連結財務諸表”を作成しやすくなります。そのため「拠点間の連携」が強まり、グループ全体の経営状況を把握しやすくなるのです。また、迅速な意思決定を行えることにもつながっていくでしょう。
メリット(4)国際取引の際に財務諸表を利用できる
メリット(4)国際取引の際に財務諸表を利用できる
会計基準にIFRSを導入すると、国際取引の際に財務諸表を利用しやすくなる点もメリットとして挙げられます。
企業が海外に進出する際、自社の財務諸表を変更せずにそのまま使用できますので、取引先にも説明しやすくなります。国際取引を行うたびに財務諸表を変更するような手間も必要ありませんので、コスト負担も発生しません。
IFRS導入のデメリット
IFRSの導入には、メリットばかりでなくデメリットも存在します。ここでは4つのデメリットを挙げて解説していきます。
デメリット(1)移行コストがかかる
デメリット(1)移行コストがかかる
国内の会計基準からIFRSへ移行する際には、さまざまなコストが掛かってきます。具体的には、以下のようなコストが挙げられるでしょう。
・調査コスト
・監査報酬
・システム導入コスト
・外部機関によるコンサルティング費用
・社内プロジェクトの運用コスト
これらのコストは、企業規模が大きくなるほど総額が高くなっていくと考えられます。また、移行が完了するまでに数年が掛かるケースもありますので、トータルコストも十分に調査したうえで意思決定をすることが重要です。
デメリット(2)財務報告の変換(コンバージョン)に手間がかかる
デメリット(2)財務報告の変換(コンバージョン)に手間がかかる
会計資料を基準に合わせて変換することを「コンバージョン」と呼びますが、財務報告の変換(コンバージョン)に手間がかかる点も、デメリットのひとつです。
仮にIFRSを適用したとしても、1つの企業について作成される“個別財務諸表”は、国内基準で作成したうえでIFRSにコンバージョンする必要があります。ですから、日本の関係会社には国内基準のものを作成する一方で、海外の子会社などにはIFRSで効率的に作成できるよう作業体制を構築していくことが重要といえるでしょう。
デメリット(3)会計方針が変更となる
デメリット(3)会計方針が変更となる
IFRSを適用すると、「売上計上基準」と「固定資産会計方針」を変更する必要があります。
「売上計上基準」に関して、日本で売上を計上する考え方は複数あります。対してIFRSでは、売上計上の時期が明確に定められています。また、「固定資産会計」については、固定資産の減損に関する取り扱いが異なります。
以上のようにそれぞれ違いがありますので、新しい会計方針を社内に浸透させるには時間やコストが掛かってくるでしょう。
デメリット(4)業務プロセスが増えてしまう
デメリット(4)業務プロセスが増えてしまう
IFRSを適用して会計方針が変わると、従来とは違った財務諸表を作成する必要があるため業務プロセスが増えてしまいます。具体的には、次の作業が増えることになります。
・現地基準元帳とIFRS元帳が必要になる
・勘定科目を現地とIFRS基準に分類する必要があるなど
以上のようにIFRSにはさまざまなデメリットもありますので、従業員の理解を得ながらトップダウンで実行していくことが重要です。
IFRS導入の注意点
IFRS導入の注意点
IFRSのデメリットも理解したうえでIFRSを導入する、となった場合でも、いくつか注意点があります。続いては、IFRSを導入する際に注意すべきポイントを4つ挙げて解説します。
注意点(1)資産を時価評価する必要がある
まず、資産を時価評価することが重要といえるでしょう。
IFRSでは「資産負債アプローチ」が採用されていて、資産・負債に関する評価が厳しくなっています。対して国内基準では、時価評価できない資産は“取得したときの価格”で計上します。
IFRSでは非上場株式も時価評価が必要となりますが、そもそも「時価評価できない資産」が存在しません。その点には注意が必要でしょう。
注意点(2)個別財務諸表へのIFRS適用はできない
1つの企業について作成される“個別財務諸表”へのIFRSの適用は、原則として認められていない点も注意が必要です。
IFRSを導入していても、国内基準で個別財務諸表を作成しなければなりません。そのため、国内基準で個別の会計帳簿を作成して、決算時にIFRS用の財務諸表に変える作業が必要となります。
注意点(3)導入時には「初度適用」の規則に従う必要がある
IFRSを適用した財務諸表を初めて作成することを「初度適用」と呼び、導入時にはその規則に従う必要があります。
具体的には、前期と当期を合わせた2期分の財務情報を開示するよう求められています。理由としては、過去と現在の経営状況を比較するためです。
初度適用には多くの準備作業が必要ですので、従業員にとって大きな負担となる恐れがあるでしょう。
注意点(4)意思決定の方法が変わる可能性がある
会計方針が変わると、意思決定の判断基準も変わる可能性があります。
これまで設定していたKPIが目標達成に重要でないと判断されれば、KPIを新たに設定し直す必要があるでしょう。KPIをシステムで管理していた場合、システムの要件を変更するなど多くの作業が必要になります。
KPIの変更は経営判断に大きな影響を及ぼしますので、早めに対応しておきましょう。
経理業務の負担軽減ならパーソルビジネスプロセスデザインへ
IFRSを採用する企業は増加しており、グローバル展開を検討する企業で広く採用されています。IFRSを導入することで、海外投資家からの評価が高くなるなど多くのメリットを享受できるでしょう。
しかし、IFRS導入には会計基準の移行が伴い、多くの工数が必要となります。長期的に取り組む必要がありますので、従業員がIFRSへの移行に向けたコア業務に集中するためにも、通常の経理業務をアウトソーシングするなどの対策は重要です。
パーソルビジネスプロセスデザインでは、経理業務のアウトソーシングなどといったBPOサービスをご提供しています。BPO専業50年で蓄積されたノウハウをもとに、高品質なサービスをご利用いただける点がメリットです。
経理業務や経費精算でお困りのことがありましたら、以下のページからお気軽にお問い合わせくださいませ。