課題・背景:労働時間の客観的把握とタイムリーな労務管理の方法を模索
キヤノンマーケティングジャパン株式会社
総務・人事本部人事部人事課 平山寛朗様(労務管理実務)
※掲載内容は取材当時の情報です。
平山様:PCログを導入した2020年当時、当社では厚生労働省の指針に基づいて、客観的な指標による適正な労働時間管理を推進していました。社会的にも長時間労働やサービス残業が問題視され、労働時間の厳格な管理が求められていました。しかし、当社は営業職を主体とする会社で外勤者が多く、事業場外での労働時間を適正に管理することが難しい状況でした。
具体的な課題としてまず挙げられたのは、「入退館記録を活用した勤務管理の客観性の不足」です。本社や支店などの主要拠点ではIDカードによる電子的記録が行われていましたが、一部の営業所などでは手書きの運用が残っており、客観性の面で問題がありました。また、サテライトオフィスや外出先での勤務では、入退館記録自体が取得できないといった課題もあったのです。
相原様:加えて、「勤務状況をタイムリーに把握できない」ということも課題でした。人事部門では、入退館記録と勤務実績申請を突合検証し、曖昧な点があれば所属長に確認・修正を依頼していましたが、この作業は各職場の対応負荷につながるだけでなく、私たちにとっても非常に手間がかかるため頻繁には行えず、常に最新の勤務実態を把握することが難しかったのです。
外勤者が多い当社の場合、入退館時間と実際の業務時間が乖離するケースも多々あり、新しい仕組みが求められていたのです。当時を振り返ると、世の中では過労自殺事件に象徴されるような社会問題や過重労働への強い関心が高まっていたこともあり、安全配慮義務の観点から、適正に労働時間管理しなければならないという風潮がありました。仕事を可視化する仕組みの導入には、もちろん「監視される」という抵抗感も社員の一部にはあったと思いますが、いずれ変えていかなければならないという課題認識は多くの社員の間で共有されていたように思います。
取り組み内容:PCログによる客観的勤務管理の確立と労使協議・研修による意識改革
キヤノンマーケティングジャパン株式会社
総務・人事本部人事部人事課 課長代理 相原康秀様(労務管理統括)
平山様:客観的な指標に基づいて勤務管理を適正化するうえでは、社員に負担をかけず、迅速かつ正確に労働時間を把握できる仕組みを整えることが目標でした。
当社では、PCログを導入する以前の2017年に、外勤者への「みなし労働時間制」をやめて、個別労働時間管理を開始しました。その際に、働き方の変化を社員にイメージしてもらうために、「働き方を、野球型からサッカー型に変えよう」という喩えを用いて、社員の意識変革を進めました。この比喩には、「9回というイニングが前提となる野球のように時間意識が希薄なままで働くのではなく、試合時間が90分と限られたサッカーのように、定められた時間のなかで残り時間を見極めながら働くことを意識しよう」というメッセージが込められていました。
それから3年経過した2020年に、PCログを導入するにあたって、あらためてこの表現を用いて、時間意識を高める必要性を社員に伝えたわけです。
相原様:「MITERAS仕事可視化」を導入した決め手は、クラウドでの管理が可能な点と、コスト面での優位性でした。使い方も大変わかりやすく、ガイドやマニュアルを見なくても直感的に操作できて非常に使い勝手が良いですし、PCログデータのダウンロードに時間がかからないことも魅力的でした。それまで、入退館記録を準備するまでに工数も時間もかかっていたところが、クリックして数秒程度で閲覧可能になったことには驚きました。
他ベンダーには、より豊富な機能を備えるサービスもあったのですが、我々の目的は「PCのログを正確に取得し、勤務管理に活用する」という点に特化していたため、過剰な機能は不要でした。また、パーソルグループ自体で2万人規模の導入実績があることも、5千人以上が勤務する当社にとって心強かったのです。
さらに、パーソルさんは単なるシステム提供に留まらず、働き方改革をどう実現するかというソリューションのビジョンを一緒に描いてくれたことも印象的でした。
総務・人事本部人事部人事課 課長 池永重雄様
池永様:実は、個別労働時間管理を始めた結果として、運用変更前と比較して残業時間が多くなってしまったらどうしようという心配がありました。しかし実際には、管理職及び一般者含めた社員が意識を改め、働き方改革に前向きに取り組んでくれたことで、時間外労働が大きく膨らむことはありませんでした。PCログ導入前は、入退館記録が手書きや自己申告だったこともあり、曖昧な部分がありましたが、導入後にはそうした曖昧な部分が明確になり、全体としては良い方向に進んだと感じています。
平山様:PCログを導入することで勤務実態が見える化されることに伴い、持ち帰り残業や、管理職の過重労働など、これまで見えなかった労務リスクが顕在化する可能性も考えました。さらに、PCログ導入前には、一部の社員から「監視されるようで息苦しい」といった否定的な意見や、「個人に紐づく仕事が多く、休暇中にも問い合わせ対応を余儀なくされる」、「1人配置の拠点では、休暇取得中の業務対応が不安」といった働き方そのものに課題を感じている声が挙がったことも事実です。そこで、これらの不安を取り除き、PCログ導入が社員一人ひとりにとって意味のあるものであると理解してもらうため、労働組合との協議に加えて、管理職研修や全社的な教育を行いました。
相原様:管理職研修では、勤務管理に関する基本的な考え方や、長時間労働、サービス残業、働き方改革といったキーワードを踏まえ、公私の区別や労働時間管理の厳格化について改めて整理しました。また、効率的なタスク管理や会議運営の方法など、タイムマネジメントについてもプログラムに取り入れました。この管理職研修を受けた管理職が、今度は講師となって部下に対してPCログ導入の意義や時間管理のポイントを伝えることで、全社的な理解と浸透を図っていったのです。
池永様:社内審議や労働組合との協議、社員への事前説明など2019年の1年間を準備期間に充て、2020年に本格稼働しました。ちょうどコロナ禍に入った時期と重なったため、在宅勤務などの新しい働き方と同時進行でPCログの活用が始まりました。
稼働前の準備期間に多くの告知や教育・啓蒙を行えたことが、結果としてスムーズな導入につながりました。十分な事前準備によって社員の受け止め方も柔軟になり、ソフトランディングできたと感じています。
さらに、労働時間の状況などは、労使委員会で定期的に振り返りも行い、社員全体にも情報を共有しています。その結果、当初懸念していたような深刻な問題には至らず、むしろこの取り組みを継続して改善していこう、という流れになりました。
成果:管理職も含めた勤務時間改善による全社的な適正労務管理の実現
平山様:「MITERAS仕事可視化」導入の効果は、ほぼ即座に表れました。デイリーでPCログが勤務管理システムに反映されるので、入退館記録の整理にかかる工数がゼロになりました。
また、PCログの可視化画面を通して、社員や上司が、自身と部下の働き方を客観的に把握できるようにもなったため、「どこを改善すれば効率的に働けるか」を考えるきっかけとなり、生産性向上に向けた取り組みを後押ししています。働き方を可視化できたことで、部門ごとの勤務状況の違いも明確になり、残業が目立つ部門には改善を促す動きが出ています。
こうした勤務状態のタイムリーな確認は、結果として勤務管理の精度向上につながり、社員の労務管理に対するリテラシー醸成にも寄与していると感じます。適正な勤務管理が実現したことで、人事担当者の負担も大幅に軽減されています。
相原様:私は、コロナ禍でも適正な労務管理が行えたことが印象的でした。従来と同等の働き方を維持できたのは、まさに「MITERAS仕事可視化」導入のおかげだと思っています。
コロナ禍による働き方の急速な転換は、当社にとっても大きな変化でした。PCログ導入直後に新型コロナウイルス感染拡大を受けた緊急事態宣言があり、それまで出社が基本だった当社でも在宅勤務が一気に広がったのですが、入退館記録では把握しづらい在宅勤務中の実態も、PCログのおかげで適正な勤務管理が継続できたのです。人事部内では「PCログを導入しておいて本当に良かった」と話題になりました。
また、管理職の労働時間管理がより正確に行えるようになったことも画期的でした。働き方改革関連法施行を受けて管理監督者の労働時間把握が必要になったわけですが、ここでもPCログが役立っています。管理職に過重労働が発生していれば、健康支援室と連携して早期の対応が可能になり、安全配慮の観点からも助かっています。
今後の取り組み:個別最適な働き方の追求
平山様:社会全体で労働人口が減少する中において、いかに生産性を高められるかが大きな課題です。先ほど、「野球からサッカーへ」という喩えを用いましたが、今後は「サッカーからフットサルへ」を意識しています。フットサルは、サッカーと比べてプレーヤー数が少なく、一人ひとりの役割変化が瞬時に求められます。また、サッカーにはアディショナルタイム(延長)がありますが、フットサルにはなく、限られた時間と人数で成果を出すことが求められるのです。フットサルのこうした特性は、短い時間で効率的に仕事をすることがより重要となるこれからの働き方を象徴しており、サッカーからフットサルへのゲームチェンジを意識する必要があると捉えています。
池永様:これからは、労働時間のみならず、社員に関する様々なデータが取得できる環境になった時代であることを踏まえ、従来のような全体を同一の基準で管理する「マスマネジメント」ではなく、個々の部門や、職種、仕事内容に応じた「パーソナルマネジメント」の重要度が増していくと考えられます。
私たちが目指しているのは、究極的にはそれぞれの個人の職務特性に合った柔軟な働き方の仕組みづくりです。これを実現するには、上司と部下との信頼関係や心理的安全性の確保が必要不可欠なことは言うまでもなく、上司と部下の双方が客観的・定量的なデータに基づいて個別の状況を理解し、最適な働き方の実現に向き合うことが重要です。今後も「MITERAS仕事可視化」の適切な活用を通じて社員の働き方の実態把握に努め、最適な働き方の実現に向けて、取り組みを進めていきたいと考えています。