導入前の課題
入電数は3倍まで膨れあがるも、対応する「人」や「場所」に苦慮
富士フイルムヘルスケアシステムズ様は、電子カルテを中心に医療機器とITシステムを連携するソフトウェアの開発を行っています。
システムサポート部では、様々なシステムに関する問い合わせの対応を行っていましたが、2年に1度ある『診療報酬改定』の際には入電数が通常時の3倍近くまで膨れあがることになり、対応に苦慮していました。
担当部長である高田様は当時の様子をこう振り返ります。「改定の際には都度、派遣会社に依頼をして、必要な人数を募集していました。ただ、ある程度の医療事務の知識が必要でしたので、なかなか集まらなくて……。早く募集をかけて研修すれば良かったのかもしれませんが、通常業務に追われて時間的にもコスト的にもそんな余裕はありませんでした」
普段からシステムの開発者が開発を終えた後、ヘトヘトになりながらも“そのままコールセンターの支援もする”という状態だったといいます。「かなり酷な状況でしたが、当時はそれでもやるしかなかったんです」と高田様は苦々しい顔で語られました。
また、“人”の問題だけではなく、“場所”の問題もありました。電話対応をするための執務室が全く足らず、会議室をすべて潰して一時的にコールセンターという形にしていたのです。「改定の度にインフラ工事を繰り返していたんですけど、社内からも『会議ができない』ってクレームが発生しまして……」と高田様は説明します。
加えて、本社である五反田をコールセンターにしていたこともあり、「賃料が高い所に構えるのはどうなのか」というコスト面での課題もあったといいます。そうして、経営陣からも「さすがにこれはもう無理だろう」という判断をされ、「次回の改訂からは外部に委託するよう検討しなさい」という話になったのでした。
しかし、外部に委託しようにも困難があったようです。高田様は次のように続けます。
「なかなか医療の業界でコールセンターをやっているという実績を聞いたことがなかったんです。自社のグループ内をあたってみても、一様に『できない』という回答ばかりで……」
困りはてた高田様でしたが、ふと“以前に名刺交換した会社”を思い出したようです。それが、パーソルビジネスプロセスデザインの前身である『ハウコム』だったのです。
「その昔、ハウコムさんから『医療のコールセンター経験がありますよ』と言われて、一度ご挨拶をしていたんです。当時は委託する予定はなかったんですが、探しはじめた時に『あ、そういえば』と思い出してコンタクトを取らせていただきました。名刺交換をしてから2年が経っていましたね」
取り組み内容
『医療業界のコールセンター経験がある』点と『BCP』が決め手に
コンタクトを受けたパーソルビジネスプロセスデザインは、すぐに営業担当と構築担当で伺いました。そして、富士フイルムヘルスケアシステムズ様の状況をお伺いしたうえで「問題なく対応できます」とお伝えし、受注することになったのです。
パーソルビジネスプロセスデザインに依頼することにした決め手について、高田様は次のように言います。「やっぱり“医療業界のコールセンター経験がある”っていう専門性の部分は他社にはない部分でしたので、そこが一番大きいですね。それと、スケジュール的にも全く問題ないところと、あとは対応いただけるのが宮崎のセンターだという点もポイントでした」
パーソルビジネスプロセスデザインがご提案したアウトソーシングセンターの1つは宮崎県にありましたが、宮崎は地震や水害も少なく『事業継続性』という観点でよく選ばれる土地でもあります。天災などがあっても事業を継続できるように、というBCPの側面も決め手の1つになったようでした。
立ち上がり当初は3名ほどが富士フイルムヘルスケアシステムズ様の拠点に伺い、スキルトランスファーを行っていきました。そうして、業務を宮崎アウトソーシングセンターに持ち帰り、電話対応をスタートさせたのです。
対応も、商品別に3段階に分けていったり、エリアを拡大して呼量のコントロールをしたりと、徐々に対応範囲を拡大していきました。ただ、『調剤システム』については苦戦を強いられました。他のシステムであれば医療事務の知識で対応ができたのですが、『調剤システム』については学ぶ手段が少ないため、立ち上げに時間が掛かってしまったのです。
しかし、いったん対応範囲を富士フイルムヘルスケアシステムズ様と調整しながら、最終的にはスケジュール通り移管することができました。電話対応を開始して9ヶ月目には、サポート対象の製品すべてを移管することができたのです。
移管当初のパーソルビジネスプロセスデザインの運用としては、意図的に属人的なものにしていました。やはり医療系の専門知識が必要になるため、医療知識を有している人や医療事務の経験者に電話対応をしてもらっていたのです。
しかし、経験者だけでの電話対応は仕組みとして長く続けることはできないため、『KCS※』に沿ったナレッジマネジメントへとシフトしていきました。
『KCS』とは、米国NPOサービスイノベーションコンソーシアムが10年以上の年月をかけ、多数の大手IT企業参画のもとに開発されたナレッジマネジメントのベストプラクティスです。
導入の効果
KCSとAIの活用で対応時間は33%以上も減少、応答率は3倍以上に!
KCSを活用したナレッジマネジメントにより、専門的で難易度の高かったコールセンター業務はどう変わったのでしょうか。高田様に聞いてみると、次のように回答いただきました。
「今までだと『電話を取って、終わり』の繰り返しでヘトヘトになっているのが日常でした。でも、パーソルビジネスプロセスデザインさんにお任せしたら、電話対応はもちろん、月次報告やコール集計からの分析、製品へのフィードバックまでいただけるようになりました。われわれ社員としては、だいぶ助かっていますね」
これまでも電話対応をした後には“コールログ”を書いていたようですが、会議は不定期の開催になっており、効果的な活用にはつながっていなかったようです。次に同じような問い合わせがあったとしても、そこを見ることは無く、「単なる問い合わせのログ」になってしまっていたのです。
しかし、KCSを活用したナレッジマネジメントでは、過去の対応が“ナレッジ”として蓄積されていきます。そして、同様の問い合わせがあった際には、そのナレッジを参照しながら対応しますので、迅速かつ的確な対応が可能になるのです。
「今まで、なかなか時間的に余裕がなくてできなかったところを、委託することによってきっちり構築いただけたのが、非常に良かったなと思います」と高田様は語りますが、富士フイルムヘルスケアシステムズ様としても、ナレッジを活用することに着手されました。内部ナレッジをお客様向けにも展開することで、『セルフヘルプ』として活用できるようにしたのです。
「問い合わせをいただくばかりでなくて、“お客様に自己解決してもらって呼量を減らそう”という取り組みですね。次は検索性を上げるとか、利用率も上げていく、というところを目指しています」
さらに、パーソルビジネスプロセスデザインのコールセンターも進化していきました。AIツールを導入してコール対応の効率化を図っていったのです。具体的には、AIツールによってお客様の対応をリアルタイムに書き起こし、そのデータに該当する回答をナレッジ内から検索して回答を表示させるというものです。
これにより、対応時間を大きく減少させることになりました。例えば、ある製品の目標対応時間が18分30秒だったところ、AIツールを入れることで15分に短縮。さらに運用変更などの工夫を重ねることで12分20秒まで減少させました。対応時間としては、目標から33%以上も減少することになったのです。
この取り組みにより、掛かってきた電話にどれだけ対応できるかという『応答率』が上がった、と高田様は声を弾ませます。「応答率が20%とか30%というのが当たり前になっていた時代もあったんです。でも、ナレッジを公開するとか、電話対応の皆さんが頑張ってくださっている結果として、今は3倍以上の90%前後になってきています」
このような変化について高田様は、「うちから無茶振りをすることがあるんですが、柔軟に対応していただいて助かっています。AIツールなどの活用についてもこちらから要望するというより、『こういうことをしたい』と提案いただけて、ありがたいですね」と仰ってくださいました。
さらに、「こういった先進的な取り組みは、おそらく業界内でどこもやっていないんですが、しっかりとユーザーの満足度向上にもつながっている自負はありますね」とも述べてくださいました。
そして最後には、「今後もますますDXを推進していって、弊社も御社もお客様もそれぞれWin-Winになる形でつながっていられれば、と思います。ぜひとも引き続きお願いしたいですね」と期待を寄せてくださいました。
お客様プロフィール
富士フイルムヘルスケアシステムズ株式会社
富士フイルムグループにおける“医療に特化したITソリューションを担う会社”が、富士フイルムヘルスケアシステムズ株式会社様です。診療所や歯科医院、調剤薬局などの経営にかかせない電子カルテ、電子薬歴システム、レセプトコンピュータといった医療情報システムの開発~販売~導入コンサルティング~アフターサービスまでをワンストップで提供されています。従来の医療だけではなく、地域・医療・介護・予防・生活支援で支える地域包括ケアシステムの構築を進めており、高齢化社会をむかえる現代の日本において大きく社会に貢献していらっしゃる企業です。
本社所在地 | 東京都品川区西五反田1-31-1 日本生命五反田ビル |
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設立 | 2000年(平成12年)12月 |
代表者 | 代表取締役社長 小原 順二 |
従業員数 | 961名(2021年4月現在) |
担当者コメント
当社でKCS運用が導入された当初から、富士フイルムヘルスケアシステムズ様の運用窓口ではKCSを実践しており、社内でも先駆的な活動を行ってきました。日々の運用で作成した内部ナレッジを外部ナレッジとしてお客様向けに展開することや、AIツールの導入等、よりKCS運用の効果を発揮するための活動をともに進めてまいりました。現在、次なるステップとして、内部コンテンツから昇華させたAI chatbotのリリースに向けて各種準備を進めております。今後も、ユーザー様の利便性向上を目指して双方で運用を進めてまいります。掲載内容は取材当時の情報です。